第7話「図書館に行くだけなのに、姉も妹もついてくるし、聖女の過去話が重すぎた」
日曜の午後。私は図書館に行く予定だった。
ただ静かに、本を読みたかっただけ。
それだけのはずだったのに──
「じゃあ私も行く。ユリカが本読む姿、見たいし」
「護衛として同行します」
「“本棚の影に座るユリカ”って尊すぎるんですけど!?」
……ということで、今日の図書館行きは、
姉・妹・聖女・ロゼッタ同行の、フルパーティとなった。
ユグナス大図書館。魔力封鎖構造によって、内部は静寂が保たれている。
館内には、魔導史、精霊工学、神学記録、文化図譜──
そして、一冊の棚の前で、私は足を止めた。
「ここって……なんか、懐かしいような……」
その瞬間だった。
「……やはり、覚えていないのですね」
後ろからフロリアの声がした。
「ユリカさんが、昔この棚で泣いていたのを覚えていますか?」
「……え?」
「あなたは、まだ幼くて。でも、誰もが話しかけられないような雰囲気で。
それでも私は、あなたの隣に座って、本を差し出した──その日から、私はあなたを──」
「ちょ、ちょっと待って待って! それっていつの──」
「6年前。あなたは“忘れたほうがいい記憶”だと思っているかもしれませんが」
彼女の言葉に、姉と妹がぴくりと反応する。
「ユリカに何かあったの?」
「フロリア、それってどういう──」
「……失礼しました。場所が、少し……早すぎましたね」
フロリアは静かに本棚の影に消えていった。
「……なあ、ユリカ。ほんとに、何も覚えてないのか?」
妹が、珍しく真剣な顔をしている。
「うん……いや、何かあったような気もするんだけど、夢みたいで……」
「私は知ってたら、先に言ってた。何も知らないのに……」
レグナがぽつりとつぶやく。
その横顔は、ふだんのヤンデレ魔王とは別人のように静かだった。
私は、とても不思議な気持ちになっていた。
この空間に、
“みんなが知っていて、私だけが知らない何か”がある。
それが、胸の奥をチクチクと刺してくる。
(……知りたい)
私は、図書館の最奥へと足を進めた。
誰にも、何も言わずに。
そして、その奥で。
「────ようこそ、“鍵持ちの少女”」
誰かの声が、私に届いた。