3-3 そこから?
3-3
「・・・勝った」
頭部を岩で強打された戦士が動かなくなった。
伝説の勇者の仲間としてはあまりにもあっさりした死に様だが、あの頼りになる父親だってそんなものだった。
戦士が死んだことを確認して、ノアは倒れた。
地面に転がって空を見上げる。
戦士を殺したって、空の裂け目は塞がらない。
「うう・・・くそ、いてぇ・・・」
「どっかやられたのか?」
「いや、肩のやつだ。ゴリアテのやつ思いっきり振り上げやがった」
「ああ。後遺症の・・・正確には上がらないんじゃなくて、上がるには上がるけど死ぬほど痛いだったな。どっちにしても首を落とされるよりはマシだろ」
「すぐ治るだろ。こっちは長引くんだよ・・・い、つつ」
「それより、もう一仕事しなきゃだろ」
ノアはなるべく腕を動かさないようにしながら立ち上がる。
ゆっくりではあるが、淀みのない動き。
肩をかばいながら動くのも慣れたものだ。
「揺れるだけで痛い・・・だから使いたくないんだよな」
「・・・と言っても、勇者パーティー相手じゃ四天王に頼らざるを得ないだろう」
「そうだけどさ・・・そして、こいつも・・・」
ノアは頭を地面にめり込ませたままの戦士に手をかざす。
一度、痛み出すと肩から下で動かしても、関節が痛んだ。
火竜に焼かれた街のときと同じように、戦士の体からホタルの光のようなものが現れる。
「よし。回収できた」
「なにができる?」
「こいつギフト持ちじゃないのか・・・あの人間離れした力は斧の効果・・・」
「素でその筋力?」
「まさか。この斧の力らしい」
「じゃあ、俺が使ってもあの力が出せるのか」
「らしいよ。お前が使えばいいさ」
試しに、と黄金の斧を振ってみるシド。
剣術の練習と同じように、素振りをしてみる。
「ふむ。なんかダルいな・・・」
武器の重さ以上に疲れた。
筋力を強化する武器とはそういうものらしい。
なんの代償もなく使えるわけではないのだ。
「さて、次はどうすればいい?」
「他のターゲットの位置がはっきりしない限りは、みやすんどころを目指す・・・俺のギフトを維持するためにもな」
「なるべく目的地を目指す、という目的から外れない行動をする・・・だったな」
「やるにしても、路銀稼ぎくらいにしておく。忘れないでくれよ。死んじゃうからな」
「しかし、それで他の勇者パーティーと出会えるのか?」
「住民に目撃されたからな。通報されるさ」
「それだと残りのやつがいっぺんに来ないか? 集結される前に一人ずつ倒すのが作戦だったろ」
「見つからないよりマシだ・・・それに、恐らく、肝心要の勇者とヒーラーは動かない」
これも最初に説明しただろ、とシド。
「ところでさ、使い番ってなに?」
「ん? ああ。まあ、使いっ走りとか伝言係とかそんなんだ」
「なるほど。それで軍団長と会話したことがあるのか」
「なに?」
「そういう情報を回収した魂から拾ったから、すごくエライ人かと思ってた・・・なんだ、ただのパシリか」
「わるかったな、ただの平民」
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「なるほど・・・つまり、お前がヒーラーを殺せば、我が軍の目標を達成できるというわけか」
死者の魂を回収すると、その人間が持っていた記憶や能力を取得できる。
その能力はギフトだけでなく、例えば、料理や獣を屠殺するなどの技術も含まれる。
また、魂の力を放出して素早く移動したり、矢のように飛ばして攻撃することもできる。
「死者の魂の活用・・・さしずめ死霊術士ということか」
「問題はどうやって空まで行くか・・・鳥を殺したって翼は生えないんだ」
「それは問題ない・・・いや、あるけど、解決法はある。」
帝の御寝所に行けばいい、とシドは続けた。
「国王の娘であるヒーラーを誘拐し、帝の御寝所にて空を直す・・・今度こそ・・・」
「そして、ヒーラーを狙えば、必ず勇者が出てくる」
「具体的な計画は任せてもらおう・・・なに、うまくお前に勇者を殺させてやるよ」
「ところで、シドとやら、一つ教えてくれ・・・国王と帝って別なの?」
「そこからっ?」