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3/5『さんごと海』

 私の名前は“さんご”。3月5日生まれで――ってわけじゃない。

 パパが若いころに見たサンゴ礁に感動して、娘が生まれたら絶対に名付けようって思ったとか。

 可愛い名前なんだけど、なんだか勝手に期待されるらしくて、誕生日を聞かれて答えると「なんだ、3月5日じゃないんだ」ってガッカリされる。

 誕生日を教えてガッカリされる経験してる人なんてそうそういないだろうなぁ、と思いつつ、なんて答えていいかわからず苦笑して終わる。だからちょっと困る。しかも誕生日、“3月5日ではない”としか覚えてもらえないし。

 名前が嫌いなわけじゃないから不満もないけど、ちょっと釈然としない。

 ちなみに、小学校で掛け算を覚えたての男子からは『じゅうご』ってあだ名で呼ばれてた。うーん、短絡的。

 子供のころからの小さなモヤモヤが積み重なってきたなぁって感じてたある日、彼氏から旅行ついでにダイビングしないかと誘われた。

 海とかアウトドアとか好きなの知ってたけど、まさか潜るまでとは。

 でも、パパが体験して子供の名前にまでしたいと思ったサンゴ礁を、自分でも見てみたいと思ったから快諾した。

 ライセンスを取るために講習を受けて無事カードを取得。彼と一緒の期間に夏休みを取って、有名なスポットでダイビングデビューした。

 初めて泳いだ海の底。広がるのは一面のサンゴ礁。

 色や形の違ったサンゴの周辺を、カラフルな魚群が飛ぶように泳いでる。

 画像や映像で見るのとは全く違う美しさに、時間を忘れて夢中になった。

 船にあがったときの身体の重さとは裏腹に、心が浮き上がる。

 私の名前は、こんなに綺麗な景色が由来なんだ。

 これまでの人生の中で一番嬉しくて、一番感動して、一番この人と付き合っててよかったって思えた。誘ってくれてありがとうって、心から感謝した。

 この日を境に、休日の度どこかの海にダイビングするようになった。日本でサンゴ礁を見られる海は少ないけれど、それはそれで美しい世界が広がっている。

 そんなこんなでうっかりハマッて何度も潜ってうっかりダイバー資格とって転職してインストラクターになっちゃった私。

 “さんご”という名前をお客さんや職場の人から羨ましがられるようになった。羨んでほしかったわけじゃないけど、褒めてもらえると誇らしい気持ちになれる。

 そんな私の変化に彼氏もビックリ。

 近いうちに、ダイビングできる海の近くに移住して二人で暮らす予定。

 さんごって名前、付けてくれてありがとう、って空に向かって感謝した。

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