1-2 サラマンダー退治
1-2
サラマンダーとは火を吐くトカゲである。
狐くらいの大きさ。
力はそこそこ強いが、早くはない。
盾持ちがいれば、そこまで難しい相手ではない。
「なのに、依頼人が騎士様、この人数。なんか臭いよね・・・ダン、あんたはどう思う?」
「シドって言ったな? なかなか使える男みたいだな」
「そういう勘が働くのはあんただけか?」
「まあな。ここいらの冒険者はみんな大変動のせいで仕事を追われた素人ばかりだ。俺が仕切ってなけりゃとっくに全滅してる」
シドは集まった冒険者達を見た。
装備も貧弱なら、体も貧弱。
中にはガタイのいいものもいるが、筋肉の付き方で武道ではなく、力仕事でついた筋肉だとシドにはわかった。
装備は盾を持っているものと、槍を持っているものが半々。
サラマンダー対策の基礎通り盾持ちと、攻撃役を分ける編成。
問題は盾が木製だということだ。
そいつを湿らせてなんとかしようとしている。
金属製を持っているのはシドだけだ。
「あんたのことは頼りにしてるぜ」
冒険者たちは街から出て森のなかを進む。
住民からは危険だから深入りするなと言われている場所だ。
「そろそろ目撃証言のあった場所だ」
冒険者たちは身を低くする。
周囲の茂みに隠れられるように。
「いたぞ」
茂みの向こうにサラマンダーの群が見えた。
「多いな・・・8,9,10」
こちらは十三人。
ダンとはシド一人で盾と槍を持っている。
盾持ちと槍持ちのコンビが5。
それと、役に立つのかわからないノア。
同時に相手にできるのは七体。
残り三体は・・・。
「やるしかねぇ・・・いいか。一斉にかかるぞ」
冒険者たちが装備を構える。
「いくぞぉぉぉおおおお」
ダンの号令で一斉に飛び出す。
あちこちで炎が上がる。
冒険者たちは盾持ちを前に、サラマンダーに突撃していく。
盾持ちに迫られたサラマンダーが逃げようとしたところを槍で突く。
ダンとシドはそれを一人でやる。
背後を取られなければなんとかなる。
全員、生きて帰ることができる。
「残りはっ」
ダンが叫ぶ。
この先方では三匹あぶれる。
こいつらに後を取られると、誰かが死ぬ。
「もう終わった」
ノアだった。
貧相ななりのやつが多い冒険者たち。
そのなかで、特に貧乏くさい格好をした男の足下に三匹のサラマンダーの死体が転がっている。
「お前・・・どうやった?」
「さあな・・・そんなことより、これで全部なのか?」
「わからん。野生の生物だ。正確な数はむこうもしらんだろ。倒した分だけ出来高払いだ」
冒険者たちは倒したサラマンダーの尻尾を切り取っている。
倒した証拠品にするつもりなのだ。
「さて、俺も・・・みんな、伏せろっ」
次の瞬間、二人の冒険者が炎に呑まれた。
「くそ。まだいたのか」
炎が飛んできたほうを振り返る冒険者たち。
盾持ち達は前に出る。
事前に打ち合わせたとおりにやれば勝てる、と言い聞かされていれば素人でもそれくらいはできる。
しかし、そこで固まった。
あり得ないものがいた。
「でかい・・・」
通常のサラマンダーは狐くらいの大きさ。
しかし、目の前のそいつはクマよりもでかい。
「こいつがいたから騎士様がわざわざ依頼に来たわけだ。ダンは知ってたか?」
「知ってたら受けてねえよ」
「だろうな。正義の正規軍様はいつもこうだ」
「逃げるぞ」
ダンの声を受けて、冒険者たちが一斉に走り出す。
巨大サラマンダーは追ってこない。
ただ口を開ける。
「やばい。火が来るぞ」
盾を使うことを考えるが、ムリだ。
さっきまでのとは明らかに火力が違う。
死ぬ。
そう思ったとき、ノアが巨大サラマンダーに向かって走り出した。
「なんのつもりだ死ぬぞ」
ダンが叫ぶ。
サラマンダーが火を吹く。
その火がノアに迫る。
「モード・火竜---」
ノアが焼かれる。
全員がそう思った瞬間、ノアがサラマンダーと同じように火を吹いた。
いや、同じではない。
明らかに、ノアが吹いた炎のほうが強い。
ノアの火は、サラマンダーの火を飲み込んで、その体さえも焼いた。
「な---」
ポカンとするダンと冒険者たち。
「最初から使えよな」
と訳知り顔のシド。
「お前---ギフト持ちなら最初に言えよ」
「悪いな、ダン。初対面のやつには言わないことにしているんだ」
「ああ、そうかよ」
イライラしているのがわかる口調だったが、ダンは一応納得した。
自分の能力を言いたがらないギフト持ちは多い。
そんなもんだと思っている。
「そんなことより、せっかくの大物だ。食わないか?」
「いいね」
退治したモンスターを食べるのは冒険者たちのなかでは珍しくないことだ。
今は牧畜が難しい世の中。
モンスターは貴重な肉なのだ。
「よし。モード・ジェフ」
ノアが懐から短いナイフを取り出す。
サラマンダー退治には頼りないが、肉を切り分けるには十分だろう。