4/9『僕らが美術館へ行く理由』
かーさんからチケットをもらった。地元から三駅ほど離れた場所で開催されてる美術展のチケットだ。
新聞の購読申し込みをするとき、サービスでもらったらしい。
せっかくだし、勇気を振り絞って気になってる同じクラスの女子を誘ってみた。美術部所属で興味があるかなって思って……興味持ってくれたらいいなって思っていたら、好きな芸術家の個展だったようで快くOKしてくれた。
俺としてはデートのつもりでちょっと頑張ってオシャレしたんだけど、その子は違ったみたい。オシャレはオシャレだけど“デート”というより“お出かけ”に最適、って感じの服装。でも私服を見る機会なんてめったにないから、それはそれで嬉しい。
美術館だから会話はない。あっても超小声だけど、沈黙に困ることはないからありがたい。
展示室から出て物販で色々見つつ、さっき見た絵について喋ったりする。学校で会話するのとは違った感覚で、やっぱり俺、この子のこと好きだなぁ、って実感した。
隣接してるカフェで少しの時間お茶をして、なんだかすごく楽しくて充実した時間を過ごした。
家まで送るって言ったけど、知り合いに見られたら恥ずかしいって断られた。その子が降りる駅のホームでバイバイした。
できれば次の約束も取り付けたかったんだけど……なんかそういう雰囲気じゃなくて言い出せなかった。こういうとき、空気を読みすぎる自分の性格が恨めしくなる。いや、言い出す勇気がなかっただけなんだけどさ。
それでもいい時間だったことに変わりはなくて、チケットくれたかーさんにお礼の意味も込めてコンビニスイーツを買ってって渡したら、なんかニヤニヤされた。詮索されたらちょっとウザいなって思って、早々に自分の部屋に戻る。
晩飯までの間、次の誘いをするかどうか悩んでいたらスマホが鳴った。
ゃょぃ{今日はありがとー〕
ゃょぃ{行きたいなと思ってた個展だったから嬉しかった!〕
うぉ。好感触。
あー、こういうときってどうしたらいいんだ。なんて返そう。とか悩んでる間にタイミングを逃しそうで、浮かんだ言葉を打ち込んでみる。
〔今日めっちゃ楽しかった}きじ
〔また一緒にどっか行けたらいいね}きじ
うーん、なんか相手に委ねた感じになった。
送信画面を見ながらちょっと後悔してたら、少しあとに既読がついた。
ゃょぃ{そうだねー〕
ゃょぃ{機会があったら?〕
……なんか期待できなさそう。
と思いつつも、『なんかあったらまた誘うかも』ってちょっと逃げた感じで返したら、返信とかスタンプじゃなくて、メッセージにリアクションがついた。
よく見る笑顔の、顔だけの絵文字。
『読みましたよ』ってのと、『返信いらないよ』って意味なのがわかる。
さすがにこれ以上やりとり続けらんないなって、アプリを閉じた。
階下からかーさんの声が、夕飯の準備ができたと俺を呼ぶ。
「はーい!」
大声で返事してリビングへ。
たまたま点いてたテレビでやってた街頭アンケート。『あなたはどんな目的で美術館へ行きましたか?』
おぉタイムリー。
俺がいま聞かれたら絶対『デート』って答えるわー、なんて考えながら視てたら、『デートで来た』って回答の男女率、男のほうが多いらしい。それって完全片想いじゃん。せつねー。
あの子は今日美術館へ行った理由、なんて答えるんだろう。
気になってどうしようもなかったけど、ごはんはいつも通り三杯おかわりした。




