たこ焼きとちょっとだけ可愛い笑顔
正直、明け方まで寝付けなかったので、今日は部活を休もうかと思った。
そもそも、大会向けて練習するような部活じゃないのだから、無理してまで行く必要はない。
昨日は玉木さん来てなかったし。
ならば、今日は僕が行かなくったって誰も文句は言わないだろう。
だけど僕は駐輪場にいて、バッタリと小早川さんに出くわしてしまう。
仕方がないじゃないか。
ホノカが『部活、行かないんですかぁ?』と言って、上目遣いで僕を見つめるのだから。
行くとも。
どんなに体調が悪くても行く。
「あ」
「ああ。おはよう、小早川さん」
「ん。うん。おはよ」
相変わらず、レスポンスにキレがない。
本当にホノカが言っていた通りだとしたら、それはどういう事になるのか。
手の届きそうなところに答えがぶら下がっている気がするけども、あえて目を逸らす。
『美海さん! おはようございます! ホノカ、戦線復帰ですよぉ!』
「わぁ。ホノカちゃん。今日は来られたんだね」
僕が相手じゃなくなった途端にいつもの小早川さんに戻るとは。
なんと言うか、言語化できないむず痒さがある。
小早川さんをホノカに任せて、僕は生徒会室へ部室の鍵を取りに向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「おっつー。来間。ねぇ、美海ちゃん元気になった?」
「守沢は本当に小早川さんが好きだな」
生徒会室では守沢が物憂げな表情で僕を出迎える。
三次元のくせに表情の差分を増やさないで欲しい。
思わず回収してしまうじゃないか。
「なんか、ホノカとは普通に話してたよ?」
「今日はホノカちゃんいるんだ! ってか、じゃあやっぱり来間が原因なんじゃん! 良かったぁー。あたしが嫌われたとかじゃなくて! 嫌われたのが来間で!!」
「失礼な。僕が嫌われて堪るか」
口に出して気付く、激しい違和感。
三次元の好む好まざるを僕が気にしているみたいで、寝ざめの悪い朝はこれだからたちが悪い。
「ほい、鍵ね! 美海ちゃん元気なら、あとで遊び行くから!」
不幸中の幸い。
僕の失言に気付かない守沢。
「ああ。うん。伝えておくよ」
「よろー! 早く行ってあげなよ。今日もあっついからさー!」
言われなくったって行くとも。
僕だって暑いのはご免だ。
「来間先輩! おはざーっす!」
「玉木さん、おはよう。君の日本語は美しくないなぁ」
「なんすか? 口説いてるっすか? ヤダー、困るっすよ、先輩!」
「ごめんね? 僕も人付き合いは大概苦手な方だけど、玉木さんが何言ってるのか本当に分からない。……あ。ちょっと失礼」
ホノカがスマホに戻ってきた。
玉木さんの優先順位が降格する。
『大晴くん、大晴くん! この辺りにたこ焼きって売っていますか?』
「たこ焼き? ああ、確か学校の坂の下に移動販売のたこ焼き屋さんがあると思うけど。どうしたの?」
『美海さんとお話しててですね! 合宿でタコさん食べたじゃないですか! それで、たこ焼きって何だろうって! ホノカも情報としてしか知らないので、これは是非実食せねばと思ったのです!』
僕の役割がハッキリとした。
炎天下の中、坂を下るのは良いが、戻って来る事を考えるとそれだけで汗が出そうになるけども。
「よし分かった! ちょっと買って来てあげるよ! 玉木さん、部室の鍵預けても良い?」
「おっす! 自分、速やかに部室へ向かい、エアコン効かせて涼むっす!!」
そう言うと、玉木さんは走り去って行った。
さあ、おつかいクエストだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「……死にそう」
行きの下り坂と帰りの上り坂の落差を味わうか、徒歩で平均的な疲労感に収めるか。
天秤にかけた結果、僕は徒歩を選んだのだけど、これは天秤が故障していたようで、行きも帰りも普通に辛かった。
ようやく校門を潜り抜けると、吸い寄せられるように自動販売機コーナーへ。
何か飲み物を買わないと、本当に倒れそう。
部室まで体力がもちそうもないとは、合宿で腑抜けたのか僕は。
そんな瀕死の僕に差し出されるファンタグレープ。
「来間くん。はい。飲んで」
小早川さんがそこに立っていた。
何はともあれ水分補給。僕は「ありがとう」と言って、それを受け取る。
ゴクゴクと喉を鳴らした後に、ちゃんと日本の夏の過ごし方上級者の僕は、赤ペン添削をしてあげる。
「次からはスポーツドリンクが良いな。炭酸は一気飲みしにくいから」
「むぅ。せっかくホノカちゃんに言われて用意したのに。来間くん、ひどい」
「ひどくない。君のためにたこ焼き買って来たんだよ? ほら」
「ほわぁぁぁ! 来間くん、来間くん。食べてみても良い?」
本来はこんなところでのつまみ食いなど、推奨してはいけない。
常識と良識を持ち合わせた僕であれば、なおのこと。
しかし、まあ、今日くらいは大目に見てやっても良いか。
「ひとつだけだよ」
「わぁ。ありがとう。いただきます」
「あ! 待って、一気に口に入れると!!」
「ふぇっ。……熱いよぉ」
だから僕は忠告しようとしたのに、全然聞こうとしないから。
それでも食べるのをヤメない小早川さんの姿勢はなかなか立派だけども。
そののち、ハフハフしながらたこ焼きを咀嚼して飲み込んだ彼女。
どんなクレームを付けてくるだろうかと身構えたのだが。
「えへへ。おいしいね。ありがとう、来間くん」
屈託なく笑う小早川さんに、思わず見惚れた。
歯に青のり付けているくせに。
なんと言うか、適切な言葉が見当たらないので、致し方なく代わりの言葉を探したところ、これしか見当たらなかったので言うけども。
少しだけ、可愛いじゃないか。少しだけ。
それから、小早川さんが3つ目のたこ焼きのつまみ食いを敢行したところでストップをかけて、僕たちは部室へと向かった。
気付けば彼女はいつもの態度に戻っている。
それは大変結構なのだが、僕のコンディションは相変わらず悪い。
さっき見た笑顔が頭から離れないのだから、これは相当に悪い。
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