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3/1『未来メモ』

 僕の毎日はいつも同じ。変わったことなんてなにもない。同じ経路を行ったり来たり。

 “特別”を享受できるような変化を起こさない自分のせいだから、誰も、なにも責められない。


 朝起きて身支度を整えドアを施錠。エレベーターで共有玄関まで下りる。オートロックのドアを出る前に郵便受けをチラ見。いつもなにもないのに、今日は自分用のスペースから大きなチラシが飛び出ている。

 あれがあのままなのは気になる。

 蓋を開けなくても取り出せる、と引き抜いたら、上になにか乗ってたみたいでコトンと音が鳴った。

 底には一通の封書。

 宛名はないけどなんだか妙に気になって、結局開錠して封筒を取り出した。チラシは新築マンションの広告だった。封筒と一緒に鞄へイン。

 いつものバスに揺られながら、封筒を開けて中身を取り出すと、いつも僕が家で使っているメモ帳が出てきた。その日あったネガティブなことを書いて、その場で捨ててるんだけど……。


【気になってたあのカフェに寄れば良かった。】


 完全に自分の字。なんなら書いてるペンも特定できる。しかしそんなメモを書いた覚えはない。右下に書かれた日付は明日のもの。

(なんだこれ)

 裏にはなにも書かれていない。誰かのいたずら? にしては“自分が書いたメモ”すぎる。

 気になってたカフェって、あそこだよな。会社近くの、犬も入れるオープンカフェ。あそこでなにが?

 確かにいつも会社帰りに気になるけど入るの億劫だなってスルーして帰宅してる……。うーん、帰りに寄ってみる?

 とか考えていたのに、忙しさに紛れた思考は思い出されることもなく、いつもと同じように会社から直帰した。

 翌日。

 推しのSNSを見て「うっそ」と声が出る。いつも気になっていたあのカフェに、推しがお忍びで来てたみたいだ。ダジャレじゃなくて。

 うわ、じゃあ帰りに寄ったら遭遇できたじゃん。この程度の変装だったら絶対気づいてたし。

【気になってたあのカフェに寄れば良かった。】

 走り書きして手が止まる。慌てて鞄の中からメモを取り出した。

 一緒だ。一言一句、文字のサイズも、ペンのカスレも。

 じゃあやっぱりこれは……“未来の自分”からの手紙……やらずに後悔したことメモだ。

 だとすれば、もしかしたら明日の朝も郵便受けに……?

 昨日の自分に渡せるように、机の引き出しに入れてあった封筒へさっき書いたメモをイン。しかしこのあとどうすればいいかわからなくて、結局机の上に置いたまま寝た。

 翌朝起きると、そこに確実にあったメモがなくなっていた。きっと“昨日の僕”に届けられたのだろう。

 なんでこんなことが起こっているのかわからない。でも確実に“奇跡”が起きている。

 僕はその日から、夜書いたメモを封筒に入れて机の上に置くことにした。そうすれば、残念だったり後悔することもなくなるんじゃないかって。

 だけどやっぱり僕は僕だ。明日の自分からの忠告に対して行動を起こすこともなく、その日の夜やっぱり同じように同じ内容のメモを書いている。

 明日も明後日も、仕事が忙しい、疲れた、なんてのを言い訳に、同じ日々を繰り返すんだ。

 案の定、今日も郵便受けには宛名のない封筒が入っている。

 日課になったバスの中での開封。今日はなにを後悔するんだろう、と開いたら、メモには日付しか書かれていなかった。

 これって……なにも後悔するようなことがなかったってこと? 要は安定の日ってこと。だったらまぁいいか。

 特に代わり映えのない帰り道、駅前で宝くじ売り場を見つけた。小さなボックス型のやつ。その周りには、この売り場で何億円の当選が出ました! って派手な看板。

 閃いた。今日発表される数字選択式くじの当選番号を……いやまてよ、そんなメモ今日受け取ってない。でもいま書かなければ変わることもない。

 ネットで調べて書いたメモは翌朝にはなくなってたけど、昨日の僕には届かなかった? あ。日付だけ書かれていたあのメモか。

 どうやらそういうのは書いても消えてしまうみたいだ。なんだ、残念。

 ささやかな変化のキッカケを伝えることしかできない未来メモ。ちゃんと行動すれば、いまよりも充実した人生になるのでは?

 だけど僕は明日からのメモを受け取っても、昨日の僕となにも変わっていない。だったらもう、明日の自分になにも言わせないように行動するしかない。

 その日からメモを書かなくなった。代わりに、気になっていた資格の勉強を始めた。

 結局、どんな助言を受けたところで、自分で動かなければ変化なんて起きないんだ。

 後悔しない生き方を。

 メモに書いて、封筒には入れず手帳に挟んだ。翌日になってもそのメモは手帳に挟まれたまま。いつもの封筒ももう届かない。

 これからは、自分の力で後悔しない日々を過ごすと決めた。

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