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偽薬

作者: デュアン

 先輩は、いつも何か食べている。直径6mm程、縦4mm程、裏表の面は山の様に盛り上がっている白い円柱。それを摘む先輩の指は白い。

 端的に言えば、ラムネ菓子である。

 しかし、菓子であれば不思議な点がある。入っている容器は先輩の小さな手でも親指と中指が付く程度の大きさしかない、何のラベルも貼られていない無骨なガラス瓶。薬でも入っていそうだが、それでは四六時中食べられる訳が無い。

 私は、意を決して聞く。


「先輩、いつも何食べてるんですか?」

「知りたい?」


 先輩は食べる手を止めず、そのまま此方に顔を向ける。


「はい」

「当ててごらん」

「えっ」


 返ってきたのは、そんな意外な返事。私が考えている間にもポリポリとそれを摘む。


「うーん……ラムネ、ですか?」

「残念、外れ」


 どうやらラムネでは無いらしい。ポリ、ポリ。また音がする。


「サプリメント?」

「違うね」


 次点も外れる。また食べる。


「……まさか、薬?」

「惜しい」


 惜しい。つまり、薬ではない。三粒一気に口に放り込む。


「何なんですか?」

「偽薬だよ」

「偽薬」


 訳が分からない。偽薬とはあれだろう。治験の時に使う物。何故それをポリポリとまるで菓子でも摘む調子で食べているのか。


「何でそんな物食べてるんですか?」

「最初はラムネを食べてたんだけどね。健康診断で糖尿病寸前って言われて。その時お医者さんに勧められたんだ」


 先輩が太っていた時期など無かったような気がするが、まさかそんな事になっていたとは。いや、若しくは私が知らない様な、例えば幼稚園の頃の話なのか?

 それならば、寧ろその方が不味いのではないだろうか。というか、今食べている物は良いのか。確か偽薬の主成分はブドウ糖や乳糖であった様な気がするが。


「味は?」

「食べてみる?」

「え、は、はい」


 半ば反射的に答えると、傾けられた瓶から私の掌にコロンと粒が二つ。片方を先輩が摘み、自らの口に放り込む。

 暫くそれを見ていたが、意を決して私も口に放り込む。


 口に入れた瞬間に溶ける、という訳でもない。噛めば粒が粉になるだけで、何の面白味も無い。一体私は何を食べているのだろう、そんな味。

 一文字で表すなら、無。


「……何ですかこれ」

「偽薬」

「いやそれは分かってますけど」


 また摘む。よくこんな物が食べられるものだ。



 次の日、先輩はまた食べていた。瓶の形が少し違う。


「今日も偽薬ですか?」

「違うよ」

「ラムネ?」

「きゅうり」


 ますます意味が分からない。

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