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1/26『画面から推しが出てきた日』

 ん? なんだこのアイコン。なんか落としたっけ?

 ありがちな導入。創作だったらここからファンタジーな世界とかに転移しちゃったりするんだろうなーってニヤニヤしながらタップしたら、タブレットの表示が渦を巻いて中心に集まり、ビュオッと風を起こして画面から出てきた。

『はぁーい! こんにちはー!』

「ちっ、チユぴょん……⁈」

『そうだよー☆ あなたのアイドル、チユぴょんでーす♪』

 いまかなり課金してるアプリの最推しであるアイドルが俺の掌、スマホの画面の上で手を振ってる。

「え、どういう仕組み? 立体映像技術なんて搭載してないはず」

『Pさんこの前、【実体化装置】買ったでしょ』

「そういえば……」

 前回のアップデートで実装された【実体化装置】。リアルマネーでしか買えないアイテムで、それがあれば推しを実体化される、というものだった。

 アプデがあった4月1日当日のみ購入できる限定アイテムで、リリースされた日や五十万円という価格の高さから“エイプリルフールのジョークアイテム”だと言われていた。しかしそれはネットニュースがそう書いていただけで、公式からは特にジョークだとは発表されていなかった。

 俺はそのときたまたま競馬で大穴当ててあぶく銭を手にしてたし、課金イコールメーカーへの支援だと思っているから、サ終しないようにという願いも込めて購入した。

 購入時、やけに細かい規約がズラズラ表示されてかなり物々しい雰囲気だったんだけど、まさか本当だったとは……。

『その装置の力でねぇ、チユぴょんホントのカラダが手に入りそうなの』

「入り“そう”?」

『うん。いまからまた“契約”? してもらうんだけどー』

『その中の規約すべてを承諾していただかないと、本当の実体化は実現しません』

「うぉ」

 チユぴょんの説明を引き継いだのは、アプリ内でチユぴょんたちが所属するアイドルグループの有能マネージャー女史だ。ゲーム内ではチュートリアルでゲームの進め方を教えてくれたり、スケジュールなんかを管理してくれてる。

「規約とは」

『いまから画面に表示いたします』

 チユぴょんと違い平面の女史は画面の中に契約書を表示させ、内容を読み上げながら都度注釈も加えてくれた。

 要約するとこんな内容だ。

 推しが“実体化”すると、俺たちと同じように“生活”することになる。その生活の中で必要な住居や食料、施設はすべて契約者が自分で用意しなければならず、もちろんその費用も契約者負担になる。

 アプリの中では描かれなかった“人間として生きるリアル”も行う。要はトイレだったり病気だったり実際に歳を重ねたり、そういうリアル。

「じゃあ、いつか、死んじゃうってこと?」

『はい。しかしそれは、アプリのサービス終了と同じことです。みなさんとの関わりが一切なくなるわけですから』

「それは……そうか……」

 しかしデータが消えてしまうことと人の命が終わることは、意味合いが違うのではないか。

『さらに学生組を指名してくださった皆様には、成人組とは違った追加の規約もございます』

 彼女たちが暮らしていく上で困らないよう、学習指導を受けさせることが義務付けられている。

 他にも色々……リアルな世界でリアルな人間として生きていくための諸々を提供することを承諾しなければならなかった。

『契約違反のペナルティというようなことはございませんが、お守りいただかないと弊社の大切なアイドルたちが不幸になってしまいますので、どうかご理解ください』

 女史が画面の中で頭を下げると、チユぴょんも画面の上でぴょこりとお辞儀した。金髪のツインテールが揺れる。

『最後に、実体化のシミュレーションを行います』

 女史が端末を操作した。チユぴょんが画面の上から飛び降りると、手のひらサイズからプロフィール上の身長と同じサイズになって地面に着地した。

『契約が完了しますと、そちらのサイズで“実体化”いたします。もちろんこちらの契約は締結前に破棄することも可能です。ただし装置の購入代は返金できません』

 いかがいたしますか?

 女史が言った。

 俺は隣でピョコピョコ動くチユぴょんを見つめさんざん悩んで、決意した。


『Pさーん! チユぴょんレッスン終わりましたぁ☆』

 チユぴょんが画面の中で報告してくれた。

『プロデューサー、次のご予定は』

 女史が予定一覧を示す。

 俺はいつもと同じように、レッスンの予定を選択した。


 結局、実体化は思いとどまった。ロマンがリアルに負けたというか……女子中学生を育てる覚悟ができなかった。推しが成人組の誰かだったとしても、実体化はさせてなかっただろう。

 “人の一生”を背負うには、俺は未熟すぎた。

 残念だけど、ってチユぴょんが最後に握手してくれた。その手の熱や柔らかさを、俺は一生忘れない。

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