やっぱり我が家が一番落ち着く! と言うのは嘘
帰りの車の中は実に静かだった。
後部座席ですやすやと寝息を立てる小早川さん。
それに寄りかかるように、守沢と玉木さんもぐっすり熟睡中。
三次元が団子になっている。
スマホの画面では、ホノカもスリープモード。
午前中に海ではしゃいだから、これは致し方ない。
と言うか、ちゃぶ台に突っ伏して眠るホノカ、実に可愛い。
僕はと言えば、助手席で眠る訳にはいかない。
高虎先輩だって疲労感はあるだろうに、長時間のドライブをさせるのだから、助手席に座る者としての責務を果たさねば。
「なんだかんだ、楽しかったですね。合宿。何の合宿だったのかは未だに分かりませんけど」
「おや。大晴くんの口からそんな言葉が出るとは、意外だなぁ」
「そうですか? 僕だって、夏なんだし。まあ、それなりにテンション上がりますよ」
「おお、それは何より! それで、どの小早川氏との思い出が印象に残ったんだい?」
「そんな見え見えの誘導尋問に引っ掛かる僕ではありません」
「ひどいなぁ。小生から見れば、小早川氏と過ごしている大晴くんは楽しそうに見えたんだけど。それこそ、恋人にも見えたよ」
高虎先輩が侍モードをキャストオフすると、普通の話をしているだけなのにシリアスな空気を纏うから困る。
これならば、眠っているホノカをチラ見せして「ホノカ氏、はぁはぁ」とか言わせておいた方が楽である。
安全運転の妨げになるのでやらないけども。
「……楽しかったのは事実ですけどね」
「その言葉が聞けただけで、小生も連れ出したかいがあるよ」
「言っておきますけど、ホノカと高虎先輩と3人で行った方が、ずっと楽しかったと思ってますからね?」
「はいはい。ツンデレ、乙でござるよ」
急に侍になる高虎先輩。
何事かと思えば、後部座席で小早川さんが起き上がっていた。
高虎センサーの感度は、三次元にしておくには勿体ない正確さを誇る。
「ふあぁ。寝ちゃってた。来間くん。来間くん」
「はい、おはよう。小早川さん。お腹空いたの?」
「むぅ。来間くん。私のこと食いしん坊キャラにしようとしてるでしょ」
「食いしん坊キャラとして認識しているけど、それを僕のせいにするのは心外だな。お腹空いたんじゃないの? おにぎりあるよ」
「……食べてあげてもいいよ?」
「じゃあ、食べなくてもいいよ」
「いじわる。松雪先輩、来間くんがいじめます」
「それはいけないでござるねぇ。大晴くんは誰にでも優しいナイスガイなはずでござる」
「私もそう思ってたのに。裏切られた。もう何も信じられない」
「はいはい。梅とおかかと昆布があるけど、どれがいいの?」
「梅はすっぱいからヤダ」
「分かった。それ以外は全部寄越せって言うんだね。はい、どうぞ。飲み物は足元にクーラーボックスあるでしょ? そこに入ってるから」
「うん。分かった。はむっ。はむっ。はむっ」
まだ3時間近く車で移動するんだけど、それまでに作っておいたおにぎりが全部なくなるんじゃないだろうか。
梅おにぎりオンリーになる可能性は極めて高いと思われた。
それから1時間。
スマホをいじっていた小早川さんが僕の肩をつつく。
「どうしたの? まだおにぎり食べる?」
「違うもん。あのね、あのね」
「おや、パーキングエリアがあるでござる。高速道路って上りと下りで微妙にパーキングエリアが違うから面白いでござるなぁ」
「確かに。どっちかにしかないパーキングエリアってありますよね。ああ、ごめん。それで、どうしたの小早川さん」
「お茶飲み過ぎてね。トイレに行きたいなって」
「えっ」
「大丈夫。あと5分くらい我慢できるよ」
「高虎先輩! 大至急パーキングエリアに入って下さい!! 小早川さんはどうしてトイレ行きたくなるくらい一気にお茶を飲むの!! あと、どうして5分のカウントダウンから始めるの!! 行きたくなったらもっと早く教えて!!」
パーキングエリアにギリギリ入る事ができて一安心。
小早川さんは「だって言い出すの、恥ずかしいんだよ」と言って、トイレに駆けて行った。
言い出さないと、もっと恥ずかしい事になると思う僕である。
◆◇◆◇◆◇◆◇
涼風インターチェンジで高速道路から下りたら、見慣れた街並みが僕たちに「おかえり」と言ってくれる。
ほんの3日しか経っていないのに、少しばかり懐かしいのは何故か。
恐らく、普段から市外になんてほとんど出ないからだろう。
高虎先輩は、順序良く三次元たちを家に送り届ける。
まず守沢が離脱。
「そんじゃ、また学校でねー! 夏休み間は毎日通うからさ!」
「すごい迷惑だからヤメてね。でも、もし来るならスカートは短めでお願い。タコの吸盤の痕がどのくらいで消えるのかには興味があるから」
続いて、小早川さんの家に着く。
そう言えば、彼女の住まいを見るのはこれが初めてだった。
ご両親はアメリカだと聞いてはいたけど、誰と住んでいるんだろう。
「ありがとうございました。松雪先輩。来間くん。またね」
「あ、うん。またね」
結構立派な一軒家に帰って行く小早川さん。
まさか、一人暮らしじゃあるまいし、きっと親戚の人とかのお世話になっているんだろう。
最後に僕とホノカと玉木さんが送り届けてもらって、高虎先輩のミッションもクリア。
「本当にお疲れさまでした。今日は帰ったらゆっくり休んで下さいね」
「自分、超楽しかったっす! 松雪先輩、あざっす!!」
「これはご丁寧にでござる。小生も、実に充実した3日間だったでござるよ。またどこかに行こうでござる! では、さらば!!」
僕たちはアルファードが見えなくなるまで手を振って、玉木さんとも別れた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「ただいま」
『ただいま帰りましたぁ!』
ドタバタと、品のない足音が近づいてくる。
「おお! 帰ったか、2人とも! 父さん、もうカップ麺飽きたんだよ! なんか作ってくれ! 頼む! 和食が良い! みそ汁があれば良い! おかずは二品あれば良い! と言うか、肉じゃが食べたい! なぁ、大晴!!」
「我が家が一番落ち着くなぁとか旅行から帰って言うシチュエーションがよくあるけどさ。あれって所詮はフィクションだよね」
濃密な3日間が過ぎて行き、僕は日常へと帰還した。
ああ、あの別荘に夏の間ずっと引きこもっていたかった。
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