二隻の船
ユーロ・ベルは国王の前に膝まずいた。
床の大半をしめるリノウムは表面にフォログラムが投影され、美しい大理石の床を着飾って見せた。室内には活性炭のフィルターをかいした正常な空気が送風穴から満たされて、人々を包む。
国王が座る豪華な玉座は、繊細な彫刻の隅々にまで金箔が張られ、まるで隙がない。
玉座の回りに立つ役人は、様々な人種から特に優秀なものが選ばれる。それゆえに、体が太ったり、痩せすぎたりということがなく、皆精強な顔つきでベルを見下ろしている。
「いらっしゃいました」
後ろで、扉を開ける係の少年がわずかに言葉を発した。静まり返った玉座の間に、リンと鈴の音が響く。
ついで、ペタペタと履き物が床を踏む音。ベルはしっかりと頭を下げて国王が玉座に座るのを待った。
「で、なにか」
「は!!」ベルは頭をあげずに続ける。
「私は、ユリ・ベルの息子、ユーロ・ベルと申します! 本日はお日柄もよく、このようなご機会を頂戴させて頂いたことを心より感謝いたします」
「うむ」
実際、自分のような庶民が国王に謁見するには、それ相応の対価が必要だった。
だからこそ、このチャンスをものにしなくては。ベルは冷や汗を握りつぶして頭をあげた。
「輸送船を、もう一隻貸していただきたく、ここに参りました」
「はて、武器や食い物ではなく、輸送船を……?」
国王は額に手を当ててゆっくりと考えている仕草を見せた。よし。
「目的の地にたどり着ければ、半数をその地に残し、輸送船にはレアメタル、難加工材料等の貴重物資を持ち帰りたく」
ベルは、幾度となく行われた探検が失敗に終わったのを、船が一隻であったためであると考えた。一隻では致命的な事故に遭った場合に死ぬしかない。しかし、二隻ならば、どちらかは生き残る可能性がある。小型船でそちらに乗り換えれば良いのだ。
「それができるか……?」
とても信じていないような雰囲気だった。
そうだなぁ。これは苦しい言い訳だ。
ベルは己の小さな嘘でせっかくの機会が不意に終わるのを恐れた。
「私が、第二の地球を見つけましょう。そのために、船が二隻いるのです。お言葉ですが、陛下は今までに船団を組んでの探索に出されたことはあるでしょうか?」
「不敬であるぞ!!」と隣に控える役人が怒鳴った。旧式の連発銃がベルに向けられる。
「よい」
国王がシワがよった手を床と水平に持ち上げ、ぴたりと動きを止めた。
「そこまでいうのなら、貸し与えよう。しかし、成果が上げられなければ……わかっているな?」
「はっ!」
成果が得られなかったとき。それは自分の死ぬときだ。