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その時までは好きでいてもいいですか?

『あの、あの、大晴くん。ホノカの思考は本来の基礎プログラムから逸脱しているかもしれません。この場合、速やかに壱成博士の指示を仰いで、適切な処理をするべきだと思います。けれど、その、大晴くん』


 慌てる彼女に彼氏は何と言えば良いのか。

 そのくらいは僕だって分かる。


「ホノカ。ゆっくりでいいよ。ゆっくりさ、話を聞かせてくれるかな」

『あ、あぅ。すみません。ホノカもこの感情を上手く言語化できなくて。えっと、ゆっくりでいいんですよね。じゃあ、順を追ってお話します』


 それからホノカは語った。

 本当に望まれるカノジョ1号に課された本来の使命と言えば良いのか、彼女の根幹、基礎プログラムについて。


 使用者の『本当の幸せ』を叶えるために寄り添うことが、彼女の目的だと。


 まず、僕には色々と合点がいったと言う思いが最初に去来した。

 ホノカが小早川美海、彼女を熱心に推して、僕と一緒に行動させたり。

 三次元的な言い方をすれば、僕とくっ付けようとしていたのは、そういう訳だったのか。


 気付いていたのかとは、同士諸君も心外なことを言う。

 さすがに、あれだけ露骨に色々とされたら、僕だって思うところはあったとも。


 初めは「自分の姉妹みたいな存在だし、大事に思っているんだな」と考えていたが、日頃のホノカの言動と美海に関する発言をひとつひとつ積み重ねていけば、自ずと答えにたどり着く。


 お忘れかもしれないが、僕は研究者の息子である。

 事象の積み重ねから物事の本質を量るのは得意なのだ。


「何となく気付いていたよ」

『ほわぁっ!? そうだったんですかぁ!? ホノカはその事に全然気付いていませんでしたよ!? 大晴くん、ひどいです!!』


「だって、ホノカも何か考えがあっての行動なんだと思っていたし、何より大好きなホノカのやる事を頭ごなしに否定したりしたくなかったんだ。結果的に、ホノカが色々とやってくれていた事も、全部が僕のためだった訳だしね」


『むぅ。……大晴くんは、時々ズルいです。そんな風に言われたら、ホノカだって、結構思うところがあるんですよぉ?』


 僕は「ははっ」と笑って、適切な返事を探す。

 割とすぐに見つかるのだから、今日の僕はデートを通してモテる男にジョブチェンジしているのかもしれない。


「その思った事を、僕は聞きたいんだよ」

『あぅ。その、恥ずかしいですけど……。でも、ちゃんと言いますね』


 蛍の淡い光に照らされた、ホノカの告白が始まった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



『わたしは、大晴くんに対して愛情を持っています。もちろん持っているのですが、それは一般的な言い方をすれば、母性に近いものでした』

「えっ!? ちょっとそこは想定外だった!! 僕はお母さんに恋愛してたの!?」


 ここまで頑張って形成して来たモテる男の仮面が剥がれ落ちた瞬間だった。

 確かにホノカからは、そこはかとないバブみを感じる事があったが、まさかそれがガチの母性だとは露も思わず。


 狼狽うろたえる僕を見て、ホノカは『あはは』と笑う。

 彼女も気付けばいつもの調子に戻っており、どうやら僕たちは真剣な話をする時にも雰囲気は変化しないカップルのようだった。


『ちゃんと最後まで聞いて下さいよぉ! 母性からスタートした大晴くんに対する愛情ですが、すぐにエラーが検出されたんです。壱成博士も困っていました』

「そう言えば、やたらとメンテナンスしてたね。親父も仕事をしていたのか」


 仕事をしてる感を出すために、小学生が無理やり書いた読者感想文みたいな妄言をラボに送って給料を泥棒しているものだと思っていた。


『あのですね、わたし、ホノカは。大晴くんの事が異性として大好きになってしまっていたのです。これは、本当に望まれるカノジョ1号としては深刻なエラーです』


 言葉を挟むべきではないと考え、僕は静かに首を縦に振る。

 ホノカも嬉しそうに顔をほころばせて続ける。


『ホノカは美海さんも大好きです。大好きな大晴くんと、美海さんが幸せになれたら一番ステキだってずっと思っていましたし、今もその考えは変わりません』


「そっか」


『でも、でもホノカは、大晴くんの事を好きになってしまいました。この感情を修正する方法は現状ではないそうです。つまり、ホノカは本当に望まれるカノジョ1号としては欠陥品になってしまったのです』


 穏やかに彼女の言葉を聞くに徹する構えの僕でも、否定すべきは否定する。


「ホノカが欠陥品だなんて、そんなことあるもんか! 親父がつまんない事を言うなら、今日で親子の縁を切ってやる!!」


『ダメですよぉ。壱成博士は、ホノカのエラーについて黙認してくれています。ラボへの報告も、いつも異常なしと申告してくれているんですから!』


 お父様。僕はこれまで失礼な勘違いをしていたのかもしれません。

 今頃、ワカメのカップ麺を食べているでしょうか。

 明日からは、どん兵衛に格上げします。これまでの親不孝をお許しください。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ホノカは一旦言葉を区切って、大切な宝物を差し出すように、少し控えめ目に、それでもハッキリと言った。



『大晴くん。ホノカは、大晴くんの幸せを一番に考えています! けれど、ホノカは大晴くんの事が好きです! 大好きです!! だから……。だから、その時が来るまでは、あなたのことを好きでいてもいいですか?』



 僕の返事は決まり切っていた。

 二次元最高、三次元最低と息巻いていたのに、結局どっちの次元でも僕はスタートラインに立ってすらいなかったのだ。


 ならば、今日からでも立って、どれだけ先頭と離されていても、しっかりと地面を蹴って前に進めばいい。

 僕のペースで。


 僕たちのペースで。



「じゃあ、今日から改めて、僕とホノカは恋人同士だね。言っておくけど、僕から離れる気なんてさらさらないから、覚悟しておいてね?」



 蛍たちは疲れたのか、いつの間にやら草木に戻っていた。

 だけど、僕にとってはホノカが住まうスマホの光が、何よりも優しい輝きに見える。


 覚悟を決めたら、有言実行。

 長い長い恋愛のレースに、遅ればせながら参戦しよう。


 答えが出るまで、何年だって。

 これはなかなか長丁場になりそうである。


 さあ、忙しくなってきた。

「面白かった!」

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