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1/11『パカッとおじさん』

 キッチンカウンターにお供えしていた鏡餅が何もしてないのにパカッと割れた。そしたら中から小さいおじさんが出てきた。

 あまりの驚きにガン見してたらおじさんもビックリしてこっちをガン見してる。いやいや、あんたがいるほうが異常なんだけど⁈

 とはいえ、なんかのアニメで家の一角を借りて暮らす小さい人たちがいるっていうのがあったし、このおじさんもそうなのかも?

 にしては可愛くない。だってホントに普通のおじさんだ。お腹はぽっこり、ちょっと反り腰。頭部には白髪と肌色が入り混じってる。ベージュのポロシャツにこげ茶のスラックス。足元はちょっと緩んだ靴下。室内だから土足じゃないのがなんかリアル。

 っていうか、このおじさんが入ってたお餅食べるのイヤだなぁ。せめてもうちょっとこう、可愛い少年少女とか、イケメン男子とかだったらな……って考えてたら、そのおじさんは私を見つめて首を傾げ、空中でくるりと一回転した。

 華麗に着地したそのおじさんは、ヒラヒラのレースたっぷりなワンピースを身にまとった可愛い女の子になっていた。

「!」

 元おじさんの女の子はまた私を見て首を傾げる。これでどう? と言っているみたい。

 う、うんうん。

 大丈夫、可愛いの意味を込めて頷いたら、小さいおじさんだった女の子は満足そうにニコリと笑って、クローゼットの扉の隙間へ入っていった。

「あっ」

 慌ててクローゼットの中を見るけど、女の子はもうどこにもいなかった。


 あとからネットで調べたら、どうやらそのおじさんは【妖精】のよう。本当の姿は違うけど、おじさんの姿をしていたらそれを見た人間が笑ってくれたから、おじさんの姿で過ごしているんだとか。

 私が『おじさんじゃなぁ』って考えてたから、あの妖精は少女の姿に変身してくれたってこと? サービス精神旺盛な妖精だなぁ。

 また会えたらお礼を言おうと思ってるんだけど、意識してるとなかなか見えないみたい。

 あなたが入ってた鏡餅、あなたが割ってくれなかったら私一人の力で割れないくらい硬かったんだ。ありがとねって言いたいんだけど……そうだ!


 鏡餅を飾っていたあたりに、手作りクッキーと小さいカップ型のミルクピッチャーに牛乳を入れて置いてみる。妖精は、甘いものが好きってなにかで読んだことがあるから。

 朝出かける前にセットして仕事に行って、夜帰ったらどっちもなくなっていた。食べてくれたのかな? ってちょっと嬉しくなる。

 可愛いなと思って買った小さなクッキー型を使えるのが嬉しくて、毎週一回、一週間分のクッキーを作るのが習慣になった。妖精の分と自分の分、それでも少し余っちゃうから、職場に差し入れしていたら割と評判が良くて嬉しくなってバリエーションを増やしてみたりする。

 妖精用のトレイや食器も華やかにしたくて凝り始めて、せっかくだからって写真撮ったら誰かに見てほしくなってSNSで公開。そしたらそれも好評で、瞬く間に拡散された。そうなっちゃうと辞め時がなくて、背景なんかにも凝っちゃったりして。準備するのが楽しくなって、毎日の生活も明るくなった。

 ある日家に帰ったら、いつもはなかった一輪の花がトレイの上に置かれていた。近所の原っぱで良くみるシロツメクサだ。

「妖精かな? ありがとー」

 家のどこかにいるはずの妖精に声をかけたら、シャリーンと涼やかな鈴の音がした。多分返答の代わり。

 良かった、まだいてくれるんだ。

 シロツメクサを小さなコップに活けて、トレイの近くに飾った。うーん、見栄えがいい。

 食べ物は一日一回でお腹いっぱいになっちゃうみたいで何度も置くと残っちゃうから、今度は周囲でくつろげるように環境を整えてみる。ちょっとしたミニチュアハウスになったその一角の写真が大好評で、それがきっかけで新しい仕事が舞い込んだりした。


 鏡餅から出てきたおじさんを見ただけなのにこんなに生活が好転していくなんて、妖精が幸せを運ぶっていうの、ホントなんだ。


 時が経ち、私にも伴侶ができ、子ができ、孫ができた。

「ねー、おばーちゃん」

「なぁに?」

「これって食べていいのー?」

「ううん? これはね、うちに棲んでる妖精さんのだからダメよ~」

「ようせいさんー? いるのー?」

「うん、いるの。ずっとね、いてくれてるのよ」

 結婚したくらいから、私には見えなくなってしまったけど……。

「へぇ~。見てみたぁい」

「そうねー、妖精さんの気が向いたら、出てきてくれるかもねー」

「そっかぁ~。あっ!」

「え?」

「あのおじさん、ようせいさんのクッキー食べちゃった!」

「あら……」

 そうか、あの妖精、まだおじさんの見た目してるのね。

 ふふっ、て笑ったら、どこからか鈴の音が聞こえた。その音はどこか、嬉しそうだった。

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