1-3 燃える街
1-3
「ふう。食った食った」
「よし。尻尾は集めたな。みんな、帰るぞ」
冒険者達は街に向かって歩きだす。
「よう。あんちゃん、ノアだっけ? 今日は助かったよ」
冒険者たちが話し掛けてきた。
最初は新入りで、フードで顔を隠したノアを不気味がって話し掛けてこなかった。
だが、メシを食い終わるころにはすっかりなじんでいた。
「しかし、少しカミさんとチビどもにに悪い気がするな。向こうは腹空かせてるだろうし」
「あんた、家族のために?」
「ああ。ちょっと前まで畑を持ってたんだがモンスターに焼き払われてな」
最近ではよくある話だ。
家族が無事な分マシ。
・・・と思ったが、口には出さなかった。
「まあ、モンスターの肉は役得ってもんだぜ」
「そうだな・・・ところで、あんたらは街に残ってくれるのか」
「いや、また流れるつもりだ」
「そうか。いてくれると助かるんだが・・・」
森を抜けた。
木々がなくなったので、遠くまで見える。
「お、おい。なんだよ、あれ・・・」
煙が上がっていた。
たき火や、のろしじゃない。
真っ黒な煙が空を埋め尽くさんばかりに上がっている。
「街の方だぞ」
誰かが叫ぶと、みんなが一斉に走り出した。
「なんだよ。なんだよ、これ」
確かめる前から分かっていたが、燃えているのは彼らの街だった。
警備兵の詰め所が、酒場が、宿場が、みんなの家が燃えていた。
「誰かっ。誰か生きているやつはいないのかっ」
ダンが叫ぶ。
しかし、誰も反応しない。
「これは一体なんだ?」
「シド、こいつは火竜の炎だ」
「ノア、分かるのか?」
「ああ。同じもの持ってるからな」
「くそ。俺たちが出ている間に」
「また俺と同じ犠牲者が出ちまったな」
「ああ。畜生。母ちゃん、チビども---」
さっき話し掛けてきた冒険者が燃える建物に向かって走り出した。
「よせっ」
ダンが止めようとするが一手遅かった。
妻と子供のために戦っていた冒険者は炎に呑まれた。
「畜生っ」
「ああ。俺の家が」
「くそ、くそ。なんでこんな・・・」
サラマンダーの群を始末してきた冒険者達が泣きながら崩れ落ちる。
「なんなんだよ。なんでこうなるんだよっ」
誰かの叫びは、全員の心の声だった。
彼らのほとんどは一度、家か職を失って冒険者になるしかなかったものたちだ。
普通だったら、訓練も受けていないのに冒険者になった彼らは死ぬはずだった。
だが、運良く、ダンという指導者を得られて暮らしも落ち着いてきた。
その矢先の大火事だ。
炎を見たとき、最初に家を失ったときの無力感、虚無感、精神的な疲弊がわき上がってきた。
「なんでだよ。なんでだよ」
「大変動のせいだ。モンスターはあの日、空に現れた亀裂から出てきた」
「そんなことは・・・」
「わかってる。わかってるよ」
ノアは街に向かって、手を広げた。
甘えてくる子供を迎え受けるようなポーズだ。
すると、街のあちこちから炎とは違う光があがる。
それはまるでホタルの光のような弱々しくも美しい光だった。
それがノアのところに集まってくる。
「お前達のことも連れて行くよ」
「ヤツはなにをしているんだ?」
「あれがノアのギフト。死者の魂を集めることができるんだ」
冒険者たちの間に、不思議な気持ちが湧いた。
死者の魂がこんなに集まってくる。
きっと自分たちの知っている人たちは死んでしまった。
失望と---安堵。
死者の魂を集めるノアがなにか尊いものに見えた。
冒険者達はそれぞれの故郷で、墓の前に立つときのものとされているポーズをとった。
あるものは手を合わせた。
あるものは拳を心臓の上に置いている。
「俺はこの魂たちに誓う」
「俺はこの惨劇の原因に必ず落とし前をつけさせる」
「これを引き起こした原因----」
「----勇者を必ず殺す」