2/2『滅亡した世界の片隅で』
世界が終わってもキミのそばにいれたらいいな。そうすればきっとキミはボクのことを好きになるしかなくなって、きっと二人で幸せになれる。
たった二人きりの世界で、ずっと……。
「なんだこれ」
大佑は画面に顔を近づけ、凝視した。
画面に広がる美しい世界。
新しいメタバース空間かと思ったが違った。どこにも住人がいない。どうやらゴーストタウンのようだ。
手近にあったゴーグルを装着し、新規アカウント作成ボタンを探すが見当たらない。しかし気づいたらその世界に立っていた。
「おぉ、すげぇ」
歩けど歩けど生き物はいない。建物や設備は充実しているのに、使われた形跡も見えない。ただの観賞用かと眺めていたら、灯りが漏れる一軒の建物を見つけた。
ドアを開けて中へ入る。ぐるりと見渡した室内の様子から、どうやら【役所】らしいとわかる。
カウンターへ近づくと、チュインと音を立ててモニターが回転し大佑のほうを向いた。
『この街はただいまNonAdministratorとなっております。新規ログイン登録を行うには新しい管理者を……』
(へぇ……もったいない……)
画面に表示された世界地図や成り立ち、新規登録設定を閲覧し、大佑は笑みを漏らした。
* * *
「ん?」
エミは画面上部から現れた新着メッセージに目を留める。
『【ご招待】新規メタバース空間モニター募集』
なんとも怪しいタイトルにエミは眉を寄せる。
すぐに消そうと思ったが、送り主の名前を見て指を止めた。
* * *
「うわーすごいね。ここ全部作ったの?」
「まぁ……。でもまさか来てくれると思わなかった」
「だってねぇ、サークル内で一番才能がある人からのお誘いは断れないでしょ」
「そっか、ありがと」
大佑とエミは大学のゲームサークルの同期で、eスポーツの大会に参加するなどの活動をしている。
「最初は怪しいなって思ったけどね」
「ははっ。登録ありがとね」
「うん」
大佑は隣を歩くエミを気にし、歩調を合わせた。建物の先に見える空が綺麗だ。
「これからずっと二人きりでいられるなんて夢みたい」
美しい日差しに目を細めて言った大佑の言葉に、エミは首を傾げた。
「ずっとって?」
「キミがボクのことしか好きじゃないって思うまで」
「……なに言ってるの」
それまでの笑顔が消え、大佑を睨むエミ。しかし大佑は笑顔のまま振り返った。
「ボクね、ずっとキミのこと好きだったんだ。でもキミはボクのこと男として見てくれなくて。でもさ、ここでならボクの魅力をわかってもらえるかなって」両手を広げ、大佑が世界を見回す。「ここにいる限り、誰にも邪魔されない。だから……」
エミは手元にステータス画面を出して操作した。ログアウトのリンクを探すが、どこにもない。
「探しても無駄だよ。自主的には帰れないから」
「帰れないって、どういう……」
「そのままの意味だよ。ボクが許可しないとこの世界からは出られないように設定したの」
「そんな、そんなのできるわけ」
「できるの。ボクね、ここの管理者になったんだ。この世界の設定でね、そういうのがあったの。ログインも、閲覧も、ボクが招待した人しかできない。ログアウトも、ボクが許可しないと――って、どうしたの?」
大佑の笑顔の先に、エミの強張る顔。
「知ってるよね、私カレシいるの。連絡とれなくなったらきっと彼が」「こないよ、連絡なんて」
大佑が空中にモニターを出した。そこには、メッセの画面が表示されている。
〔ごめん、他に好きな人ができた}えみ
〔別れよう}えみ
toshi{嫌だよ〕
toshi{なにかあった?〕
toshi{一回会って話しよう〕
〔ごめん無理}えみ
そこでやりとりは途切れた。
「なにコレ……私こんなの……」
「セキュリティは、破るためにあるんだよ」
微笑を浮かべた大佑が、エミの手を取る。
「やっ……!」
振り解こうとしても力が入らない。
「個別ステータスも、管理者権限でいじれるんだって。すごいよねー。ここ誰が作ったんだろ」
エミが大佑を睨みつける。その目に浮かぶのは批難と、涙。
「大丈夫だよ。ボクはキミのこと、一生好きでいるから」
笑みを浮かべる大祐。しかしその瞳の奥にあるのは、深淵。
エミは掴まれた腕にかかる力が徐々に強くなっていくのを感じた。比例して膨らむ恐怖に、涙がこぼれる。
「泣かないでよ。大丈夫。絶対ボクのこと好きにさせるから」
大祐はエミを抱きかかえて立たせ、目線の先を指した。
「あそこがボクらの家だよ。現実世界で困らないように、ここでたっくさん仲良くなろうね」
エミの呼吸が荒くなる。顔色も悪く、いまにも倒れそうだ。けれど大祐は笑みを浮かべたまま言葉を続け、
「ほら、行こう? 新しいボクらの世界を作りに」
エミを抱えて歩き出した。




