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プラネット オブ パラサイト  作者: アルミ爆
2/5

船とケムリ

 目の前には全長100メートル、全高60メートル、総重量100万トンの化け物が鎮座していた。これを、『小さい』と言うのだろうか。

 地球の重力から逃れるための巨大な赤いロケットは、なんと使い捨てである。チタンやジェラルミンが多く使われ、所謂二千級とよばれる輸送船がこれだ。


「いやぁ、凄いっすねぇ」


 これにこれから乗り込んで宇宙を旅すると思うと、心が泡立った。

船から伸びるケーブルは、コンクリートの地面でうねって、まるで内臓のよう。それを跨いでみようと近づいたが、どこまで歩いても近寄れない。半ば走るようにしてよると、なるほど、大きい。

 人の腹よりも太いケーブルが、とぐろを巻いて置いてある。


「おい!ヘルメット被れ!」


 足元に叩きつけられた、白いヘルメットがくるくると回る。随分と使い込まれたようで、黒い擦り傷が幾重にも重なって浅黒く変色していた。それを拾い上げて頭に被ると、樽のような男がかけてきた。


「どっから入った!?」

「あーえっと、一応、新しい船長になります、ベルです」

「……冗談だろ?」


 男は鳩が豆鉄砲を受けたような顔をして、アゴヒゲにさわった。

 冗談ではない。俺は、何万光年という距離を、この船と共に旅をする。

 ならば、見ておきたいではないか。自分が命を預ける船の形を。そして、棺桶になるかもしれない船を。


「彼女はあまり機嫌がよくない。だが、ひどい使い方をしてくれるなよ。月の爆発事故でも戻ってきた船だ」

「月の事故……」


 金属生成工場の水素爆発のことだろう。それによって優秀なエンジニアが大勢死んだ。

 

 その事故を思って黒い船体に触れると、恐ろしいほど冷たかった。まるで氷のよう。数回の大気圏突入に耐えうる特殊合板を張り合わされた船体。暗闇を切り出して張り合わせたようなその色は、外の色を吸い込んでいるようである。


「俺は、整備長のフォンデン・バルガだ」

「ベルです。よろしくお願いします」

「若いな。若すぎる」


 バルガはぶつくさと言いながら自分の作業に戻っていった。気になってついていくと、油臭い真っ黒な機械油にまみれた作業員が、真っ白な煙が吹き上がるケーブルを押さえつけている。


「液体窒素どうや!?」

「充填率80%!」

「よし!たっぷり飲ませろ!」


 凄い。中古だが、これならば、新古品の車くらいのつもりでいいだろう。この作業員の働きようなら、少なくとも泥舟ではない。その確信を得た。


「出発は明日の7時。間に合いますか?」

「誰にいってるんだい!!任せろ!!」


 バルガは指の突き抜けた軍手で耳にかけたタバコをとり、吹かす。


 真っ白な煙が船体に吸い込まれた。

 壁にも床のコンクリートにも『禁煙』と書いてある。

 ニヤリと笑った顔が印象的だった。


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