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「第十四話」針金虫

 形あるものは有限であり、必ず其処には限界領域が発生する。


 翼ある存在はどこまでも飛べるわけではない、命ある存在は永久ではない……そう、少なくとも現時点において、物事に必ずつきまとう限界領域を逸脱する方法、またはそれを可能にする概念は存在しない。


 故にこの世のあらゆる事柄はある程度の予測と対策ができる。自分の身一つでそれが叶わないにしろ、なにか別の存在や概念の力を借りる……そんな地道な努力を積み重ねてきたからこそ、人間という存在は生態系を破壊するほどの力と数を手に入れたのだろう。


(化け物だ)


 ──そんな人間であるイフウは、目の前の戦いをそうやって表現した。


 目で追える、追えはする。しかし其処に「加勢」という考えは一切浮かばない。刹那の間に繰り出される連続拳、それを容易く相殺する異常な身体操作術、それを可能とする規格外の肉体。その絶技、生き物では決して有り得ない次元の戦いは、彼女が竜であることをイフウに思い出させるには十分であった。


 あらゆる武芸、人間の限界に精通したイフウだからこそ分かる。

 あの二体には、誰も敵わない。


「──はァ」


 白竜の周囲に、冷ややかで恐ろしい風が舞う。それは黒ずんだ氷の飛礫を従え、圧縮され……荒れ狂う嵐へと変貌していく。人間に止められるものでも、対抗できるものでもない。──そんな嵐を纏った拳が、突っ込んでくる。


「──ホムラ!」


 体が咄嗟に動く、放たれたその一撃はホムラを狙ったものだった。このままではやられる、させるもんか! 守る者としての矜持を胸に、圧倒的な力量差を見せつけられた事への絶望感は吹き飛んだ。──刀を握りしめ、ホムラの前に立ち、振り下ろそうとした時だった。


 ──何故、妖魔を助ける必要がある?


 その疑問が、刀を天に掲げたイフウの太刀筋を鈍らせた。そして同時にイフウの意識は戦いの場へ引き戻される……半端な構えで挑んだためか、一撃はもう懐に潜り込んでいたのである。


「あっ──」

「ちょっ……イフウ!」


 いいや、まだだ! 一か八か、呪いで身体を強化する! 先程のように制御できる自身はイフウにはなかった、あれを使えば命を削る……だが、ここで死ぬよりは何杯もマシだった。

 イフウは右腕に力を込め、呪いを体全体に回す。気持ち悪く……しかし力の宿る感覚が体中を襲った。──行ける! 決死の覚悟、掴み取ったイフウが刀を振り下ろす。


 ──其処には、とんでもなく眼を大きく開いた白竜がいた。


「……ッ」


 白竜はそのまま一撃を難なく避け、そのまま後方へと大きく下がった。気のせいだろうか? 先程の狂気的な喜びの中になんだか、怯えてるような感じがする……いいや、そんなことはありえない。


 しかし、見れば見るほど白竜の顔は怯えていた。


「……?」


 イフウは疑問に刃を乱されないように、呼吸を整えた。その様を食い入るように、また忌々しそうに白竜は見ている……まるで、先程までとは別人を見るような目だ。


「……えげつないことするね、ハクラは」


 そう言うと、周囲に冷たい爆風が吹き荒れた。視界を奪われたイフウは一瞬焦ったが、視界がひらける頃には白竜の姿はなかった。あるのは、それが残した幾つもの爪痕だった。


(逃げた……のか? 圧倒的にあっちのほうが優勢だったのに?)


 自分が加勢したからというのは考えにくかったが、頃合いを考えれば丁度その辺り……しかしイフウには、自分が盤面をひっくり返すような切り札だとは到底考えられなかった。


「……ホムラ、大丈夫?」

「……」


 振り返ると、其処には愕然とするホムラの顔があった。怒りでもない、驚きではあるが……どちらかと言うと悲しみ、失望に近いものである。イフウは思わずその表情にたじろぎ、何を言えばいいかが分からなかった。


「……なんで」


 ホムラは震える唇を必死に動かし、困惑するイフウに言った。


「なんで、イフウの中にアンタがいるの……?」


 正確には、その中に居る誰かに。


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