守沢牡丹、コスプレさせられる!
「来たよ、美海ちゃん! なんかごめんねー! 水ようかん余ってるんだって?」
守沢の扱いを完璧に把握した小早川さん。
さすがはゲーマー。一度コツを覚えると、あとが強い。
そして、守沢は美味しそうな餌に釣られて罠の中に入るタヌキの如し。
檻の中で気付いても、もう遅い。
ガシャンと退路が断たれたら、間抜けな三次元のできあがり。
「……はっ!? なんで松雪がいんの!? あれ、美海ちゃん!? なんで入口につっかえ棒するの!? って言うか、来間! なにその恰好!! え、あたし何されんの!?」
時すでに遅しって、シンプルだけど情景描写の一文としての完成度高いよね。
もう、その言葉以外で今の守沢を表現するのは、文学に対する冒とくみたいなものだから。
「あのね、守沢さん。松雪先輩がね、コスプレの衣装が完成したから、持って来てくれたの。それで、不備がないか最終確認するんだって。来間くんとホノカちゃんはもう済ませたから、次は私と守沢さんの番なんだよ」
「み、美海ちゃん? あたし、騙された?」
「ううん。騙してないよ。はい、これ水ようかん」
「美海ちゃぁぁぁん!!」
僕がコンビニで買っておいた、1つ98円の水ようかんを与えられた守沢は、なんだかとても悲しそうに見えた。
理由は分からないけど、無駄に心を落ち込ませてもいい事なんてないのに。
守沢は相変わらず、生きるのがヘタだなぁ。
「守沢氏。こちらがチアイエローの衣装でござる。では、小生たちは退室しておるので、あとはお任せして良いでござるか? 小早川氏、ホノカ氏」
「はい。任せて下さい」
『ホノカも頑張りますよぉ! バーニングフォームですから! ふんすっ!!』
「なにこれ!? む、無理、無理だって! こんなの着れないよ、あたし! あれ、美海ちゃん!? なんで無言で迫って来るの!? なんか怖い! ま、待って! 分かった、自分で着る! 自分で着るから、無言でシャツのボタン外さないで!! お願い!!」
小早川さんは、念願のコスプレ衣装を早く着たいがために、面倒な守沢を最初に片付けることにした様子。
さすが作業ゲーも大好きなだけあって、効率重視の道筋をすぐに見つけるなぁ。
まあ、あとは女子同士、上手いことやってくれ。
僕は高虎先輩と一緒に廊下に出て、適当に雑談。
チアーズの武器とか、僕のマントとかの制作過程の写真を見せてもらって、大いに盛り上がった。
このクオリティを見せられると、鑑賞側から実践側に移行したのも悪くないとすら思えてくるのだから、この先輩は本当に凄い。
◆◇◆◇◆◇◆◇
『大晴くん! 松雪さん! 準備出来ましたよぉ!』
「もう平気だよ。入って。入って」
小早川さんは、ポンチョを着ていた。
理由を尋ねると、「一気に披露したら、来間くんのリアクションが渋滞すると思って」と、澄ました顔で答える。
僕にリアクションを取らせるつもりだとは。
大きく出たな、小早川さん。
「……ちょ、見んな! こっち見んな!」
守沢はどこかと探したら、部室の端っこで小さくなっていた。
今の「こっち見んな」がなければ僕は存在に気付かなかったのに。
なんと愚かな。
とは言え、これは何と言うか、なかなかどうして。
「おお! 守沢氏、よくお似合いでござるぞ! チアイエローは露出多めでござるから、守沢氏の本体がそれに耐えられるかが賭けでござったが!」
「高虎先輩の衣装はさすがですね。守沢が三次元から、ちょっとだけ二次元に寄って行ってますよ。意外と見られる!」
チアイエローは、大胆にへそ出しのチアリーダー。
スカートもヒロインの中で一番短いが、そこは安心して欲しい。
スパッツが標準装備されている。
アクションシーンも多いキャラなので、へそチラしている代わりに胸元はガードが堅め。
ガッカリ? いやいや、そこがむしろ良いという紳士の意見が多い。
戦闘中にコスチュームが破れる回数もチアーズの中で一番だから。
「う、うぅ……! なんであたしがこんな目に……! やらしい目で見んな!」
「高虎先輩。守沢、ちょっと太ももとか、原作に比べてルーズじゃありません?」
「そこに気付くとは、大晴くん、やはり天才か」
「……やらしい目で見られてないんだ。それはそれでムカつく」
「守沢さん。チアイエローは、陸上部の女の子だからね、特に下半身は引き締まってるの。コスプレって、いかに二次元に近づけるかを試行錯誤する過程が大事だと思うんだ。だから、今日から本番まで、しっかり走り込もうね。チアイエローのキャラソンも貸すから。聴きながら走って?」
小早川さん、本当にコスプレを楽しみにしているので、守沢に対して容赦がない。
多分、今この瞬間に限れば、僕の方がまだ情け深いまである。
守沢の課題は、衣装に負けている太もも。
ハッキリと分かったところで、小早川さんのお披露目タイム。
それだけ大口をたたいたからには、ハイクオリティじゃないと僕は納得しないからね。
◆◇◆◇◆◇◆◇
『大晴くん! 美海さんのチアレッド、すごいんですよぉ!』
「ほほう。ホノカがそう言うと、ちょっとだけ期待しちゃうね」
「私、頑張るね。えっと、松雪先輩。ネットで注文したんですけど、これってアリですか? 一応、スプレーで染めるのと、どっちも用意して来ました」
小早川さんの手には、黒髪のカツラと、ヘアカラースプレーが。
チアレッドは黒髪のポニーテール。
小早川さんは綺麗な銀髪。
まさか、髪の色までこだわってくるとは。
鑑賞派のオタクとして意見を言わせてもらえば、コスプレにおける髪の色や瞳の色は、上手くすればクオリティが上がるものの、下手を打つと安っぽさが出てきてしまう、諸刃の剣。
そこを迷いも見せずキャラに寄せて来るとは、その意気や良し。
同じオタクとして、敬意を表す価値は充分にあるかと思われた。
「おお、このウィッグは評判のいいものでござるよ! 小生が用意しようと思っておったのに、まさかご自分で調達されるとは! 小早川氏、恐ろしい子!!」
「えへへ。やっぱり、キャラになりきりたいですから。これくらい当然です」
『さすがですねぇ、美海さん! 元々髪が黒いわたしはなんだか申し訳ないです!!』
「守沢。さっきまでギャーギャー言ってた自分が恥ずかしくならない?」
「うん。あのさ、美海ちゃんの熱い想いは伝わって来たんだけど。それとあたしの気持ちをリンクさせる必要なくない?」
三次元って、すぐに正論を盾に場の空気を乱すよね。
そこは、全肯定するところでしょうに。
いよいよ、ベールに包まれた小早川さんのチアレッドがお目見えする。
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