2-2 勇者パーティーの戦士
2-2
「おいおい。燃えてるじゃねえか」
「警備兵はなにを・・・まあ、街の警備兵じゃ火竜はムリか・・・」
火竜が向かった方角にある街は、ノアとシドが着いたときにはすでに火の手が上がっていた。
街を覆う防壁のなかから無数の煙が上がっている。
まるで湯だった鍋のようだった。
不幸中の幸いと言うべきか、あちこちから悲鳴が聞こえる。
まだ全滅はしていない。
「行くぞ、シド。まだ、火竜がいるかもしれない」
「ところで、ノアよ。行くのはいいが、火竜を倒したら賞金は出るのかな?」
「この状況でそれ言う?」
「路銀は大事なことだろ」
「・・・ん? ああ、確かに。出るだろ。首を回収しないと」
「だったら問題ない。火竜の図体だ。大通りを進めば出会えるだろうさ」
二人は街の大通りを進む。
門から街の中心部へ続くまっすぐな道を走り抜ける。
逃げ惑う住民達とすれ違う。
妻をかばう夫。
子供を背負う母。
弟の手を引く姉。
彼らは今は生きているが、家も職も失ったのだ。
明日があるさ、などと今は言わない。
ノアとシドはこの火事の元凶を求めて石畳の道を走る。
「いたぞ。やっぱ、デカいな。ノア、ヤツを使う気か?」
「住民がまだ近くにいるんじゃ、危なっかしい」
「そのほうがいいだろうな・・・避けろっ」
ノアはシドに突き飛ばされて、通りの隅にあった側溝に転げ落ちた。
その頭の上を炎が通過する。
「シドっ」
側溝から這い上がる。
シドは盾を構えたまま、黒焦げになっていた。
防御は間に合ったが炎の勢いが勝ったのだろう。
盾の裏側まで火が回ったようだ。
「クソ・・・」
通りの先に火竜がいた。
ワニに似た顔がノアのほうを見ている。
蛇がチロチロとしたを出すように、火竜のクチの周りに小さな炎が上がる。
「モード・火竜」
ノアと、火竜が同時に火を吹く。
炎の渦同志がぶつかる。
岩にぶつかった水流のように、周囲に熱風をまき散らす。
「・・・アッツ」
ノアは炎の余波で怯んだが、火竜は平然としている。
「火力が互角なら、土台が人間な分こっちが不利・・・魔力放出っ」
石畳を砕きながら、家よりも高く跳ぶノア。
火竜の尾がノアの後にあった屋家を薙ぐ。
この二つが瞬きの間に起きた。
火竜の炎が飛び上がったノアを狙う。
「---火竜」
ノアは炎で相殺する。
しかし、ぶつかり合った炎の起こした熱風に煽られる。
空中でバランスを崩し、民家の屋根に墜落した。
「っ・・・てて・・・キツいな、クソ」
幸運にも周囲よりも背の高い建物だったので落下の勢いは強くなかった。
しかし、不幸にも石造りの建物だったために、体を強く打ち付けた。
「どうする? 切り札、使っちまうか・・・」
火竜の炎を手に入れたときに使った力。
「勝てはするけど、そのあと俺が住民を襲ったらヤバいよな・・・ダメだよな、それは・・・」
しかし、このままでは勝てない。
ノアの思考は同じところをグルグル回る。
どうすればいいのかわからない。
こういうとき、所詮、自分は戦う人間ではないのだと思い知る。
もともと、そういう身分の人間ではないのだ。
誰かに相談したかったが、シドはまだ黒焦げのままだ。
「使う・・・マシなやつを使う、といのは・・・」
格としては同じ。
火竜との相性としては下がる。
しかし、比較的扱いやすい。
そういう『力』もある。
それを使うのが、一番いいように思えた。
「やるか・・・モード・四天王・剛将ゴリア---」
雷が落ちたようなすさまじい音が響いた。
火竜がシドに突き飛ばされたノアのように、街路沿いに並んだ家屋に突っ込む。
なにかに---誰かに殴り飛ばされたのだ。
「な、なんだ・・・誰が・・・まさか・・・」
家より大きい竜
それを殴り飛ばすことのできる人間、できる可能性がある人間を知っている。
「まさか、ヤツが来たのか・・・ヤツが・・・」
火竜が立ち上がる。
殴り飛ばした誰かに向かって炎を吐く。
その誰かは武器を一振りしただけで、火竜の炎をかき消した。
ノアは見た。
街を焼き払った火竜を前に悠然と歩を進める男を。
炎を切り裂いた黄金の武器を。
その武器は斧だった。
槍のようにながい柄のついたバトルアックス。
「あの時、見たとおりだ」
ノアは思い出す。
瓦礫の下で見た光景を。
そのとき、脳に刻みつけた敵の顔を。
「あいつは勇者の・・・」
---勇者パーティーの戦士。