【短編】究極の脳筋(異世界人)魔法使い、魔法を使わず魔法(物理)を使う
「おい、『異世界:ヴァルハラ』への適合者はこれだけか?」
それは、俺たちに向けて言われた言葉。
頭に直接・・響く言葉。
「ふん。まあいい。ステータスとチュートリアルをインストールしろ。」
「グ!うあああああああああ!!!」
突如として現れた、光る青い画面が俺の中に入っていき、
急に激痛がした。
「また、バグか。まあ、1人くらいなんとでもなるさ。」
バグ?それに異世界って・・・
痛え。痛え。痛え。
そんな事を考えている間に、俺は意識を失った。
☆☆☆☆☆
「ここは?」
ふと、目が覚めた。
寝ぼけた頭で辺りを見渡す。
北:大火山
南:極寒の地
東:俺を見る化け物
西:空飛ぶドラゴン(口を開けてこちらに迫って来る。)
「やべえ。」
俺は体を捻って、ドラゴンが口から出した火球を避ける。
しかし、避けた場所が悪かった。
先程、俺は東・に避けた。
そう。東に。
「しまった!!」
化け物をよく見ると、突然あの時の青い画面が現れ、
『チュートリアルエリア(LV1〜10)』
『生息モンスター: ドラゴン(LV90) ツノウサギ(LV1〜10)』
『ツノウサギ(LV1)』
『HP10/10』
『攻撃力10』
『防御力10』
『*`?*+P{*』
『ERROR』
と、沢山のウィンドウが。
しかも、一部バグっている。
今の状況は、迫るドラゴン(LV90)、迫るツノウサギ(LV1)。
考えろ、俺。脳をフル回転するんだ。
ーーハッーー
閃いた。
ーーウサギを倒して、秒で逃げるーー
これが、『高校のテスト全教科平均5点』の俺の頭が導き出した答えだった。
「ウラアアアア」
俺は叫んだ。
殴る。殴る。ひたすらに殴る。
そして漸くウサギを倒し、俺は逃げた。
走っても、走っても追いかけて来るドラゴン。
そして30分ほど逃げ回った頃。
なんとか逃げ切れた俺は、必死に今の状況を考えていた。
まず、謎の男の声。
頭に直接響いてきた、あの声。
あの声は言っていた。
『異世界:ヴァルハラ』への適合者・・・だと。
ステータス(仮)は言っていた。
ここが『チュートリアルエリア』だと。
この2つについて考えていた時。
ふと、思い出した事がある。
それは。
1つ目。『ステータスとチュートリアルをインストールされた事。』
2つ目。『俺のステータス又はチュートリアルはバグっているという事。』
そして、ここまで考えた時。
俺の口は勝手に言葉を発していた。
「ステータスオープン」
それは、大体のラノベで異世界に行き、ステータスがある世界で言われる言葉。
少しの希望を載せた、俺の言葉。
『名前:リュート』
『職業:魔法使い』
『LV:1(EXP1/10)』
『HP20/20』
『MP15/15』
『筋力3』
『耐久2』
『速度3』
『器用2』
『魔力5』
『幸運2』
『※LV10になるまでチュートリアルエリア脱出不可能』
ステータスの確認を終え、LVを上げる事を決意する。
「ドラゴンに食われるくらいなら、ツノウサギを倒す方が良い。」
「ウサギをあと9匹倒せば良いんだな。」
『お知らせ:ツノウサギを倒しました』
『お知らせ:経験値1を獲得しました。』
その後は、無我夢中でツノウサギを狩り続けた。
そして、日が暮れる直前。
『お知らせ:レベルアップしました。』
『お知らせ:スキル:杖術を獲得しました。』
『お知らせ:チュートリアル武器:【初心者の杖(耐久値無限)】を獲得しました。』
それから3日が経過した。
俺のLVは9。今から、ツノウサギ(LV9)にトドメを刺すところだ。
『お知らせ:ツノウサギ(LV9)を倒しました。』
『お知らせ:レベルアップしました。』
そんないつもの青い画面とは別に、赤い画面があった。
・・・嫌な予感がする。
『お知らせ:サーバーとの通信に失敗しました。再起動します。』
え?再起動?
『名前:リュート』
『職業:魔法使い』
『LV:10(ERROR)』
『HP100/100』
『MP200/200』
『筋力10』
『耐久10』
『速度10』
『器用11』
『魔力20(+2)』
『幸運10』
LV 2:『杖術』
LV 3:『鈍器熟練』
LV 4:『打撃強化』
LV 5:『棒術』
LV 6:『魔力強化』
LV 7:『MP強化』
LV 8:『魔力微増』
LV 9:『MP微増』
LV 10:『ERROR』
この画面が、段々見えなくなって・・・
ーーーブツッーーー
『お知らせ:再起動及び初期化・引き継ぎが完了しました。』
なんだ、とても嫌な予感がする。
「ステータスオープン」
1%未満の希望を抱き、ステータスを確認する。
ーー現実とは、非情なものだーー
『名前:リュート』
『職業:魔法使い』
『LV:1(10)(EXP0/100)』
『HP20/20』
『MP15/15』
『筋力3(+10)』
『耐久2(+10)』
『速度3(+10)』
『器用2(+11)』
『魔力5(+22)』
『幸運2(+10)』
LV ERROR:『杖術』
LV ERROR:『鈍器熟練』
LV ERROR:『打撃強化』
LV ERROR:『棒術』
LV ERROR:『魔力強化』
LV ERROR:『MP強化』
LV ERROR:『魔力微増』
LV ERROR:『MP微増』
俺は、LV1に戻っていた。
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「ウソ・・・だろ?」
俺は絶望していた。
せっかくLVを10まであげたのに、LV1に戻ってしまったからか?
ーー否ーー
ならば何故?
ーー解ーー
敵が、LV関係なく化け物になっていたからだ。
正確には、LVが分からないのだ。
ステータスには、こう表示される。
『LV ERROR』
と。
一撃一撃が命をすり減らす戦い。
しかも、相性が悪かった。
向こうは遠距離攻撃、近距離攻撃ともに問題なく使いこなし、
俺はというと、魔法使いなのに、魔法を1つも覚えられなかった。
「うおおおっ。いい加減、た・お・れ・ろ!!」
ドガッ!!
『お知らせ:ツノウサギ(LV ERROR)を倒しました。』
『お知らせ:レベルアップしました。』
『お知らせ:スキル:杖術を獲得しました。杖術は杖術に統合され、杖術Ⅱに変化しました。』
絶望の日から1ヶ月が経過した。
俺は、『LV10→LV1』になる事を数えなくなった。
日に日に凶暴になる魔獣。
毎日、神経をすり減らすように警戒を続け、
俺は過去最高と呼べるほど苛立っていた。
「ギャオオオ」
「るっせーんだよ!!少し寝かせろ!!」
杖を振りかざし、ブッ飛ばす。
「ったく、目が覚めちまった。」
ーー後から考えれば、この時はまだマトモだった方だろう。ーー
2ヶ月経過。
『お知らせ:レベルアップしました。』
『お知らせ:再起動します。』
多分、100回ほどのLV10とLV1を繰り返しただろう。
スキルは統合上限に達したようで、どのスキルも、『杖術Ⅹ(MAX)』のように、10がMAXのような表示になる。
そして、嬉しいこともあった。
統合されなかったスキルが、進化したり、派生したり、技を覚えたりした。
例えば、
『杖術Ⅹ』
L『杖術・真Ⅸ』
というように、少しだけパワーアップしたのだ。
それでも、ウサギにすら命をすり減らしているのだ。
まだ、安心して眠ることは無理なようだ。
半年が経過した。
全てのスキルがカンストした。
『杖術』
L『杖術・真Ⅹ』
L『杖術・極Ⅹ』
L『杖術・神Ⅹ』
L『杖の極意Ⅹ』
L『杖の真理Ⅹ』
L『杖神Ⅹ』
と、このように、全てのスキルが統合されてもⅩから増えず、進化もせず、派生もしない。
俺は文字通り、スキルを極めたようだ。
これからは、俺の実力は増えないかもしれない。
相変わらず、魔法は覚えられない。
俺はこれからどうなるんだろう。
ーー10ヶ月が経過した。ーー
とうとう、ウサギすら出現しなくなり、ドラゴンに追われる毎日。
ドラゴンは、魔法を打ち出してきた。
10ヶ月前の俺ならば、即死していただろう。
だが、俺は気がついたのだ。
ーー魔法が無理なら、物理で魔法を起こすまで!!ーー
「物理的風魔法 手刀・かまいたち」
俺は手を高速で振り下ろした。
ただ、それだけの動き。
しかし、何千何万とループした俺のステータスが物理を魔法にすることを可能にした。
『物理的風魔法』
それは、俺が編み出した、魔法・・・に見える物理攻撃。
俺は発見したんだ。
物理攻撃=魔法攻撃
の方程式を。
牽制のつもりの物理的風魔法は、ドラゴンを一撃で倒した。
「俺、強くなってんのか?」
ーーー実は、物理的風魔法は、ただの風圧だから、魔法防御も関係ない。ーーー
そのことにリュートが気がつくことは恐らく無い。
何故なら、彼は、究極の脳筋だからだ。
物理攻撃=魔法。
これは、そんな方程式を編み出した、魔法の使えない魔法使いが、
『物理攻撃を魔法に変換する方法の発見』という偉業を成し、後に大賢者と呼ばれる男の物語である。
ーーー余談だが、後に彼が大賢者と呼ばれる中、人々は彼に二つ名を付ける。ーーー
ーーー『究極に脳筋な物理的魔法使い』と。ーーー