手を繋ぐ適切なタイミングとは
動物たちとのふれあいを終えた僕は、「三次元でも動物は可愛いよね」と再確認して、ウサギとモルモットに別れを告げた。
カピバラは僕には見向きもしないくせに、小早川さんにはすり寄ると言う男女差別をしたので、さよならは言ってやらない。
「さあ。だいたい見て回ったかな」
「え。あぅ。まだ、全然見てないよ?」
今日の小早川さんは表情がコロコロ変わって面白い。
ついからかいたくなるのも人情と言うもの。
学校ではクールなヒロインなんて大層な二つ名で呼ばれているけど、僕に言わせると小早川さんは普通の女子。
それどころか、ガチオタだし、出来ない事は多いし、すぐ僕を頼って来るし。
むしろ、普通の女子よりも親しみやすいまである。
とてもクールなヒロイン様とありがたがる気持ちにはなれない。
「冗談だよ。順路通りに進んで良いかな?」
「むぅぅ。来間くん、今日はいつもよりいじわる。もうヤダ。帰る」
「ああ、そう? 僕はもう少し見てから帰るよ」
「もぉ。普通はちょっ、待てよ。って言って、私の手を掴もうとしたらおっぱいに手が当たるラッキースケベまでが一連の流れだと思う。来間くんは普通が分かってない」
「多分、小早川さんの普通が通じる人は世の中に極わずかだね」
「そんなことないもん。来間くんには通じてるもん」
頬を膨らませる小早川さんを見ながら「確かこの子の頬っぺたは柔らかかったから、良く膨らむはずだ」と納得していると、ホッキョクグマの展示場所が見えてきた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
8月の上旬と言えば、真夏である。
ホッキョクグマは名前に北極と付くくらいだから、北極生まれブラジル育ちみたいに、込み入った複雑な家庭の事情でもなければ暑さには弱いだろう。
「ああ……。うちの親父がよくああやってるよ」
飼育員さんが差し入れたであろう平らな氷の上で、ホッキョクグマは伸びていた。
完全にうちで飼っている中年と仕草が重なって、なんだかやるせない気持ちになった。
『じゃあ、じゃあ! 壱成クマさんの前で記念撮影しましょう!!』
「うん。良いけど。今度はホノカも入ってよ」
『ほえ? でも、ホノカはカメラのシャッター係を……』
「それは僕がやるから。小早川さん、スマホ出してくれる?」
「あ。うん。分かった。来間くん、頭いいなぁ」
小早川さんがスマホを胸に抱く。
ホノカは僕のスマホと小早川さんのスマホを行き来できる。
おわかりいただけただろうか。
『むーむー。そこまでされると、ホノカも断れません! では、美海さんのスマホにお邪魔します!! でゅわっ!!』
こうして小早川さんのスマホにホノカが移動すれば、スリーショットが可能になる。
これは3人のデート。
ならば、記念だって3人で残さなければ。
「はい、撮るよ。笑ってー」
「はい。来間くんが笑ってないのはおかしいと思います」
「僕は今、大爆笑しているよ。これが笑顔なんだ」
『大晴くんが笑ってくれないと、ホノカは悲しいです……』
女子アナウンサーばりに口角を上げまくり、見事な愛されスマイルを披露するのに迷いなど一切なかった。
「ふふっ。来間くん。変な顔になってる」
「失礼だな。全力で笑っているんだ」
『あはは! 大晴くんは彼女にとっても優しいステキな彼氏さんです! むーむー!!』
やる気のない夏バテホッキョクグマと、僕の狂気じみた笑顔を取り除けば、美少女が2人もフレームの中に収まっている。
こんな事象が起きるのは、もはや天文学的数字の確率だろう。
さらに動物園探索クエストは継続する。
水の中から頑なに出て来ないフンボルトペンギンを眺めて、小早川さんと同じアメリカ育ちのプレーリードッグが穴に潜る姿を見つめた。
その先に控えているのは、ホノカお気に入りのレッサーパンダである。
ここはテンションを上げていかなければならないだろう。
「ホノカ! レッサーパンダだよ! ほら、見て! ラスカル! ラスカル!!」
僕がレッサーパンダとアライグマを混同していると思った同士諸君には、反省文の提出を求めたい。
いつから僕をおとぼけキャラだと錯覚していたのか。
ここのレッサーパンダの名前がラスカルなんだから、しょうがないじゃないか。
レッサーパンダの名前はお母さんのラスカルと、お父さんのアンドレ。
あとは子供たち。名前が書いてないので、何と呼べば良いのかは不明。
この区画の飼育員さんにオタクがいるな?
ラスカルとか、ラスカルからオスカルが派生してのアンドレとか。
割と妙齢のオタクとお見受けした。
『ほわぁぁぁ! 可愛いですねぇー! 知ってますか、2人とも! 立つ姿で一世を風靡した風太くんがいますけど、実はレッサーパンダって意外とどの子も立つんですよ! 骨格や習性が影響しているみたいです!!』
「ほほう。こいつらも立つかな?」
「ね。ちょっと見てみたいな」
レッサーパンダの知能が意外と高いのか、それともサービス精神が旺盛なのか。
アンドレくんがやって来て「おう。よう来たのぉ」と言わんばかりにすくっと立った。
「ホントだ。すごく自然に立つなぁ」
「可愛い。ね。ホノカちゃん」
『そうですねぇー! これは癒されますぅー!』
ひとしきりラスカルとアンドレファミリーを満喫したところで次に行こうかと話していると、ホノカが言った。
『ところで、デートですよ! デート!! ならば、手を繋がなくては! ね、大晴くん! 美海さん!!』
割ととんでもない提案だった。
デートだからと言って、そんな杓子定規に手を繋ぐ必要はないんじゃないかなと論理的な抵抗を試みた僕だったが、右手になにやら小さな手が伸びてきた。
「あ。これは、ホノカちゃんが言うからだもん。仕方なく、だよ?」
その表情で言葉を発するのは重大な規律違反ではないのか。
返す言葉を探しているうちに、僕の手は小早川さんの手によって侵略されていた。
「面白かった!」
「続きが気になる!」
「更新されたら次話も読みたい!」
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