船員
翌朝。ベルは集められた船員との顔合わせに来た。
死ぬのはほぼ確定した旅。多くの学者は、宇宙の先は存在せず、そこには星も明かりもなにもなくただ無の中で漂うことになるという。
しかしこの日、空へと旅立つ我々は、星全体にたたえられた青い水と、食べきれないほどのご馳走と牧草地を求めて行く。
そこに赴く兵士の顔と言えば、皆期待に満ち溢れていた。その多くが殺人、強盗、窃盗、強姦、暴行、詐欺の罪を犯した若者たちである。彼らは、皆同じ赤い囚人服に身を包み、筋肉隆々、殴られればベルなど5mは吹き飛ばされそうな体躯だった。
「私は、ベルといいます」
首に巻いた声帯拡声器が音を拾ってビリビリと揺れる。心臓の音まで拾っているようで、ドクドクと自分の心臓の音が聞こえた。
緊張している。足が震えて嫌な汗をかく。
「この中で、人を殺したことがある人はどれだけいますか?」
勿論、データにまとめられた彼らの犯した罪は知っている。そしてそれが、正しくはないだろうとも知っていた。死刑が確定すれば、それ以上の罪を追求する意味はない。警察側も隙ではなく、日々犯罪者は増えているのだ。
バタバタと手をあげたのは乗員の半分にも及ぶ104人。
こちらをバカにするような顔がチラチラ見られ、ニヤニヤと笑う顔には虫歯で歯が溶けて前歯がない者が多い。
「では、今、手をあげている人で銃を使える人はどれだけいますか? いましたら一歩前に」
全員が前に出た。これは、いい。幸先がいい。
「諸君らには銃を支給します」
「どの銃だ? BBガンか?」
ワラワラと笑いが伝播し、全員が一枚の岩となって笑っている。
「好きなものを何でも。我々は、水と地と空気がある惑星を目指します。そこにあるものはすべて分どり、その一部を持ち帰る。そして陛下に頂く報酬を山分けする」
今度は誰も笑わなかった。しんと静まり返った船員のなかでわずかばかりの生唾を飲み込む音だけが響く。我々は、高い税金を払っている。それなのに貧富の差は厳しく、貧乏な家庭では子供ながらに犯罪に手を染めなければ、日々いきることさえ難しい。王家が、大量の金を溜め込んでいるのはその豪華絢爛な宮殿をみれば明らかで、地球に変わる惑星を見つければ、その報酬はいかほどのものになるか……想像もつかない。
「それで、その星には住めるってのかい。俺達のほとんどは終身刑をくらってる。恩赦をもらっても70年は檻の中から出られないだろう。その頃にはしんじまう」
「勿論です。そのために二隻の船でいくのです。残った船の船員は、同時においていく掘削機、環境改編装置、木材及び金属等の生成装置を用いて自身の家を築いてもらって結構」
「宇宙船でどこかに逃げちまうとは思わないのか?」
「そんなことをする人は、いない」
地球から一歩出れば、砕けた月の衛星基地以外に向かう先などない。どこまでも続く宇宙の中ではしがみつく葦もない。逃げる先などないのだ。
ベルは彼らを銃の入ったガンケースの前まで案内した。
ガンケースは全てジェラルミンかFRPで作られ、中には黒いウレタンがぎっちり詰められており、中の銃が動かないようにバインダーで固定されていた。
「M86a1突撃小銃です。耐熱樹脂のフレームと炭素鋼のバレルで構成されています。使用する弾丸は5.56×50mmUN弾。タングステンチップの弾頭、その弾が30発入るプラスチックマガジン、流体工学に基づいて設計されたマズルブレーキは、例えマガジン一本分、ここでぶっぱなしても、弾は5センチ以内の円に収まる」
「軍用じゃねぇか!」
(生き残るためには、出来る限りの準備をするものだろう)