第6話「休日なのに3人から朝ごはんを差し出されて、私は無事じゃ済まなかった」
ユグナス市、土曜日の朝。
中立地帯とはいえ、空気はのんびりしていて、鳥のさえずりも聞こえる。
──のはずだった。
「ユリカ。おはよう。まずは私の作ったパンケーキを──」
「ユリカ!朝はおにぎりが正義でしょ!」
「ユリカさん、私は“神託のスープ”をご用意しました」
「多い!朝から供給が多すぎるの!!」
ベッドから起き上がる前に、私の目の前には朝食の三点セットが並べられていた。
「誰が一番に部屋に入るか」で争った結果、三人同時にドアを開けたらしい。
……おそろしいのは、それで全員納得してることだ。
「じゃあ、私のを一口ずつで……」「順番に並べる?」「私はユリカさんの口に運びますね」
「だれか正気の人いないの!?」
私はとりあえず、枕で顔を隠した。
朝食後。リビング。
私はようやく自由を得て、紅茶を飲んでいた。
……だが、その平穏も一瞬だった。
「ところで、ユリカさん。本日、午後のご予定は?」
聖女・フロリアが手帳を開きながら、聞いてくる。
「えっと……今日は久々に、自由時間にしようかと……」
「それはつまり、私たちと過ごす日、ですね?」
姉が微笑む。
「遊びに行くならどこ? ユリカの好きな場所、一応リストアップしてあるけど」
妹が鞄からノートを出す。
「誰か、“一人の休日”って概念教えて!?!」
最終的に、私は連れられて街へ出た。
「休日くらい、自分で決めたかった……」
けれど、意外と楽しかった。
カフェに入れば、姉がこっそり「ユリカのために」って花を注文してたり、
雑貨屋では、妹が真剣な顔で私の好みのハンカチを探していたり、
フロリアは……ずっと、少し後ろを歩いていた。
「……今日は、あまり出しゃばらないようにと、決めていたのです」
その表情は、どこか寂しげだった。
私はふと立ち止まって、彼女に声をかけた。
「ねえ、フロリア。次は、あんたが決めていいよ。どこ行きたい?」
彼女は、一瞬目を見開いて──そっと笑った。
「では、“思い出の図書館”に」
「……思い出って?」
「昔、ユリカさんと出会った場所です。もっとも、あなたは覚えていないかもしれませんが」
──えっ。
「詳しくは……そのときに」
午後の陽射しの中。
何かが始まりそうな予感がした。
だけど私はまだ、その意味を知らない。




