ホノカの基礎プログラム
その夜、異変が起きた。
ホノカが『ちょっと遊びに行って来ますね!』と言うので、「また小早川さんのところかぁ。なるべく早く帰って来てね」と僕は不承不承で頷いた。
出かけていく瞬間に彼女が言う。
『あ、今日はですね、牡丹さんのところです! 行って来まーす!!』
今、なんと?
守沢のところへ行くって、そう言ったのか?
確か、ホノカってマーキングした端末にしか移動できないんじゃなかったか。
守沢の薄汚れたスマホにいつ!?
記憶を巻き戻す僕。
どこか、どこかで見落としている事がある気がする。
「ああ! あの時か!!」
独り言の範囲にギリギリ収まるかどうか絶妙な声量で僕は叫んだ。
今日の部活の時! 僕が小早川さんのディディーコングにボコられていた時!!
確かにホノカは、守沢と話をしていた!!
あの泥棒猫め! うちのホノカをたぶらかしおって!!
くそ、すぐにでもホノカを迎えに行きたい。
けれど、夜中に三次元の家を訪ねて行く常識のない行動が僕には取れない。
相手の親御さんに何て言えば良いんだ。
説明している間に朝になるよ!!
お、落ち着け。
こんな時は、自分で冷静になったつもりでも、思考能力は精彩を欠くもの。
よし、頼りになる先輩に電話をしよう。
僕の決断は早かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
一方、守沢の家では。
「おっつー! ホノカちゃん、ようこそー! あたしのスマホにホノカちゃんがいるのって、なんか不思議な感じー!!」
『えへへー。お言葉に甘えて、早速遊びに来ちゃいましたぁ!』
「部活の時に言ってたもんね。美海ちゃんに聞かせられない話があるって。それはもしかして、来間にも聞かせられないヤツ?」
『牡丹さん、さすがです! 口が堅くて信頼できる人に、お話を聞いて欲しくて……。ご迷惑じゃないですかぁ?』
「ぐぅぅぅっ! この上目遣いは! なるほど、来間の気持ちがちょい分かったよ。あたしで良ければ、全然聞いちゃう! プライバシーも保証するよん!」
『ありがとうございます! 実はですね、ホノカの基礎プログラムについてなのですが』
「ふむふむ」
◆◇◆◇◆◇◆◇
1分が30分に感じられる。
とりあえず、僕は高虎先輩に電話をかけた。
『やあ、大晴くん。どうしたの?』
「すみません、高虎先輩! ちょっと今日はそちらの都合を伺っている余裕がないので! 助けて下さい! とんでもない事になりました!!」
『ど、どうしたの!? まさか、親父殿が倒れたとかかい!? 落ち着いて!』
「あ、大丈夫です。親父が倒れたくらいでこんなに慌てたりしませんよ」
『親父殿が実に不憫だよ。それなら何事かな? 大晴くんがこんなに慌てるという事は、さてはホノカ氏と喧嘩でもしたのかい?』
「惜しいです! ホノカが非行に走ってしまいまして!!」
『あっはっは! ホノカ氏に限って、そんな! 非行って、どんな事を?』
「守沢の家に遊びに行ってしまいました」
『なんてことだ。紛れもない非行じゃないか。小生で良ければ話を聞くよ』
僕は涙を堪えながら、高虎先輩に事情を話して聞かせた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
その頃の守沢家。
「基礎プログラムって? あたし、難しいことはよく分かんないんだけど、平気?」
『えっとですね、例えば、自動販売機の基礎プログラムはお客様に飲み物を提供する事だと考えてもらえますか?』
「ふんふん。なるほどー」
『同じようにですね。ホノカにも、正確には、本当に望まれるカノジョ1号にも、基礎プログラムがあるんです』
「来間の彼女になる事じゃなくて?」
『それで合っていますが、少し違います。正確には、大晴くんを幸せに導くことが、ホノカの持って生まれた使命なんです』
「それってホノカちゃんが彼女になってあげるのじゃダメなの? あいつ、超幸せそうになったよ? 去年までの根暗な顔が嘘みたいに明るくなったもん!」
『それはとても嬉しいことなのです! でも、一般的な幸せとは少し違うと思うのです。わたしは大晴くんの良いところをたくさん知っています! けれど、同じように大晴くんの良いところをたくさん知っているリアルの女の子が現れてくれたら、その後押しをして、幸せなカップルにしてあげる事。それが、ホノカの基礎プログラムなのです』
◆◇◆◇◆◇◆◇
15分も経つのに、ホノカが帰って来ない。
「高虎先輩。やっぱり僕行って来ますよ。守沢の家の地図送って下さい」
『落ち着いて! 大晴くんが逮捕されるのは小生嫌だよ! もう少しだけ待ってみよう!』
「そんな事言って、もう3時間になりますよ!!」
『いや、まだ15分だよ!? 本当に落ち着こう、大晴くん! 大丈夫、小生と話していけばすぐにホノカ氏も』
「何回そう言うんですか!? もう50回は聞きましたよ!!」
『今のが初めてだよ!? ダメだ、大晴くん、今から小生が知っている腕のいい心療内科に行こう!』
◆◇◆◇◆◇◆◇
三度、守沢家。
「つまり、美海ちゃんと来間をくっつけるのが、ホノカちゃんの言う基礎プログラムに従うってことなんだ?」
『はい! そうする事で、大晴くんは完全な幸せにたどり着けるのです!』
「そっかー。やー。でもさ、あたしは思うんだけど。来間の幸せを決めるのは、来間自身なんじゃないかな?」
『えっ?』
「ホノカちゃんのやりたい事が美海ちゃんとの仲を取り持つ事だとしてもさ。来間のやりたい事は、それでもホノカちゃんと一緒にいることかもしれないよ?」
『ほわぁぁぁ……。そんな風に考えたことは一度もありませんでした。牡丹さん、ありがとうございます。そろそろ大晴くんが限界だと思うので今日はお暇しますけど、またお話聞いてもらってもいいですかぁ?』
「もち! あたしの事をいくらでも頼ってくれたまえよ!!」
『ありがとうございますぅ!!』
◆◇◆◇◆◇◆◇
「高虎先輩、僕はもう限界です! 5時間は待っています!」
『お、おう。まだ30分だけどね』
ピョコンと音がして、画面にホノカが帰って来る。
『あ、ごめんなさい! 松雪さんとお話し中でしたか!』
「ホノカぁぁぁ! 高虎先輩! すみません、急用ができたので、失礼します!!」
『いやぁ、良かったねた』
僕は氏の返事を聞かずに通話を終えた。
そして、ホノカの顔をじっと見つめて、何も変わっていない彼女に安心する。
「守沢の家になんて行くから、心配したよ!!」
『ええー? 牡丹さんに悪いですよぉ! えへへ、ただいまです!!』
安心したのも束の間、ホノカは今後も守沢のところへ通うと言う。
彼女の希望を否定できない僕は、とりあえず守沢に菓子折りを渡すことに決めた。
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