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5 わからない奴

 駆け寄ってくる初老の担任と他の男子生徒が、倒れてきた戸棚を持ち上げてくれた。


「二人とも、怪我は」


「私は大丈夫です。でも、こっちの人は」


 男子生徒は額から血が流れており、左腕も痛そうに抑えている。


 恐らく骨折はしていると思うけど、よくあの大きさの戸棚の衝撃を片手で支えようと思ったな。いや、単に反射的にか。


 担任が膝をつき、怪我をした男子生徒の背中に手を回す。


「よし、では私と保健室に行きましょう。他の皆さんは申し訳ありませんが騒がないで待っていてください」


「いえ」


 咄嗟に声が出た。


「⋯⋯私が連れて行きます。痛みはないですが、私も一応診て貰いたいので」


「そうですか。いや、なら私と三人で」

「自己紹介、途中でしたよね」


 どうでもいい事を私は言っている。その自覚がある。


 生徒が怪我をしているのだ。担任からすれば、自己紹介なんて些細なイベントは中断して、負傷した生徒の対応をしたいのだろう。


 だから、自己紹介の途中だから、なんて理由は的外れも良いとこだ。


「そうだ」


 負傷した男子生徒が、痛みなんて忘れたような声で、平然と喋り出す。


「俺の名前はジン・レイローグ。これからよろしく」


 周りを取り囲んでいた生徒は、ポカンと口を開けていた。

 当然、私もだ。


「⋯⋯レイローグ君、今はそんな事より早く保健室に」


 誰もが口にしたいであろ事を、担任が言ってくれた。


「いやでも先生、保健室行ったら自己紹介出来ないですし、行く前に済ませちゃおうと思って」


「⋯⋯⋯⋯」


 片膝をついている担任を見下ろすように、男子生徒はスっと立ち上がった。


「足は無傷みたいなので、自分で歩いて行けます。すみません自己紹介の邪魔しちゃって。続けてください」


 自分の言いたい事だけ言ったレイローグは、スタスタと左腕を抱えながら教室を出てい行った。


 そして、当初の目的を思い出した私は、小走りで彼を追いかけ、教室を出る前に私も自己紹介を済ませる。


「アルミィ・ハユです」


 そう言い残して、教室を出た。


 先程、目的という言葉を使ったけど、思い返してみればそんな大層なものじゃない。


 私はただ、レイローグとかいう奇怪な奴と、もう少し話してみたくなっただけなのだ。


 私が暗殺者を続けるにあたって、彼の思考を知る事はこの先の任務に僅かながらの変化が生まれるのではとういう、期待。


「待って」


 追いついた私は、レイローグの横に立つ。


「あ、良かった、来てくれて」

「え?」


 レイローグは、眉を下げて言う。


「颯爽と教室を出たはいいものの、実は保健室の場所わかんなくてさ」


 いつの間にか上がっていた心拍数が、すっと落ち着くのを感じた。


 本当に掴みどころのない奴。


「こっち」


 歩き出す。


 普通なら、入学式が終わったばかりの生徒が、保健室の場所なんて知ってるはずがない。


 でも私は知っている。校舎の見取り図。どこになんの教室があるのか全て把握している。


 それは、この学び舎で暗殺をするには必須の知識だから。

 そして、そんな事情を知る由もない彼は「博識だなぁ」なんて言いながら付いてくる。


 本当に、よく分からない奴だ。

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