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第七章 未来

 結局あれから、一度も返事はなかった。

 ふゆきはいなくなってしまった。

 その事実を受け止めるのに時間がかかってしまったけれど。

 表に出さないようにしていたのに、アキ様は気づいておられて。

「なにかあったの?」

「……え?」

「君がどこか寂しそうなだから」

「……大切なものが見当たらなくなってしまって。でもいいのです。きっともう私に必要ないからどこかにいってしまったんだと思います。私にはもうなくても大丈夫だよねって」

「……君がそういうのならいいのだけれど」

 不思議そうに、それでも納得された様子で。

 アキ様は私のいうことをいつだって、アキ様なりに理解してくださる。

「アキ様。ありがとうございます」

 にっこりと笑う。

 この方と一緒にいると、ふゆきもいっしょにいるような気がして。

 ……もう記憶を見ることはないのだけれどね。

 記憶もなくなったわけじゃない。

 いつでも見ようと思えば見ることができるけれど。

 宝箱の一番奥にしまって、しっかり鍵もかけて。

 誰も触れることができないように。

 これはふゆきのものだもの。

 

 ねえ。

 ふゆき。

 わたし幸せだよ。

 わたしを特別だといってくださる方と一緒にいて。

 今日も、二重奏したの。

 アキ様のチェロ。好きだって言ってたよね。

 どんどん腕をみがかれていっているの。

 わたしもうかうかしていられないわ。

 とっても楽しいわ。

 お母様もかわりないわ。

 わたしの望んだものが手に入っているわ。

 これも全部ふゆきがいたからよ。

 ……でもね。

 ひとつだけ。

 ひとつだけ後悔していることがあるの。

 それはあなたの名前をあなたに呼んだことがなかったこと。

 わたし一度も呼ばなかった。

 あなたは呼んでくれたのに。

 だって。わたしだから。

 わたしのことを別の名前で呼ぶことに抵抗があったの。 

 たとえわたしでも呼ぶべきだったって思ってる。

 

「アンゼリカ」


 ああ。

 そう。


「はい。アキ様」


 そうよ。


 大切な人に。

 大好きな人に。

 特別な人に。

 名前を呼ばれるのはこんなにも嬉しくて。

 胸が高鳴って。

 安心して。

 名前を呼ぶことがこんなにも幸せで。

 心躍って。

 穏やかで。

 感情があふれ出ていく。


 ねえ。

 ふゆき。

 いまさらなのはわかってる。

 意味がないこともわかってる。

 それでも。

 何度でも呼ぶわ。

 たとえ返事がなくても。

 届かなくても。

 消えてしまったとしても。

 なんどでも。

 ふゆき。

 ありがとう。

 大好きだよ。


「お茶にしよう。今日も僕の仕事を手伝ってくれてありがとう。君のおかげでだいぶ片付いたよ」

「いえ。私にできることであればいたします」

 アキ様の淹れてくださった紅茶をお庭で楽しむ。

 一日一回必ずあること。

 この時間は二人だけの時間。

 お屋敷の方は誰も近づかせない。それがアキ様のご指示。

「アンゼリカ。君とは学園からの付き合いだけれど。君は変わらないね」

「まだまだ興味深い私ですか?」

「ああ。ふふふ。もちろんだよ。ずっと見ていたいと思う。これからも僕の横にいてくれるかい?」

「ずっと私を側においてくださいますか?」


アンゼリカの幸せと、ふゆきの幸せ。

どちらも叶いました。

ゲームでは結婚エンドまで。

その先はアンゼリカだけが知っていること。

彼女の幸せを願っています。

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