3/9『頭上の数字』
私には脈が見える。
自分に対して“恋愛”の脈があるかどうか、が数字になって可視化されているのだ。いいじゃんって思うかもだけど、良くない。告る前からゼロパーて。頑張る気うせる。
好感度あげていくと数字もあがって、ちょっと恋愛ゲームしてるみたいな気持ちになるけど、生きてる人間そんなに簡単じゃない。
性別にかかわらず見えるから、同性の数値が高いとなんだか妙にドキドキしちゃう。異性愛者だからお受けすることはできないかもだけど、嬉しいのに変わりはない。
直接対面したときに見えるだけで、テレビとか写真とか、生身じゃない状態だと数字は見えない。距離が遠すぎても同じ。数字は出てるけど視力の問題で読めてないだけかも? でも双眼鏡で見ても、見えたことないんだよね。
相手と視線が合っているときの数字が一番信ぴょう性高くて、いままで付き合ってた人は大体70%前後くらい。私もきっと同じくらいなんだろうなぁと思う。
それから数字が上がったり下がったりして、50%を切るとお別れの時期かな? ってわかる。わかるからあんまり悲しくなれなくて、冷めてるって良く言われる。
そんなことないよ。数字が下がってくると悲しいし、努力しても無理だってわかるとすごくむなしい。
だからかな。恋愛に対してあまり積極的にはなれなくなった。最初の数値が高くても、下がっていくのが見えちゃうし、私にも“気に入ってもらおう”って気持ちがないから、下がる一方というか……それで上がってるの見えてもちょっと引いちゃうかも。贅沢な話だけどね。
身近な人にときめけなくなっていって、私の興味はいわゆる“アイドル”に向いて行った。
テレビで見て一目ぼれして、リリースされる作品は全部買って、番組も録画して、グッズも買ってファンクラブ入って……。
いよいよ生身の推しに会える日が来た。
倍率が超高いコンサートのチケットが当たったのだ。
スマホで表示されるチケットで、会場入り口で渡されるまでどの席なのかがわからない。
良い席だったらいいなと願いつつ、ここ最近で一番気合入れてオシャレして会場へ入った。
入場口で渡されたチケットには【アリーナ】の表記。えぇー、じゃあけっこう近いんじゃない? ってドキドキしながら指定された席を探していたら、目の前にステージが設営された場所だった。
うわー! 神席! ステージめっちゃ近い! 等身大で見えちゃうよ⁈
なんてウホウホしながら開演を待つ。遅いような早いような待ち時間が終わって、会場が暗くなった。
推しが所属するグループのメンバーが目の前に! うわー、これ推しが目の前に来たら、私どうなっちゃうんだろう!
意識の外に追いやっていた“数値”は“0%”。いや、うん、それはそうだと思う。いちいち見ないよね、好みかどうかとか。って少しがっかりしてたら、近くに来た推しが私が持ってるボードに気づいてファンサをくれた。目が合うその時……うええぇぇ⁈
推しの頭上に数字が見えた。
“100%”
ひゃく? ひゃく、ひゃくぱーって! 初めて見たけど⁈ えっ? どういうこと⁈
混乱しつつも推しをガン見。目線がそれると数字が少しずつ下がっていくいつもの現象も健在。
演出の都合で、推しは私の席とは反対側へ歩いて行った。
100%って、そういうこと、だよね……。
ペンラを振りながらも思考はさっき見た数字につきっきりだ。
もしかしたら見間違いかもしれないじゃん、って思うようにしたのに、ライブの後半でまた近くに来てくれた推しは私にファンサをくれた。頭上には変わらず“100%”の表示。
うそでしょ、嬉しい。
でも、“ファン”は“ファン”。そのままでいたらずっと同じ、近づくことはできない。客席からアピールしたって、それはただの“応援”だ。
客席とステージの上、物理的な距離は近くても、関係性は遠いまま。いくら数値が高いからって、どうすることもできない。
だからちょっと、なにか方法考えないと……。
とりあえず、自分を磨いてなにかの才能を見つけて、推しにお近づきになれるような自分になろう。
それから頑張ってダイエットしたりスキンケアしたりメイクの腕を上げたりして、推しの隣に並んでも自信が持てる容姿を手に入れた。
ネットで確認しつつ、合格者の活躍も目覚ましいオーディションに応募、見事合格した。
というのが、デビューしたキッカケです、なんて言えるわけもなく、適度にフィクションを交えたエピソードを使用し、新しく決まった映画のお仕事のインタビューに答えていく。
隣にいるのは、私の推し。
その頭上には、数字が表示されている。
”120%”
上限いくつなんだろうって知りたくて、私はもっと可愛く、推しに好きになってもらえるように頑張るのだ。




