第六章 離別
アンゼリカ。
幸せそう。
よかった。
……。
前世でやりこんだゲーム。
私のお気に入りのエンドを迎えようとしている。
ルートは覚えていたものとは違ったけれど……。
アキ様と音楽室と図書室で会話を重ねていく。
その中で、楽器や本の話をしていく。
そうして趣味が合う中で、二重奏へと流れていく。
結構初期段階で二重奏になったから、いろいろとルートが変わった。
話をしていく中で。
アキ様が他人に興味が薄い事。
ジル王子とジエラ様といるときがアキ様らしく過ごされている。
その様子をみて、この方の特別になるのは難しいと悩む。
その上悪役令嬢の嫌がらせに対して、アキ様のお力を借りて、薬品の解析をして、生息地を調べて。
嫌がらせの実行犯であるクラスメイトと話をして。改心させて。
アキ様と一緒に罪を問う。
アキ様を思う令嬢の想いをくんで、赦すっていう流れで。
そんな心の広さにもアキ様は惹かれてって。
だから、告白の言葉は違った。
アンゼリカが不要だからっていう理由。
まさかそこにも惹かれてくれるとは思わなかった。
場所も。世界感も。ヒロインも。全部。
私がやりこんだゲームなのに。
一致するところが多いのに。
それでもここはまったく、そうではないんだなって感じてきて。
アンゼリカを幸せにするなんて思ってたけれど、そもそもアンゼリカの人生なんだ。そんなこと思う方が思い上がりで。
アンゼリカは私の記憶なんてなくてもこのルート攻略はできてただろうな。
それでも。
私にできることがあるならって。
アンゼリカは私を守ってくれたから。
前世の世界では、こういうゲームの世界に入るとか、転生とかって、出てきたあとの人格が主体になって記憶を頼りに幸せになろうとする。でもそこにあるのは前世の私であって、今世の私じゃない。私の存在を受け入れるのも拒絶するのも、アンゼリカ次第だった。
アンゼリカは私を受け入れてた。
私を生かしてくれた。
私を愛してくれた。
だから私は、アンゼリカの幸せを願った。
そのためにできることを。
それが私のアンゼリカのためにできることだって。
……ちがう。アンゼリカのためにしないといけないこと。
それもかなった。
アンゼリカはこのまま結婚して、アキ様の妻として。
これから生きていく。
アンゼリカ。
あなたの人生。
あなたの未来。
そこに私は不要だよ。
……。
…………。
あの日。
そう。
わたしが学園を卒業して。
アキ様との結婚式。
その日にあの子はいなくなった。
おめでとう。
そういっていなくなった。
……わたしがいなくなった。
あの日。
勉強しているなかで、唐突に知らないものが目の前に現れて。
どうしていいかわからなくなって。
気持ち悪くなって。
あの子はわたしが私とわたしを分けたと思っているようだったけれど。
あの子がしたことだ。
わたしが次に目を覚ました時には、もうそこにいたんだから。
わたしじゃない私がそこにいて。
でもなぜか安心した。
わたしじゃないけれど。
確かにわたしで。
あの子は、わたしが変わったと思っていたみたいだけれどそんなことない。
わたしは人に興味がないの。
わたしの幸せのために。そのことにしか興味がなくて。
わたしはわたしなんだよ。
間違いじゃないよ。
変わってないよ。
実際わたしは、そう考える人で。
わたしは私だよ。
アキ様への想いだってわたし自身のものだ。
あの子がいない今だって、こうしてわたしの横にいるアキ様をみて。横にいられる今に。
わたしはこころから幸せを感じている。
だからこの気持ちに嘘偽りはない。正真正銘わたしの気持ちだ。
あの子は私じゃなくてわたしなのに。
どうして?
どこにいったの?
ねえ。
答えてよ。
返事をして。
ねえ。
ふゆき