コスプレイベントの朝
梅雨の中休みとはよく言ったもので、本当に雨雲が休暇を取ったようなスッキリとした青空が広がっていた。
むしろ、雲が少しくらいあった方が日陰もできて良いのではと思えるほど。
『松雪さんから、30分後に迎えに行くとメッセージが届いています!』
「そっか。じゃあ、了解とお礼を伝えておいてくれるかな」
『もう済ませてあります! バッチリです!! むーむー!!』
ホノカのテンションも高く、コンディションもバッチリな様子。
「おおい、大晴。これ持ってけ、ほら」
「醤油はいらないんだけど。と言うか、そういうベタなボケもいらないかな」
向かいに座って目玉焼きに醤油かけている親父が、醤油さしを渡して来た。
徹夜明けで疲れているのだろう。
醤油は目薬替わりに使うと良いよ。きっと目が覚める。
「ああ、父さん間違えちゃった! こっちだ、こっち!」
「なにこれ。充電器のスタンド? スマホの充電はマックスだけど」
ホノカがスマホに住むようになって、僕のスマホのバッテリーは親父が改造済み。
通常のものの10倍の稼働が可能になっている。
これならば、いくらホノカが活動しても平気。
「違う、違う。これは冷却装置だ。ホノカちゃんのテンション上がり過ぎて、オーバーヒートしないとも限らないから、念のために持って行くと良い」
「親父! なんか研究者みたいだね!」
「父さんは研究者だけど!? 普段は何に見えているのかな!?」
「生活力ゼロの甲斐性なしな中年男性かな」
「おい、ヤメろよ! 50歳とか、一番色々思うところのあるお年頃なんだぞ!!」
親父の心模様はどうでも良いけど、ホノカのサポートアイテムはありがたく受け取る。
帰りにウーノのスキンケアクリーム買ってきてやるか。
『大晴くん、大晴くん! 松雪さんの車があと3分で家の前に到着します!!』
「そっか。待たせちゃいけないから、外に出ておこう。じゃあ、親父、行ってくる」
『博士! ホノカも出陣します!!』
「おう。行っておいで。楽しんで来ると良い」
僕たちが少し慌ただしく駆けだす一方、親父が背後で何か呟いたが、おっさんの呟きほどどうでもいい事もないので、普通に無視しておいた。
「大晴が女の子と一緒に出掛けるとはなぁ。良い方向に変化しているのかな」
ひとりごとが増えると、うつ病の可能性が高くなるとNHKの番組でやっていたので、今度暇な時に親父のメンタルチェックをしてあげよう。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「おや、お待ちかねでござったか! さすがは大晴くん!!」
高虎先輩がハイエースの運転席から顔を出す。
荷物が多いので大きい車で行くとは聞いていたけど、最大級で来たか。
そして、先輩が既に侍モードと言う事は。
「おっす。おはよ、来間」
「守沢、偉いじゃない。まさか一番乗りだなんて。あんなに嫌がっていたのに、身も心もコスプレに捧げる気になったんだ?」
「なってないし! 松雪が何故かあたしの家を知ってて、何故か一番に迎えに来たの! 言っとくけど、超迷惑だから!!」
『やや! 牡丹さん、ガチチア見てます! 第5話のBパートですね!!』
「なんだ。やっぱりやる気満々じゃないか」
「ちがっ! これは、やるからには手抜きしたくないなって思っただけだし!!」
そういうのを世の中ではやる気満々って言うんだよ。
「はっはっは。結構なことでござる。それでは、小早川氏を回収しに行くでござるよ。ドラッグストアで経口補水液を買うとのことでござる」
スポーツドリンクじゃなくて経口補水液なところからして、ガチオタは準備が違う。
「なんかさ、みんなで会場の下見までしたらしいじゃん」
『はい! 行きましたよ!』
「あたしも呼んでくれたら良かったのにー。仲間外れはつらたんなんだけど」
「ええ……。これ以上文芸部に三次元が増えるのはちょっと……」
『大晴くん、そんないじわる言わないで、牡丹さんも入れてあげましょう!』
「うん。下見の話だよ? このカップル、時々あたしの話を無視するよね」
ハイエース高虎号は今日も安全運転。
件のドラッグストアの駐車場に入ると、小早川さんが立っていた。
両手にビニール袋山ほどさげて。
ほんの1日会わない間に、スキルポイントをパワーに極振りした?
「おはよう、みんな。スポーツドリンク、とりあえず10本買っておいたけど、これで足りるかな?」
「絶対に足りると思うよ。おはよう、小早川さん」
「そっか。良かった。えへへ。おはよう、来間くん」
すると、守沢が気付く。
気付かなくていい事に。
「おっす、美海ちゃん! 私服可愛い! なにそれ! そのスタイルで私服までガチかわとか、反則でしょ! ちょっと、あんたら反応薄くない!?」
「うん。そうだね」
「さて、出発するでござるか」
僕と高虎先輩は聞こえないふりをした。
それが無駄な抵抗だという事は百も承知である。
「えへへ。この服ね、来間くんが選んでくれたの」
「マジで!? 来間、そんな女子力高かったん!? うわー、マジでかー」
「ちょっと待って。選んでない。少し手伝っただけだよね」
この後、僕の制止を振り切った小早川さんが、服をゲットした経緯について、なんか僕を美化して守沢に話して聞かせた。
当然抵抗を試みたけど、無駄だと分かったので、高虎先輩とガチチアのオープニングを熱唱して現実から逃避した。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「さて、到着でござる!」
「うおっ! すごい車の量ですね! こんなに人が集まるとは……!」
「涼風市も町おこしイベントの一環に位置付けているようでござるからな。屋台も出るし、同人誌即売会も併設しておるゆえ、想定内の人混みでござるよ」
僕の知らないうちに、自分の街がこんな事になっているとは。
書を捨てて町に出ないから、こういう事になる。
寺山修司先生のお言葉がついに僕の身にものしかかってくる日が来たか。
「女子チームは自分の衣装だけ持って欲しいでござる。大晴くんは小生と一緒に、小道具の運搬を手伝って欲しいでござるよ」
「了解しました。うわぁ、すごい! なんですか、これは!! 半端ないですね!!」
チアーズの武器、チアシューター、チアランス、チアハンマーが、原寸大で作られていた。
凄まじい作り込み。既製品だってここまでのクオリティは絶対にない。
どうやら、今日のイベントの主役を張るのは僕たちらしい。
やるからにはてっぺんを取ってやろうじゃないか。
僕のやる気スイッチまでオンにされるとは、高虎先輩、さすがの手腕。
「面白かった!」
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