第8話 新生活
「貴族やそれに準ずる騎士の出である魔法使いは皆、六大魔法全てを学びます。その理由は魔力量の乏しい平民の出の魔法使いより圧倒的な魔力量を誇り、効率が落ちたとしてもその場に置いて最適な魔法を放つことが良いとされている為です」
「その為、私の属性は火ですが他にも水、雷、風、土、を中級まで覚えています。無属性は身体強化の魔法のみ覚えています。火に関しては上級と特級を幾つか使うことが出来ます」
キャレッサさんはそう言うと右手に火の玉、左手に水の玉を浮かび上がる。
「この様に同時に魔法を唱えることも貴族の魔法使いとしては必須条件です。今火と水の玉を出しましたが込める魔力の比率を変え蒸気に変えます」
そう言うとキャレッサさんは二つの玉を混ぜ合わせる。シュウウと言う音と共に水が蒸発するが水蒸気はまだ球体として形を保っていた。
「火で熱せば高温の水蒸気が生まれます。これを放つことで火が使えない室内戦などで相手に対して有効な攻撃が出来るようになります。これはほんの一例ですが他にも様々な組み合わせがあります」
火と風を合わせて熱波を放ってみたり、雷を纏った土の槍を放ったりと様々な組み合わせを見せてくれた。流石王都で親衛隊として活躍する人なだけある。
「魔法はイメージです。しかしあやふやなイメージでは魔法が発動しなかったり魔力を余分に消費してしまったりします。その為魔法使いは使う魔法を言語化し、イメージを固定させます。戦闘の際も余計な思考を減らし高速かつ確実に魔法を使うのが一流の証です」
ではやってみましょう……とキャレッサさんは右手にスイカ程の大きさの火の玉を発動する。自分もそれに倣い同じ大きさぐらいの火の玉をイメージしながら右手に力を込める。
完璧な球体となっているキャレッサさんのに比べ自分のはなんか不安定な……松明の火のように揺らめき強風が吹けば消し飛んでしまいそうな程か弱い
「いえ、発動できただけ最初にしてはちゃんとイメージがしっかりしています。余計に魔力を込めているので不安定なのです。もう少し力を抜いてみてください」
言うとおりに身体を弛緩する。すると揺らめきはまだある物の先ほどより安定した火の玉が形成された。
「そうです。イメージする魔法に対して魔力を多く込めても少なすぎてもいけません」
火の玉一つでも中々難しい、魔力を込める量は感覚でわかるけどそこに集中していると魔法のイメージがぶれて消えてしまう、あーでもないこーでもないと初めての魔法授業は火の玉がとりあえず出せるようになったという形で終わった。
今泊っている屋敷は巨大な凹の形をしている。三階建ての建物で入り口にはホールが曲線描いた階段が二対に分かれ上の階に行けるようになっている。凝った装飾に絵画から高そうな家具まで、色々とごちゃごちゃしているけど素人目にもそれらが何かしらの様式に沿って並べられているのは分かった。
寝室は勿論、食堂から書斎、遊戯室まで屋敷の中にあった。応接間には巨大なモンスターの剥製が壁に建てられていてはえーって口を開けてみていたら傍に控えていた女中の方がここの主人が直々に討伐した魔物らしい
貴族はその権力を維持するため度々発生する魔物行進と呼ばれるダンジョンや森から人里を目指して大量の魔物がやってくる災害を対処する義務があるらしい
また冒険者ギルドが定めているA級以上に指定されている危険生物を討伐する義務もあるので、守護者足る貴族は平民より豪華な暮らしを享受する代わりに平民を守る義務があるのだと、キャレッサさんは言っていた。
話は戻って今泊っている屋敷は今日魔法訓練をした訓練場の他にも馬術や弓術と言った訓練施設も存在する。魔法使いが弓を習うのか?と疑問に思ってしまうが魔法使いでも特殊な矢に魔法を込めて放てば魔法を使うよりも消費する魔力を抑えられ尚且つ弓の腕が良ければどんな距離でも精度よく狙った場所を当てることが出来るので、弓を用いる人は多いようだ。
その他にも召使いの人が泊まる家、警備の人が泊まる家、基本的に召使いの人は月単位で屋敷の敷地外に出ることが出来ないので休みの日に休息する為の酒場や公園と言った場所もあり文字通り小さな町が出来上がっていた。
「魔法使いの本文は魔法ですが、軍人で兵士でもあるので武術は必要となります」
場所は変わって敷地の北側、各訓練場が集まる屋敷の北側には警備隊の駐屯地の様な施設と併設されて剣術、槍術、弓術と言った戦争で主に使われる主要三種の武術の訓練場がある。
そんな場所で魔法使いの先生であるキャレッサさんの相方となる武術の先生のシュナイさん、貴族という面影が強いキャレッサさんと違いシュナイさんは如何にも軍人といった威圧感のある姿をしている。
腕にはいくつもの傷跡が残っていて赤黒い肌にはっきりと残る傷跡は歴戦の戦士と言った感じだ。
しかしシュナイさん自身は見た目と違い物凄く丁寧で一つ一つの所作が貴族たらしめていた。
「魔法使いの近接戦闘は一般の兵士たちとは違い武器に魔力を纏わせます。魔法使いは必然的に体に魔力を纏っており魔力の込められていない弓矢や剣と言った武器で傷つけることが出来ない為です」
実践して見せます。とシュナイさんが言うと目の前に立っていたシュナイさんの姿が一瞬ブレた。
バキン
壊れる音に気が付いた時にはシュナイさんは腰に携帯していた剣を抜刀しており、すでに振りぬいた状態だった。しかし、その振りぬいた剣は根本からポッキリと折れており地面には折れた刀身が落ちていた。
「魔力を込めていなければこのように簡単に剣が折れます。込める魔力も対象のオーラより少なければ傷をつけることが出来ないです」
そう淡々と説明してくれるがいきなり切りつけるのはどうなんだろう……確かに傷はつかなかったが一言ぐらい欲しかった。
それでもシュナイさんの抜刀は抜き終わってなお気が付かなかった。もしシュナイさんが魔力を込めて斬りつけていたら今頃僕は気が付かないまま絶命していたはずだ。
「ユウト様はイベルザの警備兵として訓練を積んでいたようですが、魔法使いの近接戦闘は大きく違います。魔法使いは近接戦闘するまで近づいた場合、常時身体強化を行い、身体に纏うオーラを大きくします。その為魔法使いは常人ならざる腕力と脚力を振るってくるので人間と言うより魔物と思った方がいいです」
「こんな風に」とシュナイさんは身を屈めると一気に跳躍する。ドンと普通ではありえない音と共に自分の背丈を優に超える程の跳躍を見せる。あんぐりと口を開けながら空を見上げればはるか上空に飛ぶシュナイさんの姿
「これぐらいなら平民出の魔法使いや魔力に富んだ兵士でもできます。戦場では常に油断なさらないように」
確かにこれは油断すれば危ない、そう思った戦闘訓練だった。
日も落ち始めた頃、外での訓練は一通り終わり屋敷の中に入る。大量にある部屋の中には作戦室と呼ばれる場所もありそこでは大きな机から王国全土を記した地図が貼られている。ボードゲームの駒の用が地図上のに置かれていたり、隣接する小部屋にはぎっしりと資料が並べられていた。
「カスーティア王国では現在西部、北部において二つの戦線を維持しています。西部では一応戦争状態と言う形になっていますがここ数年は国境沿いで膠着状態です」
作戦室に貼られている王国の地図に指揮棒を指しながらキャレッサさんが今のカスーティア王国の状況を説明してくれる。
「ユウトさんは判明した魔法の実用性によって変わりますが、男爵として生きていくことになります。そうなると必然的に出兵義務が生じ現在のカスーティア王国について学ぶ必要があります」
祝福の子はその代から爵位が授与されるそうだ。僕が例え全く使えない番外属性であっても貴族と同等の魔力量を持っているだけで価値があるようで、貴族となれば自然と国を防衛する義務が生じる。正しくは遠方の戦線へと赴く義務が発生し、今後を見据えてこのような授業が行われるそうだ。
本来であれば貴族生まれの子供は王都の学校に通い、魔法使いそして軍の指揮官として学びそこには男性女性の区別は無いそうだ。兵士であれば身体能力が高い男性が選ばれる事が多いが魔法による身体強化のお陰で、指揮官クラスになると男性女性の比率はほぼ半分となるらしい
15歳で成人してなんの教養も無い僕が幾ら貴族並みの魔力量を誇っていても大勢を指揮することなんてできないし高度な計算すらできないのだ。
と言う訳で太陽が昇っているうちは魔法や武術の訓練、日が落ちれば座学と言った。警備兵暮らしよりも過酷な生活を送っていた。しかし身の回りは全て屋敷の女中の人がやってくれるしご飯も美味しい
キャレッサさん曰く王都で様々な根回しが終わるのは半年ぐらいかかると言われた。それまでに恥をかかない程度最低限の知識や礼儀作法を叩きこむと言われた。