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3/11『山奥にいたのは……』

 山登りをしていたら、自分がどこにいるのかわからなくなった。

 うそでしょ、遭難とか嫌だよ。

 こういうとき、あんまりむやみに歩きまわるのは良くない、と聞いたような気がしないでもない。

 とりあえず天気が悪いわけでもないし、その場にしゃがみこんで周りを観察した。

 あたりは鬱蒼とした森林。太陽光は私の右斜め後ろから射してる。

 太陽が出てる方角、この時間だと東? 西?

 そもそも方角がわかってもどっち方面に向かえば元の道に戻れるかわかんないからどうしようもない。

 あぁー、このまま死んじゃったらどうしよう~。まだ初スイカも食べてないし、部屋もごちゃごちゃのまま出てきちゃったし……あっ! 愚痴ノート見られたらヤダ。絶対帰らなきゃ!

 無事戻れたらアレとアレとアレを真っ先に処分して……って考えてたら、近くで葉擦れの音がした。

「わっ!」

 驚いて声を上げたら、葉擦れの方向からも「わっ!」と声が聞こえる。……声。人⁈

 振り返るとそこにいたのは……パンダだった。

 この国の固有種ではないその動物が、山の中にいるのはおかしいのではないか。ということは動物園から逃げてきたってこと? え、警察に連絡。いやでもパンダって“わっ”って言わないよな。

 コンマ数秒で考えて、もう一度パンダを凝視する。

 パンダはこちらと同じようにその場に立ったままこちらをうかがっている。

「あのー」

 声をかけたらパンダがビクリと身体を震わせる。

「違ってたらごめんなさい。……着ぐるみ?」

 パンダは動かない。でも明らかに人の気配がある。

「あの、実は私、道に迷ってしまって……戻りかたとか、ご存じないでしょうか?」

 パンダはなにか考えて、スッと左手を上げた。その方角に、脱出への道があるということだろうか。

 藁にも縋る思いで聞いてみてよかった。

「ありがとうございます!」

 パンダに頭を下げて、示された方向に歩き続ける。陽が落ちかけたころ、懐中電灯の明かりが見えた。た、助かった!

「おぉ! あんた! 大丈夫だったか!」

「は、はい。え、捜索隊なんて、だれが」

「ん? なにを言ってる?」

「ん?」

「ん?」

「おーい、見つけたかー」

「いやー? 人はいたけど、犯人はいねぇなー」

「はんにん」

「おぉ、そうだよ」あとからやってきたおじさんが言う。「あんたこの山の中いたんか」

「はい……道に迷って……」

「その間、誰かに会わんかったか。この山ん中に、銀行強盗が逃げ込んでな。なんでもなんかの動物の着ぐるみを着てるらしいんだわ」

「え……」

「誰か見かけたってか?」

「いやぁ。でも道に迷ってたらしいわ」

「ありゃ。そりゃ災難だったな。この道たどっておりてったらふもとに着くから、そこ行きゃ駅もすぐだよ」

「ふもとのあたりにゃもっと人おるから、わからんかったら聞き。レシーバーで伝えといてやっから」

「ありがとうございます。お二人もお気をつけて」

「おー」

「ありがとなー」

 おじさん二人組と別れてふもとへ行く間にも、何組かのおじさんたちとすれ違う。レシーバーで伝わっているらしく、すれ違うたびに『道あってるよ』『もうすぐだよ』なんて声をかけてくれる。

 そうして無事ふもと駅にたどり着いたんだけど……そもそもの命の恩人の“パンダ”は、果たしておじさんたちが探している“犯人”なのだろうか。

 思い返してみれば確かに二本足で立ってたし、右手にはでっかいバッグ持ってたし、方向を指し示した左手には、鈍色に光るアレが握られていたような……。


 おじさんたち、お気をつけて……。


 駅そばで温かいきつねうどんをすすりながら、逃げるおじさん(?)と追うおじさんたちのことを思った。

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