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2/22『猫のお世話係』

 猫も走馬灯を見るのだろうか――。


「はい、では次のかたどうぞ~」

「は、はい、失礼します」

「はいどうも。そちらどうぞ」

 促されて椅子に座る。

「室戸カナさん、享年78歳。いまはー……」

「27、8歳の頃の見た目になっています」

「ふむ。この頃ね」

 向かいに座る受付係がパソコンを操作した。モニターを回転させて確認を取る。

「あ、はい、そうです」

「はい、確認できました。で、生まれ変わるのは先送りにして、こちらでお仕事する、と」

「はい。できれば、猫のお世話がしたくて」

「そう考えるきっかけはあったんですか?」

「はい。生前はずっと猫と一緒に暮らしてまして」

 カナが語り始めた。

 自分がどれだけ猫が好きか、どれだけ猫に救われたか、生前実際に保護活動に従事できなかったからせめて死んだあとに――と思っていたことなどなど。

 話しているうちに段々涙声になっていくのを自覚して、深呼吸した。

「なので、できれば」

「はい、わかりました。じゃあ哺乳類部・猫課に体験入社していただきますね」

「はっ、はい!」

 想像していたよりあっさり要望が通って少々拍子抜けしつつ、カナは猫課がある建物へ移動した。

* * *

「初めまして。猫課、教育担当の島根です」

「室戸と申します」

「哺乳類部のお仕事ですが、具体的にはですね、天に召された生き物たちを癒して元いたところへお戻しするのが、我々の役目です」

「はい」

「転生などに関してはまた別の部署があるのでね、下界で生き抜いた猫ちゃんたちを癒すことに全力を注いでください」

「はい!」

「じゃあまずは猫語の勉強から」

「えっ、猫語」

「当たり前でしょ? 人間語使うのは人間の都合なんだから。人間だって外国語を使い分けたりするでしょ」

「あっ、嫌なんじゃなくて、猫語、やっぱりあったんだって思って」カナが満面の笑みを浮かべる。「なんか猫同士でしゃべってるな~って感じるときあったんですけど、確信もてなくて。そっかー、やっぱあったんだ~」

「……もしかして貴女、猫オタク?」

「あっ……早口でしたか」

「えぇ。まぁそういう人年々増えてるんで、こっちでも。なので全然」

「すみません。この先もっと増えると思います」

「でしょうねぇ。まぁとりあえず、テキストお渡ししますね」

「はい」

 渡された本は、学生の頃に使っていた英語の教科書に似ている。

「まずは初級編。試験に合格したらさらに上、そのまた上、とランクが上がっていきます」

「はい」

 死してなお学ぶことがあるのだなぁ、とカナが感心しつつパラパラとテキストをめくっていたら、島根が口を開いた。

「室戸さんも猫がお好きで」

「はい。生前ずっと一緒にいました。代替わりはしてしましたけど」

「また会いたいと思いますよねー」

「そうなんですよー。でもいまうちの猫ズはみんな現世でお仕事中とかで」

「あら、それは残念」

「戻ってきたら会わせてもらえる手筈です」

「そうですか。楽しみですね」

「はい~。でもずっと一緒にいられるわけじゃないんですよね?」

「えぇ。こちらの世界でも“別れ”はつきものなんです。ただ、帰ってくればまた会える。あちらの世界では別れが訪れたら、同じ姿では二度と会えませんから」

「そうですね。それがわかってるだけでも、心に傷を負わなくて済みます」

「こちらへの配属をご希望なのは、やはり猫好きだからですか」

「それもあるんですけど、知りたいことがあって」

「ほう。差支えなければ教えていただいても?」

 島根の問いに、カナはまた泣いてしまわないように深呼吸をしてから話し始めた。


 実家から連れてきた猫と一緒に暮らしていた。その子が息を引き取る前、カナの手を揉んだ。まるで赤ん坊の頃を思い出したかのように。

「大人になってからは、やらない子だったんですよね。でもその時だけ……それで、人間と一緒で走馬燈が見えてたりするのかな? って思って、聞いてみたくて」

「なるほど……その理由は初めてですね」島根が少し楽しそうに笑った。「今日はあとは同じ部署の人たちにご挨拶して終わりにしましょう。明日からはそちらのテキストを使って、勉強していきます」

「はい、お願いします」

 カナはお辞儀をして、帰路に着いた。

* * *

「生きてる時とほぼ一緒だわぁ」

 用意された家の中を見て回り、感心する。

 違うのは猫たちがいないことくらい。寂しいけど、また会えるってわかるから待てる。

 私の“猫のお世話係”としての人生 (生きてないけど)はまだ始まったばかり。生きてるときにはできなかった猫への恩返しを、この先なにがあっても続けたい。

 もしまた生まれ変わって別の人生を送れることになったら、そのときは現実世界の猫たちを救いたいと思う。それまでは魂の修行をして力を蓄えるんだと、心に誓った。

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