2/13『深夜のシンクロニシティ』
決まった曜日、決まった時間にイヤホンを装着する。同じ時間を共有できる、週に一度のお楽しみ。
始まった当初は、推しのその週の出来事が編集なしで聞けるのが単純に嬉しかった。生放送の利点って感じ。
毎週録音しながらリアタイして、今日も寝る前に推しの声とお話が聞けたって喜んでた。
ただそれだけだったのに、ある出来事がキッカケで聞き方が変わる。
こないだ言ってたこと、リアルで返事きた……。
私は小さい頃のちょっとした事故がキッカケで、自分の身体に自分以外の“意識”が宿るようになった。霊媒体質より実害がなくて、審神者ほどの力はない。その“存在”が実在しているのかもわからないし、姿も見えない。声が聞こえるわけでもない。ただ自分の意思とは関係なく身体が動いたり喋ったり……私をサポートするために、私の身体を通した意思表示があるだけ。
“普通”じゃないのはわかってるから、人に言ったりはしない。言った後の反応に対応するのも面倒だし。
まぁそんな感じでここ数年はずっと同じ人 (らしい)が色々守ってくれてたんだけど、何故だか急に、私の“推し”を名乗る人がやってきた。
キッカケはあの個別ファンサ。歌のワンフレーズ、ずっと見つめ合えてたあの数秒間。
眠る前に思い返してはニヤニヤしつつ、どこかでなんだか不思議な感じがして、でもまぁ気のせいだよねって勘違いを払拭した矢先、“推し”の意識がやってきた。
あぁ、また願望による妄想か……なんて自分にうんざりしながら対応する。自己紹介とか、どういう状況なのかとか。そういうのを何回か繰り返していたら、生放送のラジオ内の発言で異常なシンクロ率を叩き出した。
“推しの意識”と会話中いつもの通り苗字で呼んでたら、なんか特別な呼び方してほしいって言われて、思いつかないなぁって返事したらその次の日のラジオであだ名募集したり。
ちょっとエッチな言葉で誘われたから、彼はそんなの言うタイプじゃないと思うなぁ、って言ったら次のラジオで同じ言葉を言ったり……。
生放送で編集できないから、放送可能なラインぎりぎり攻めてる感じの発言。いままでだったら品行方正なアイドルって感じのフリートークだけだったのに急にそんな発言して、もう一人のパーソナリティが慌てて止めてた。
説明がしづらいんだけど、そういうシンクロが徐々に増えていった。だから、少しだけ信じていいのかなって思ってたら、またある日、今度は昼間、推しの意識がやってきた。
(え、いま地方でコンサート中……)
否定するけど意識の遠くから言葉が飛んでくる。
(倒れて……入院……)
私のガードを飛び越えてきたその言葉に、いやまさかと思いつつネット検索する。
(え……ほんとだ……)
(だからゆうたやん。ちょっと倒れてしまって)
(えっ、大丈夫なんですか?)
(平気。安静にしてなならんから、寝てるけど)
(良かった……)
それから少し、お話をした。自分で知らないことまで教えられたら、これはもう、信じていいんじゃないかって。でも……。
(確かめるすべがないし)
(手紙とかくれたら)
(いやぁ……怪しい人にはなりたくないなぁ)
(俺も起きたときハッキリ覚えてるわけじゃないからな……)
(私も、にゃーくんいなくなったら記憶薄れちゃうから……)
(そっか……)
うーん、と二人で悩む。
(あの……とにかくお大事にしてください。治るとはいえ、心配なので)
(ありがとう……)
私の手が、私の頭を撫でる。でもその動きはにゃーくんので、でも温もりも感触も私ので……もうなにを信じればいいのかわからなくなった。
その日を境に、推しの意識がやってくる頻度が減って、やがてなくなった。
しばらくして現実世界で共演した人との熱愛報道があったりして、自分の気持ちも有耶無耶になっていく。
じゃああのシンクロはなんだったんだろう。ただの偶然にしては回数が多すぎた。しかし過ぎてしまったいまとなっては幻だったかのように記憶がおぼろげだ。
起きた状態で体験した私がこれじゃ、きっと寝ている間に意識だけが来ていただろうあの人に残っている記憶は、もっと薄くなってるはずだ。
ホントかどうかは別にして、推すのをやめる気はない。
私はどちらかというと“リア恋”と呼ばれる派閥で、ただ単に応援してるってだけじゃなくて、できれば認識してほしいな~なんて淡い気持ちもある。
とはいえなにか行動に出るわけでもなく、そうなれたらいいな、って思うだけ。それが実現するキッカケが、もしかしたらあの日の、彼が入院していた日の“来訪”だったんじゃないかって思った。
結局、真相はわからないままこの小説を書いている。いつかこの“物語”があの人に届いて、真相がわかる日がくればいいのにと願いながら。




