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1/12『いっぽんでも』

 郊外の庭付き一戸建てに引っ越した。元々住んでいた老夫婦が娘夫婦の家の近くに転居するとかでかなり格安の家賃。おまけに庭の家庭菜園で育成途中の野菜たちは好きにしていいって。

 なんていい方たち。

 好きな動画を流しながら憧れだった【庭の手入れ】をしてたら、半月程で収穫時期を迎えた。

 一番育ちのいい人参を抜いたら、たまにニュースなんかで見る人の形をした人参が「おぉー、まーぶしっ」喋った。

「!」

 思わず地面に投げつけたら、人参は華麗に宙返りして土の上に着地した。

「お嬢さん危ないー。折角育った脚が折れちゃう」

 人参は私を見ながら脚に当たる部分を手っぽい部位でさすった。

「ま、マンドラゴラ⁉︎」

「いえ、人参ですよ? 叫んでないでしょ? 抜かれた時」

「た、確かに」

「それに貴女生きてるし」

「そ、そうですね?」

「それにしても外の世界は明るいですね」

 人参は右手で顔を隠しながら辺りを見回した。

「え? どういう仕組み?」

「私は先住なされていたご夫婦と、貴女が育ててくださった、ただの人参です」

「い、生きてるの?」

「みな生きてますよ。人間の言葉を喋らないだけで」

 人参は畑や風景一面をぐるりと指した。

「……なるほど」

「みな収穫され食されるのを待っています。特に私たちは抜きたてが一番食べ頃」

「そうなんだ」

「電子レンジで温めてそのままお召し上がり頂ければと」

「と、とりあえず、人参は後日で」

「気持ち悪いですか?」

「いや、抜きたてが一番いいなら、抜いてすぐにレンチンしたい」

「なるほど」

 人参は二股に分かれた部分を器用に動かして歩き、収穫に適した野菜を教えてくれた。

「マンドラゴラでしたら食べれば不老不死、なんてこともあったでしょうけど、私は普通の人参なので~」

 いや、喋ってる時点で普通じゃないけど。

「ただβカロテンなどの栄養を摂って頂くことしかできないんですよね~」

「それで充分だけど……なんでそんな知識あるの?」

「貴女が良く聞かせてくださったので」

「あー、動画で?」

「そうです。土の中で聞いていました。人間界の知識はなかなか興味深いな、と」

 農業系の他に都市伝説的な番組も良く聞いてたから、マンドラゴラの知識も得たとか。

「内臓どうなってんの?」

「ありません。でも私は生きています。彼らもね」

「……食べづらいんですけど……」

「食べられるのが喜びです。食してください」

「会話しちゃうと、ちょっと無理……」

「そうですか。残念ですね。そのうち鮮度も落ちて、魂も抜けるでしょうから……まぁ美味しくはなくなっているでしょうけど」

 なんだかしんみりする私たち。

「ちょ、ちょっと待って」

 私はスマホを操作して【人参 鮮度 保つ】で検索した。どうやら冷蔵庫で保管すれば1ヶ月は保つらしい。

 というわけで提案してみたら、人参は腕を組んで身体をかしげた。ふさふさの葉っぱが地面につきそうに揺れてる。

「ようやく外に出たので、外で暮らしたいですねぇ」

「じゃあ保冷剤でも巻いてみる?」

 冷凍庫から出したそれを渡したら、人参は明らかにシャキッとした。

「おぉ、涼しい。これならしばらく大丈夫そうです」

「あとはお水とかかな」

 なんて、犬や猫のようにお世話してしまう。

 葉っぱの部分が重いからと切り取った。髪と一緒で切っても痛くないらしい。

 私が寝る時、人参も冷蔵庫の中で休む。起きて冷蔵庫を開けると、人参も起きて一緒に活動し、休む時は知識を得たいと言ってスマホやテレビを見て過ごす。

 そんなんしてたら愛着湧くじゃん、ってわかってたのに、短い命だからって要望にできるだけ応えていたら案の定だった。

 とうとうお別れの時になって、私は泣いた。

 最期のお願いに、と人参から「食べてください」って言われて、動かなくなった人参をチンして食べた。いままで食べてきたどの人参よりも美味しくて、また泣いた。

 人参は再生可能野菜だって知ってたから、多めに残しておいたヘタの部分を水につけたら、綺麗な緑の葉がぐんぐん伸びた。土に植え替えて大事に育て、いまではリビングを彩る観葉植物として活躍してる。

「おぉー、これが初代の私の身体」

「そう。人参って再生能力高いんだってね」

「だからこんなに早く次の身体に移れたんですかねぇ」

「なんだろうね。よくわかんない」

「私もです」

 そう。あの人参を食べたあと、人参の魂はしばらくして別の人参に宿って戻ってきた。記憶は魂が保有しているとかで、収穫後すぐに慣れた所作で自分で身体を洗いに行った。

「魂の再生回数は何回かわからないので、いつか戻れなくなるでしょうけど」

「うん、そのつもりでいる」

 お互い慣れたもんだねって笑い合いながら、また数週間後に食べるであろうその“身体”をどう調理しようか相談したりした。

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