1-1 酒場の二人
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それは少々、風変わりな二人だった。
一人は槍と盾、最低限胴を覆う鎧。
一人はフードのついたボロボロのマントをかぶっている。
一見すると、いかにもフリーの冒険者、傭兵、賞金稼ぎだという風体だ。
だが、なにかが違う。
数多の冒険者を見てきた酒場の主だから気がついた小さな違和感。
「シド、そっちの棚にあるソースを取ってくれないか?」
マントの男が言った。
「ノア、自分で取れ」
鎧の男が言った。
マントの男がノア。
鎧の男がシドと言うらしい。
「いや、高いところは・・・」
「ああ・・・そうか。わかったよ」
シドが棚においてあった共用のソースをノアに渡した。
これだ、と店主は思った。
鎧の男は一見して、過去に騎士階級だったことがわかる。
なんらかの理由で没落して野にくだったのだろう。
一方、マントの男はどうみてもド平民だ。
没落してもそれらしく振る舞うのが騎士というものだ。
明らかに平民な男にソースを取ってあげるというのはなかなかない。
そう思うと、フードがなんだか不気味に見えてくる。
関わらんとこ。
酒場の店主はいつもどおり無関心を装うことにした。
「よーっ。みんな、揃ってるな」
にぎわっている酒場のなかでも、店のすみずみまで届く大声。
ここいら一体の冒険者たちの顔役扱いされている大男、ダン。
「仕事を持ってきてやったぜ」
ダンは鎧を着こんだ剣士をつれている。
こっちは正規の騎士様のようだ。
「こいつが今回の依頼人だ。内容はサラマンダー退治。人数は多いほうがいい---やるヤツは?」
飲み食いしていた男たちが一斉に手をあげる。
さっきのダンも手を上げる。
ノアは・・・。
(なにをやってるんだ、アイツは?)
ノアは手を上げていると言えばあげている。
上げていないと言えばあげていない。
腕を肩の位置まで上げて、まっすぐ伸ばしている。
「見ない顔だな?」
ダンがノアとシドに声をかける。
「ああ。最近、流れてきたシドってもんだ。こっちはノア」
「お前は・・・元反乱軍か?」
「まあ、そんなところだ」
「そっちの妙なポーズのやつは?」
「ポーズは気にしないでやってくれ。昔の怪我のせいで肩が上がらないんだ」
「こいつが盾持ちで、あんたが槍を?」
「どっちも俺が使う」
「じゃあ、こいつは荷物持ちか?」
「いや、ちゃんと戦闘にも参加するよ」
「ふぅん・・・ま、足だけはひっぱんなよ」
ダンは店内を一周して、人数を確認した。
「よし。出発は明日の昼だ。この店の前に集合しろ」
ウース。
と、だるそうな返事があちこちから上がった。