少しずつ変わっていく来間大晴の周囲
「見て、ホノカちゃん。これ美味しそうだよ」
『わぁ! 本当ですね! 肉じゃがにも種類があるんですね!』
「ね。私、食べた事ないんだ」
『そうなんですかぁ!? 大晴くんの得意料理ですよ!』
文芸部の部室は今日もかしましい。
しかし、その声のうちの一つが僕の彼女のものであれば、オーケストラの演奏に匹敵する聞く価値が生まれてしまう。
これが恋の悲しき宿命。
「シルバー先輩。シルバー先輩。この小道具や衣装作ったって言う、松雪先輩って何者っすか!?」
「玉木さんも部員になった以上、高虎先輩について教えるのは僕もやぶさかじゃないよ。とりあえず、シルバー先輩はヤメなさい」
「おっす! すみません! シルバー先輩!!」
「君はアレだな。新しいベクトルの面倒くさい子だな」
玉木さんは物怖じしない性格のようで、僕みたいに寡黙なオタクを相手にしても、ガンガンいこうぜ! な姿勢で接してくれる。
それは喜ぶべきことなのだろうけど、本当にガンガン来られると僕は困る。
「玉木さんはバレー部でリベロのレギュラーだったらしいじゃない。辞める時に引き留められなかったの?」
「おっす! 超引き留められたっす! でも、自分の心はもうチアーズのものだったので! 先輩方には、コスプレが呼んでいるのですみませんって言ったっす!」
そして、玉木さんはオタクを隠さない、開放的なタイプ。
それは結構なのだが、コスプレと文芸部を繋ぎ合わせられると大変困る。
君は僕を困らせるのが上手だな。
「もしもし。守沢? あのさ、僕たちのコスプレがバレー部に情報漏洩してる可能性があるんだけど。どうにかならない?」
『生徒会の総力をもって鎮圧してくるわ! 任せといて!!』
「よろしくお願いしするよ、チアイエロー」
『ヤメろ! チアシューターで撃ち抜くぞ!!』
ヤメろと言う割にはノリノリじゃないか。
何にしても、こういう時に鬼の副長は頼りになる。
居心地の良さが日々目減りしていく僕の城。
せめて、情報面だけでも居心地の良さは守りたい。
何かの間違いで小早川さんがコスプレする、しかもチアリーダーの姿だよ、なんて事がバレたらもう終わり。
僕の文芸部はたちまち部員数が3桁を越えるだろう。
スマブラの定員は4人まで。
100人同時プレイはできないのだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇
ホノカと小早川さんが美味しいもの探検に満足したので、僕たちは4人でスマブラを嗜む。
文芸部のあるべき姿はこれだ。
「ちょっ! なんでトマトすぐ取るの、小早川さん!」
「ふふふ。出てきたアイテムはとりあえずゲットするのが私のやり方だよ」
「ホノカ先輩、隙ありっす!」
『ふっふふー! 甘いですよぉ! カービィの復帰性能を甘く見てはダメなのです!!』
僕のリンクが、いつも通り、ディディーコングにボコられる。
腹が立つなぁ。
こいつのモーション考えた人は、悪意の塊だよ。
「今度こそ! ロックバスターっす!!」
『わわっ! 大晴くん、助けて下さぁい!!』
これはいけない。
彼女のピンチ。僕が行かねば誰がやるというのだ。
「あ。来間くん、隙だらけ。ごめんね」
「おわっ!? ちょ、待って、小早川さん!! なんで僕ばっか狙うの!?」
「戦場では、弱い者から刈り取るのが定石なんだよ。あ。トマト出た」
理不尽なスマブラの世界。
これならば現実の方がよほど平等に思えてくるのだから、スマブラの開発者の深い考えをうかがい知ることができる。
いっそのこと、道徳の授業に取り入れるのはどうだろう。
人からトマトを奪う事で罪悪感を学び、人を奈落の底に叩き落とす様を見て、争いの醜さを考える良い機運になるのではないか。
「やった。これで来間くんの56連敗だね」
「くぅー! 美海先輩強いっすねー! シルバー先輩は何回やって何勝したんですか?」
「56戦目が今終わったところだよ」
「あっ。なんかすみません。やけにリンクの叫び声ばっか聞こえると思いました!」
もう、switchは封印しようかと考え始めたところで、小早川さんが口を開いた。
「来間くん。私、海に行きたい」
「うん。唐突が過ぎるなぁ。まだ梅雨も明けてないのに」
『大晴くん、わたしも行きたいです! 水着ホノカが見られますよ!!』
「よし! 早速予定を組もうか!!」
「シルバー先輩、何て言うか、結構チョロいっすね」
「うん。来間くんはね、チョロくて優しいんだよ」
三次元は好きなことを好きなだけ呟いていればいい。
ホノカが海に行きたいと言った。
ならば、それが全てなのである。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「ちょっと、なにー? やっとバレー部から帰って来たとこなんだけどぉー!」
「守沢さ、海の近くに別荘とか持ってない?」
海に行くことが決まったので、速やかに学校内で高い権力を保持している三次元を招集した。
きっと、生徒会所有の別荘とかがあるに違いない。
学園もののアニメだったら定番だから。
「そんなもん持ってるわけないでしょ! バカにしてんのか!?」
「持ってないの? がっかりだなぁ。あと、尊敬はしていないよ」
守沢がきっと別荘手配してくれるよと言っておいたので、僕以外の3人もガッカリする。
「えっ、ちょっ、なんで!? あたし、何か悪い事した!?」
「守沢はさ、今、みんなの期待を裏切ったんだよ」
「な、なんでよー!! てか、別荘とか言うんなら、松雪に頼めばいいじゃん! あの道楽大学生なら、ワンチャンあるんじゃん?」
まさか、三次元の意見で目から鱗が落ちるとは。
ホノカに頼んで、高虎先輩に電話してもらう。
コール音2回で通話状態になる、先輩の鑑。
『どうしたんだい、大晴くん。小生に御用かな?』
「すみません、急に。お時間大丈夫でしたか?」
『ああ、平気だよ。大学の課題を済ませたところさ』
「……あのさぁ。松雪が普通に喋ってると、なんかイケメンっぽくてヤダ」
電話の向こうで、ガタンと音がした。
そして、咳払いをした高虎先輩。
『た、大晴くん! 周りに人がいるなら、ちゃんと言って欲しいでござるよ! 小生、素の姿を晒すとか、とんだ羞恥プレイでござる!!』
先輩の恥ずかしいのボーダーラインが見えてこない。
まあ、良いか。本題に移ろう。
ホノカが、そしてついでに小早川さんが海に行きたい旨を伝えてから、「別荘とか持ってないですよね」と言ってみる。
『あるでござるよ? 海の近くに。みんなで行くでござるか?』
夏休みの予定が1つ埋まった瞬間だった。
高虎先輩って本当にすごい人だなぁと、氏の残した部室を改めてぐるりと眺め、じんわり思う僕である。
「面白かった!」
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