第4話「姉と妹が“誰と一緒に帰るか”で武力衝突した放課後」
ユグアカの放課後は、平和とは程遠い。
チャイムが鳴った瞬間、教室中にざわめきが広がる。
「ユリカ先輩!今日のご帰宅ルートは!?!」
「勇者領の使者が校門に陣取ってるらしい!」
「いや、魔王軍も待機してるって!あそこもう中立じゃないよ!」
「教員の護衛要請入れた方がよくない!?」
……と、ざわつく理由は、当然ながら私である。
なぜなら、今日は金曜日。つまり──
『どちらがユリカと一緒に帰るか』を決める、
週一恒例“姉妹デュエル”の日だからだ。
放課後。校門前。
魔王軍・勇者軍、それぞれの使者と部下たちが距離を取って対峙している。
生徒も教師も通れないため、校門は封鎖状態。
「ど、どうしてこうなった……」
私は鞄を抱えたまま、ロゼッタに引き止められていた。
「ユリカ先輩!本日は“生中継デュエル実況”の準備が整っております!こちらマイクです!」
「用意するなマイクを!!」
その横で、後輩男子がカメラの三脚を立てていた。
「先輩の逃げ場、ないですね……(尊い)」
そのときだった。
赤い閃光が空を切り、
レグナ(姉/魔王)がゆっくりと空から舞い降りてきた。
その姿は、周囲の生徒すら見惚れるほどの威厳──もとい威圧感。
「ユリカ。あなたは、今日こそ私と一緒に帰るのよね?」
「いやまだ何も──」
「ユリカを連れ帰るのは私だ!」
地を蹴って、ミリア(妹/勇者)が校門の影から跳び出す。制服の上に勇者マントを羽織っているのが恐ろしい。
「レグナ姉さん、昨日もだったじゃん! 連続帰宅権とかズルだからね!?」
「愛にズルなどないの。あるのは、正当な執着だけよ」
「怖いんだよ!!」
そして始まる、姉妹の口論──もとい、戦争前夜。
「今日は、魔力による詠唱対決でどう?」
「剣技三本勝負でいいでしょ!」
「詩の朗読でユリカをときめかせた方が勝ち、とかは?」
「却下!いや全部却下だから!!」
その横では、使者たちが準備を整えていた。
「姫様の魔力分析完了!現時点で13.7万リル、対勇者戦時比で112%!」
「勇者様、精神集中中!“見送りルートの最短記録”を更新予定です!」
もう、だめだ。
「先生ーー!だれか止めてーー!!」
「諦めろユリカー!もうこれはイベント扱いだー!」
保健室の先生が校舎の窓から叫んでた。
「ちなみに来週は“恋文による代理戦争”らしいぞー!」
「先生が煽ってどうすんの!?」
やがて、教師陣と校長の緊急介入により、
“ユリカを一輪車で校舎裏から脱出させる”作戦が実行された。
私はというと──
「……なんで私、こんな姿で……」
カートに座らされ、一輪車に乗せられたまま校舎裏の通用口へ。
案内は、購買部のおじさんだった。
「ほれ、ユリカちゃん。出発やで」
「この世界、いろいろ間違ってると思うんだけど……」
裏門を抜けて5分後。
私は夕焼けの住宅街を、帽子とマスクで完全変装して歩いていた。
「あー、静か……何も叫ばれてない……」
ポケットに手を入れると、ロゼッタから渡されたふせんメモが入っていた。
《もし今日の戦いを避けられたら、その記録は“奇跡”カテゴリに追加します》
いや、なんで私の日常がカテゴリ管理されてんの!?
ふせんの裏にはこうも書いてあった。
《P.S. おそらく姉と妹は、家にて第二ラウンドを準備中です》
──やっぱりこの世界、平和じゃない。