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最後にもう一度プライベートビーチで泳がなければ

 朝食を取ったら、合宿最終日の始まり。

 とは言え、昼過ぎには別荘を出ることになっているので、残された時間は意外と短い。


 何をするのが正しいのか。

 三次元世界の最適解は分からずとも、この合宿では答えが出ている。


「ホノカ! 泳ぎに行こうか! もう多分来年まで海には来られないと思うからさ! 思い出にひと泳ぎしておこうよ!」

『わぁ! アクティブ大晴くんです! こんなレアな彼氏を見たら、乗るしかない、このビッグウェーブに!!』


 僕たちカップルの意見はすぐに合致する。

 三次元たちは、せいぜいこの居心地の良い別荘の中で、無駄に時を過ごすと良い。


「来間、泳ぎに行くん? そんじゃ、あたしも行こっかなー!」

「自分も、泳げないっすけど、水遊びしに行きたいっす!」


 こんな時だけ僕と意見が合致する三次元。本当にヤメて欲しい。

 遠慮とか、配慮って言葉を知らないのかな?

 親の顔が見てみたい。


「では、小生も付き合うでござるよ! 大晴くん、今日こそ防波堤の先まで競争するでござる! 真の海の男を決めようぞ!!」


 高虎先輩までやる気になられると、もう止める術はない。

 この合宿は氏の存在なしには生まれなかったイベントであるからして、その創造主を「いや、大丈夫です」とおざなりにできるほど僕は冷徹にできていない。

 親の顔ならお見せする。実にしょっぱい顔をした中年だ。


 と、ここで1人だけ静かな子がいる。

 苦手なことになると途端に口数が減る、学校のヒロイン。


 守沢が僕を見て、玉木さんが僕を見て、高虎先輩が僕を見る。

 念のためバカンスデバイスを覗いてみると、ホノカの大きな瞳もこちらを見ていた。


 はいはい、分かりました。


「小早川さん。一緒に泳ごうか」

「むぅ。だって、来間くん、手を離すんだもん」


「意外と根に持つなぁ。ちゃんと引っ張るから。と言うか、浮き輪使って良いから」

「浮き輪! ……でも、来間くんさ。私が浮き輪でプカプカしていたら、何かのアクシデントで私と浮き輪の間に顔だけハメたりしない? おっぱいに顔を埋めるまであるかも。私、そういうシチュ、嫌いじゃないけど。……しない?」



「こんなしょうもない言葉を上目遣いで言われる日が来るとは思わなかったよ」

「むぅ。しょうもなくないもん。定番のラッキースケベだもん」



 結局、僕は浮き輪を膨らませると言う必要のない労働をこなした。

 小早川さん用のでっかい浮き輪をようやく膨らませ終わったら、後ろで玉木さんがさらにデカいイルカ型の浮き輪を持ってこっちを見ていた。


 こっちを見るだけで仲間にしてもらえるのはドラクエだけだと、僕は声を大にして言いたい。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「来間くん。来間くん。私、沖の方まで行ってみたい」

「浮き輪を手に入れただけで、その無謀なチャレンジ精神がどうして湧くのか」

『良いじゃないですかぁ! 3人で沖まで遠泳ですよぉ!』


 高虎先輩に代わってもらおうと思って氏を探したところ、既に守沢と玉木さんが乗ったイルカのエンジンとしての役割を果たしておられた。

 どうやら、男は海に来ると三次元女子の怠惰な望みを叶えるための推進力になる事を強制されるらしいと知った。



 結局、思い切り泳げなかったじゃないか。



「わ。すごい。来間くんが押してくれると、速いね」

『ふぃー! 気持ちいいですねー! 大晴くん、頑張って!!』


 チアレッド2人に応援されると、二次元と2.5次元が合わさって、もうなんだかよく分からないけど頑張らざるを得ない。

 ホノカの水着は当然として、小早川さんも黙っていると実寸大のチアレッドな訳であり、これは二次元を使った狡猾こうかつなトラップだと思う。


「ね。来間くん。海、楽しいね。私、勇気出して良かった」

「それは良かった。と言うか、勇気出したんだ? コスプレの延長線みたいなものじゃない?」


「違うもん。来間くんの前で水着になるの、勇気がいるんだよ」

「僕は小早川さんの前で水着になるのに勇気はいらなかったな」


 マントと仮面を装備した状態で写真を撮られるのに勇気を全て持って行かれた可能性は否めないが。


「来間くん。来間くん」

「どうしたの? さすがにこれ以上沖へは行けないよ。万が一流されでもしたら、プライベートビーチなんだし、即遭難だからね」


「ソウナンですか? 見たから平気だよ?」

「むしろ、あれを見たらなおのこと平気じゃないと思おうね。それで、何を言いかけたのかな?」


「あ。うん。あのね、夏。夏休み、まだ長いから。また知らないところに連れてって欲しいな。日本の夏の案内。来間くんにして欲しい」


 「そんなの適当な男を捕まえて頼めば誰でも快く引き受けてくれるよ」と言おうと思ったのに、何故か僕の口がそのセリフを吐かない。

 僕の口のくせに生意気じゃないか。


「……まあ。気が向いたらね」


 代わりのセリフもオーダーと違う。

 責任者を問いただす必要があるかと思われた。


『良かったですね、美海さん! 大晴くんは約束したら絶対に守ってくれるんですよ!』

「うん。知ってる。えへへ。嬉しい」

「ああ、もう。好きにすればいいよ。さあ、そろそろ浜辺に戻るよ」


「はーい。来間くん、頑張ってね。お尻見ても良いよ」

「……見ないよ」


『大晴くん! わたしのも見ていいですよ!』

「えっ、ホントに!? よし、全力全開でブーストだ!!」


 こんな感じで、僕の久しぶりの海水浴は、思い返すと基本的に小早川さんの面倒を見ていた気がする。

 全力で泳げなかったけど、充足感があるのは何故か。


 多分、チアレッドがそこにいたからだと思う。

 それ以外の理由があるとしても、僕は断固として認めない構えだ。


 来年までに小早川さんには泳げるようになって貰わないといけない。

 そうすれば、次の海水浴は思い切り泳げるじゃないか。

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