第7話 祝福の子
「番外属性の祝福の子ですか……本当に存在していたとは」
教会の魔法適性試験で倒れた若者が居たと報告があり個別で試験をしてみれば今回持ち運んだ属性は識別する水晶全部反応が無かったのだ。
各都市で行われる魔法適性試験において体調不良を訴える少年少女は少なからずいる。原因は優れた魔法感知能力及びに急に発現した膨大な魔力に当てられ熱に魘される様な感覚に陥るためだ。
しかしそれは優れた魔法使いの卵という事にもなる。その為教会の人間やそれを監督する貴族連中は体調不良を起こした少年少女を手厚く保護をし己の陣営に迎え入れようと働き始める。優秀な人材発掘と言う側面もあるわけだ。
カスーティア王国東部に位置する多民族都市イザベル、東部では有数の巨大都市で隣国から流れてきた移民を受け入れて発展してきた都市だ。大の亜人好きとして知られる。変わり者のソルダン伯爵が治めるこの土地は他にはない独自な文化と技術を持つ
異人排除の言が強い王都や南部諸侯とは折り合いが悪いが多民族都市の利点か優秀な人材が集まりやすいこの都市では毎年優れた人材が発掘される。
ソルダン伯爵もその事を分かっているようで何かと手を打ってはいるようだが、宗教貴族と衝突を避けているようで青田買いのようなこの行為も黙認されている現状だ。
「あのあふれ出る魔力量……優秀すぎるのも問題化と、あれでは王都で騒乱の種になります」
「間違いないな」
検査しなくてもわかるほどの身体からあふれ出す魔力、恐れ多くもカスーティア王国の王族や侯爵貴族と何ら遜色がない程だ。加えて6大魔法から属性が外れるとなると更に希少性は高まる。
優れた魔法使いの多い王都でさえ6大魔法から外れた番外属性を持つ魔法使いは少ない、どれもが癖が強く未開の部分が多いのが番外属性だが【命】の番外属性を持つラスター子爵は最初は一代の騎士爵でしかなかった存在がその希少性と有用性から子爵まで成り上がり王都でも勢いを持つ人物だ。
属性や魔力量は遺伝しやすいが番外属性はあまり遺伝しない、無論自然発生より確率は格段に高いのだが100人子を産んで1人に遺伝するかそういうレベルだ。
件の祝福の子が番外属性となれば騒乱の種となるのは必至だ。もしサラン子爵のように有用な番外属性だった場合、傍系王族に召される可能性すらある。更にその子が番外属性を引き継いで王に名乗りを上げた場合このカスーティア王国は戦乱の世が訪れる。
飛躍し過ぎと言う考えもあるがあり得ない話ではない、少なくともわしの様な宗教貴族であっても番外属性の祝福の子と言う存在ではあまりにも得た魚が大きすぎて匿いきれない。
幸いあの部屋に居た人間は信頼のおける部下だ。こうやって今話している部下も私の子に連なる騎士爵の出だ。今だと話は外に出ない。
「しかし、このまま放置しておくのも無いだろういずれは伯爵に見つかるのがオチだ」
あれだけの魔力量、調べてみれば外縁警備隊に所属しているらしいが、いずれは頭角を現す。それを逃すほどソルダン伯爵は甘くは無い、となれば……
「ゼナスト大公様ですか?」
私の考えを先読みした部下がそう答えた。私の親となる大貴族、ゼナスト大公殿下は我ら宗教貴族を束ねるカスーティア王国随一の大貴族様だ。傍系王族から独立した貴族でかの方ならこの問題も抑え込む事が出来よう
そうすれば私の覚えも良くなる。過ぎた物は身を亡ぼすと言われる。ここはゼナスト大公殿下に話を通すべきだろう
「至急殿下に手紙を出す。用意をしろ」
「御意」
私の命令を聴きすぐさま行動を開始する。申し訳ないが彼を放置するという考えはもうない、下手に換金して心証を悪くしてもまずい、平民には過分なぐらいなお持て成しを持ってお待ちいただこう
どうやら事は斜め上を行くようだ。
魔法適性試験が終わり帰れると思えば一週間近くこの豪華な部屋に籠りっきりだ。専属の召使いが貸し出され豪華な食事に見回りの世話と至れり尽くせりと言う感じ、ここまで来ると申し訳なさが先に来てしまうので断ろうと思ったんだけど、そう言うと召使いの女性の方が泣きそうな目でこちらを見てくるので断れないままそのままズルズルと日が経って行った。
仕事や孤児院に関しても話を通しているようで、ここに居ても問題ない……むしろここから出ると要らぬ騒ぎを起こしかねないのでこの部屋に居て欲しいと、あの老人の部下の人から言われては文句も言いづらい、過分な接待を受けているので慣れてしまえば良い生活なのだろうが
そんな生活が終わったのはそこから数日が経った頃だった。早朝に召使いの方から昼から今後について話があると言われていたので上等な服を着せてもらい部屋に入る。
「久しいね、元気にしていたかな?」
部屋に入れば前に会った老人と、そこに並ぶ軍人の方々が居た。
指示されて向かい側の席に座り、緊迫した空気の中話が始まる。
「君を調べた結果、やはり君が祝福の子とわかった。そして属性もまた特殊で番外属性と呼ばれる。六大魔法から外れる物だ。ここまで来ると私の手には余る案件でね、王都の偉い方々にお話を伺っていたのさ」
2週間近く部屋に籠りっぱなしだったのは僕の魔法が特殊で騒ぎになるため保護していたそうだ。そしてこの老人……オラン子爵によるとオラン子爵ですら手に余る程大事になっているようで、更に上の貴族の方に話を持っていたため時間がかかったそうだ。
「君には申し訳ないが、君が番外属性の祝福の子と言う事実が分かった時点で元の暮らしに戻れることは無いというのだけ分かっておいて欲しい、巷では噂が広がり君と接点があった人物はどこかしらの貴族連中が張り付いている」
「そんな」
そこまでの大事になっているとは、何とかならないのかと尋ねてみるもオラン子爵はどうすることも出来ないと言われ僕は思わず項垂れる。
「本来であれば秘密裏に進む手はずだった。君は勿論周りの人に迷惑をかけるのは私自身本意ではないからね、しかし王都へ送った手紙が他勢力に漏れた。久しく表れていない祝福の子、それも番外属性持ち友なれば争いの種になるのは必至」
その為、オラン子爵は親と呼ばれる上の貴族に話を持っていき根回しを行っていたらしい、下手をすれば他勢力から拉致と言う可能性もありうるようで、その為の護衛を王都から引っ張ってきたそうだ。
「地方都市という事もあって他貴族の介入はまだ少ない、王都に関しては今行けば自殺しに行くようなものだ。いずれは王都へ召喚となるだろうが今はこちらが用意した屋敷で待機して欲しい」
本当にすまない、とオラン子爵が頭を下げる。貴族様が元奴隷の俺に対して頭を下げるとは恐れ多い
「い、いえ、過ぎた接待で良くして貰っているので不満は無いです。ただ孤児院の院長や外縁警備隊の方々に手紙を出したいのですがいいでしょうか?」
「そういって貰えるとありがたい、手紙に関しても検閲させてもらうことになるが問題は無いよ」
事は僕の制御を外れ流されるままになってしまっている。短い間と言えお世話になった孤児院の方々や外縁警備隊の先輩方に何も連絡なしでこのまま居るのは義理に欠けた行為だろう、本当なら顔を合わせて話したいところなのだが今の話の流れから無理なことは分かっていた。
手紙の返信と共に、王都から僕の護衛を務める方々が丁度オラン子爵の後ろで待機している人たちのようだ。この人達はオラン子爵の親の貴族に使える親衛隊の方々のようで王都でもトップクラスの腕が経つ人たちらしい、男女の二人組はそれぞれ前あった戦争で著しい戦果を残した方のようで心強い護衛とオラン子爵は太鼓判を押してくれた。
「キャレッサ・ロマトークと申します以後お見知りおきを」
「シュナイ・サーレッサーです。」
キャレッサさんは身長の高い麗人と言った金髪の白人女性、シュナイさんはガタイの良い赤黒い肌の男性だ。巌問い言葉がよく似合う。
キャレッサさんもシュナイさんも優秀な武官でありながら魔法使いのようで、護衛でありながら屋敷で魔法を教えてくれる教師の役割もあるらしい、キャレッサさんが魔法、シュナイさんが剣や槍と言った武術だ。僕が王都で魔法使いとなるのはもう既定路線で王都が落ち着くまではイザベルに用意された屋敷で家庭教師をして貰えという事だった。
イザベルの都市には様々な区画に分かれていて、それぞれ各区画て雰囲気ががらりと変わる。その中でも西地区は貴族街と呼ばれ、領主をはじめとしたこの都市を運営する貴族が住む一体だ。そこを取り囲むように豪商だったり平民の中の有権者が囲み、治安も他に比べて格段に良い
警備隊も西地区は特に注意を払っていて西地区へ向かう道はどこかしら警備兵が在中している。
西地区にはその他にも別荘の様なイザベルにはいない貴族がやってきた場合に泊まる屋敷が幾つかある。どれも毎日何十人と言う人たちが屋敷を清潔に保っているがこれも必要経費なんだとか
そんな場所の一角、オラン子爵などの人達が止まる屋敷へ連れられた。やはり貴族街と言うだけあって、一つ一つの建物が大きく、広い庭を擁しており景観もしっかりとしていた。
巨大な門をくぐれば在中する衛兵の方が敬礼してくれる。それを片目に正面を見てみれば警備兵の駐屯地よりも大きな屋敷が現れた。庭園は勿論、付属するように幾つかの大小さまざまな建物が並び、小さな町が出来ているようだった。
他の屋敷も豪華だがここ以上に馬鹿げた広さの敷地を持つ所は無い
少し歩けば敷地内を移動する馬車が僕を出迎えてくれる。優雅な所作で恐る恐る馬車に乗れば向かい側に召使いと思われる方とキャレッサさんが乗り込む。
この屋敷でイザベルの敷地どのぐらい使っているんだろう……イザベルは東部地方でも特に巨大な都市と言うのは聞いたがここが領主の屋敷と言う訳では無いから驚いだ。オラン子爵の親となる人が使う別邸のようで、まさに雲の上の人と言える。