3-1 喧嘩、売ってるんだよ
3-1
先だって、大きな内乱があった。
軍部の総司令が起こしたクーデター。
軍のほとんどが反乱軍側についた。
そこで、政権を預かる国王は、国家の象徴たる帝から賜った武器を持たせた少数精鋭部隊を作る。
それが勇者パーティーである。
勇者パーティーの断首作戦によりクーデターは失敗に終わる。
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戦士と警備兵たちは生き残った住民を風上にある小さな丘まで誘導した。
ノアとシドも警備兵を手伝いながら丘まで来ていた。
「ここまで来れば一息できるな・・・」
そう誰かがこぼすと、住民達はみなその場に座り込む。
「あんたらもありがとな。流れ者の冒険者かい?」
「まあな」
警備兵がノアとシドに声をかけてきた。
「これからどうなるんだろうな?」
「さあ・・・流れ者にはなんとも・・・」
ひとまず、隣の町に避難して。
それからどうなる?
住む宛も、働く宛もないのに。
「みんな、顔を上げろ」
ハリのある声が響いた。
みんなが声の主を、戦士に注目する。
「そんなに落ち込むな。大丈夫だ。生きてるんだ。明日があるさ・・・なっ」
戦士は近くにいた警備兵の背中をバシンと叩いた。
「は、はい。そうですね」
「ほら、みんなも立って。隣の町まで行こう。あとのことはそれからだ」
戦士が住民達の手を握って、立ち上がらせる。
先に立ち上がった住民もまだ座り込んでいる人たちを立ち上がらせる。
「あんた、本気でそんなことを言っているのか?」
「キミは・・・冒険者か?」
「違う。俺は粉ひき小屋のノアだ」
「・・・粉ひき小屋?」
戦士はノアから戦う人間の空気を感じ取った。
「この人たちがこれからどうなると思う? 明日があるなんて本気で言っているのか?」
男たちの多くは冒険者になるだろう。
そして、そのほどんどは一ヶ月もしないうちに死ぬ。
焼け出されて装備を買う金もない。
兵隊の訓練を受けたこともない。
そんな連中が、火を吐くトカゲや、武器を持ったサルや、角の生えたオオカミと戦う。
生き残れるわけがない。
女たちは体を売る、と言いたいところだが、今は買い手にも余裕がない。
やはり冒険者になる。
そして、結局、人の形をしたモンスターや、他の動物の胎内に卵を産むモンスターに使われることになる。
「大変動が起きなければ、ずっと平和に普通に暮らしていけたはずの人たちが、そんな怖い思いをしながら死ぬんだ」
「その話、今する必要あるのかよ」
「あるだろ・・・もっと早くするべきだった。反乱軍を倒す前とかに」
「なんの話だ?」
「善人面してんじゃねえよ。お前らのせいでこうなったんだろ」
「なんの話だっ?」
「喧嘩、売ってるんだよ。気付よ」
シドが戦士の背中を狙う。
槍で背中を貫こうとする。
しかし、シドが背中を突くよりも早く---
「うおっ」
戦士の斧がシドの刺突を叩き落とす。
追撃。
シドは槍で流す。
斧が地面を割る。
「この、バカ力・・・っが」
殴り飛ばされた。
シドはきりもみしながら吹っ飛ぶ。
「モード・火竜」
追撃をしかけようとした戦士にノアが火を吹きつける。
「ふっん」
戦士は斧の一振りで火竜の炎をかき消す。
「げぇ・・・」
「お前たちは反乱軍の残党なのか?」
「さっき吹っ飛んでいったやつはそうだけど、俺は違う」
「だったら、なせ?」
「世界がこうなったところを見ていたからだ」
「粉ひき小屋からか?」
そういうギフトを持っているのだろう、と戦士は見当する。
「あの現場を見ていて勇者が世界を壊したと思うのは八つ当たりだと思うが?」
「いやいや、勇者のせいで間違いないでしょ」
戦士の背後からシドが声をかける。
「もう立ち上がったのか。骨を砕いた手応えがあったはずだが、頑丈だな・・・」
「世界を救える立場とタイミングがあったのに別のことを優先した。勇者が世界を壊したのも同然だ」
「違う。あいつはただ大事な人を守っただけだ」
「違わない。少なくとも、騎士・貴族階級の人間はそう考えるべきだ」
「それで・・・そうだったとして、お前達はなにがしたい? なぜ襲ってきた?」
「知れたことを・・・我が軍の作戦目標は未だ達成されていない」
「なに? では、お前達はあいつを・・・」
「おしゃべりはもういいだろう? 住民たちならとっくに逃げたぞ」
「そうか・・・では---」
戦士が黄金の斧を構える。
大地を踏みしめ、いつでも飛び出せる構え。
「---全力で・・・」
シドは自分の槍が限界に来ていることを感じ、フットワークを刻めるよう浅く構える。
「殺してやるよ---勇者パーティー」
ノアが『力』を選択する。