第6話 魔法適性試験
「あなた方は今日を持って一人の大人となります。内に眠る魔力に目覚めてこれからの人生を歩んでいきます。魔法は我々人間の手助けをするとともに簡単に命を奪う凶器ともなります。そのことを忘れず謙虚にそして幸せな人生を目指して歩んでいきましょう」
次の日の朝、起きて飯を食べればすぐに教会へと向かう、孤児院では僕以外魔法適性試験を受ける子たちは居ないので自分一人で受けに行く
場所はイベルザのほぼ中心部にある教会、王国の国教となるゴルド教の教会で都市に住む15歳の少年少女たちが一斉に集まるのだ。
教会前の広場に着けば早朝とは言えガヤガヤと人だかりが出来ていた。近辺では最も大きな都市と言うだけあって15歳に絞ったと言えども広場から溢れそうな人だかりが出来ていた。
イベルザの特色が出ているというのか、その人だかりはエルフだったり獣人だったりと様々な人種が我先にと儀式及び試験を受けようと入り口で言い争っていた。
(当分受けれそうに無いよなぁ……)
15歳は節目の年と言える。15歳になれば一端の大人として扱われるしお酒も飲めるようになる。その資格として魔法を発現させれるようになるのだがジン隊長が言っていたように魔法使いに憧れがあるのか我先にと教会へ入ろうとしていた。
そんな人だかりを整理する教会の人達も大変そうだ。しかし、このままではお昼を過ぎても受けられなさそうだ。僕は一旦広場を後にし駐屯地に向かった。
「お?ユウトじゃねぇかもう試験終わったのか?」
駐屯地へ着けば入り口にシン隊長が居た。シン隊長は目を真ん丸と驚かせるような顔をしてこちらを見た。
「いえ、人が多すぎて昼過ぎまでできそうになかったので訓練でもしようかと」
「仕事熱心だなお前は、まぁ予想は間違っていないぞ」
シン隊長曰く魔法適性試験は毎年のようにごった返すようで風物詩となっているらしい、あまりの人混みの為盗みや喧嘩が絶えないようで警備隊も出払っているようだ。毎年魔法適性試験を受けた若者たちの喜びや悲鳴を聴きつつその列は夜まで絶えないと言われた。
夕方になれば比較的人混みも落ち着くからころ合いを見ていった方がいいと言われたので、いつもより少し早めに訓練場を後にする。汗を大量に書いてしまったので水浴びをしようと孤児院へ戻る。すると結果どうだった!って群がってくる子達をまだだよと優しくあしらいつつ水を浴びる。
訓練で火照ったからだが一気に冷える。それと同時に若干熱気にやられていた意識も覚醒しスッキリした。風邪をひかないように急いで体を拭いて服を着る。下手に財布とか持ち出して盗まれても嫌なので何も持たずに教会へと向かった。
二度目となる教会前の広場へやってきた。未だ人混みは解消されていなかったが朝に比べたら人は減っていた。喧騒としていた空気も落ち着いており教会や警備隊の人達が整理券を配ったりしているようだ。
「よし、君はこの番号ね」
受付で名前と住んでいる場所を書き警備隊の人から整理券を貰う、最後列へ向かってみれば広場からはみ出て道先に並ぶことになってしまった。
やがて自分の後ろにも結構な列が並び周りが騒がしくなる。何やら友人同士で来る人が多いようで楽しそうに会話をしながら待っていた。うっすらと耳を傾けてみれば「どんな属性かな?」とか「無属性はやだなぁ」などやはり魔法関連の話が多いようだ。期待と不安が半分ずつと言ったところか
並び始めて既に陽が落ち街に街灯が点き始めた。あれほど長かった列ももうあと数人で儀式を受けるまでになっている。
「次!」
前に並んでいた女の子が気落ちした様子で横ずれ、別室へと向かう正面を見れば若干疲れた様子の神父さんが現れた。
「では水晶に手をかざしてください……そうそのまま」
目の前に置かれた水晶に手をかざす。神父さんは何やら唱え始め僕の額に手を沿える。
(なんだこれは?)
神父さんの指先が額に触れた瞬間、身体の奥から熱が一気に放出したように流れ出る。その熱は留まる事を知らずむしろどんどんと熱く強く噴出するようだ。
「これは……ヤバイ」
まるで熱湯を外と内から浴びているようだ。立つこともままならない、次第に意識が朦朧としはじめ膝をついてしまう。
「君、大丈夫かい!?」
流れ作業のようにやっていた神父さんが異変に気が付いたようで大声で声をかけてくれるがそれも途切れ途切れと意識が暗転した。
「はぁ、なんだこれ……」
気が付けばどこかで寝かされているようだ。それでもまだ意識が上手く保てない、重い風邪を引いた気分だが身体自体は万全だ。ただ火照っているような感覚が続く
原因は先程の魔法適性試験だろう、神父さんの手先が額に触れた瞬間にまるで熱湯、火山が吹き出たような感覚に陥った。
「おぉ、気が付いたかね?」
声の先を見てみれば先ほどとは違った老人が見ていた。本を読んでいたのだろうか、膝の上には広がられたまま本が置かれていて青い瞳がこちらを覗く
「驚いたよ、魔法適性試験の最中に急に倒れたからね、気分が悪くなる子はいるもんだがまさか倒れるまで具合が悪くなる子はあまりいないからね」
優しく語り掛けるようにその老人は喋ってくれる。やはり僕はその後気を失って寝かされていたのか、見た感じ教会内なのだろうか
「ここは教会に併設されている病院だよ、流石に放っておくことも出来ないからね」
「ご迷惑をおかけしてすみません」
僕が謝ると老人はとんでもないと語る。
「調子が悪くなる子はね総じて魔法の適性が高いんだ。君の場合は意識を失っちゃったからそのまま病院へ運んだけど体調が戻れば属性を判別して詳しい検査をする予定だよ」
「そうなんですか」
先程のは魔力を発現させる儀式のようだ。そしてその後別室で属性を調べて最後に魔力量を計測するらしい、ここで有望な人はまた後日詳しい話をするようだ。
「でもこの熱気と言うか……変な感じが止まらないんですが大丈夫なんでしょうか?」
こうやって話しているうちにも、お腹の奥から湧き出るような熱気が収まる気配が無い、慣れた分意識ははっきりしているが度合いで言えばもっとひどくなってるとも言えた。それを伝えると老人は更に驚いた様子でこちらを見てきた。
「ほう!まだ収まらないのか、もしかしたら君は祝福の子かもしれないね」
祝福の子とは?と尋ねると説明をしてくれた。
祝福の子とはその名の通り祝福された人を指す言葉で、平民でありながら貴族をも凌駕する魔力量を持った人たちの事だ。血筋によって力を保つ貴族と違い大した魔力を持たない平民から偶に貴族のよう名強力な魔法使いが生まれることがあるらしい、しかし居ると言っても見かけることは殆ど無いようでイザベルでも祝福の子が出たという事は過去一度もないようだ。
「まぁ気の可能性もある。単純に魔法感知が優れすぎているだけかもしれない」
「そうですか……」
祝福の子か、そういわれると脳内では悪魔憑きや呪われた子と言われた妹の事を思い出してしまう
その後も体の変調が収まることは無かった。しかしそれでも大分慣れたので検査をすることにした。老人は無理しなくていいんだよ?と言われたが長居するのもよくない、窓の外を見れば辺りはすでに暗くなっており孤児院の院長も心配してるかもしれない
大丈夫です。と一言言うとまだ心配そうな目で見るが諦めたようにベルを鳴らす。
「お呼びでしょうか?」
ベルを鳴らすと大して間を置かず教会の人が部屋を訪れた。老人は何やら伝えるとその教会の人は軽くお辞儀をして出ていた。
(この人もしかして偉い人なのかも)
見た目は普通のご老人だが今のやり取りを見るに教会の偉い人かもしれない、もしかしたらやってしまったと思ったが当の老人は何事もなく本を読み始めた。
30分ほど時間が経った後、ドアがノックされた。本を読んでいた老人が入れと言うとまるで軍人のような人が入ってきた。
「枢機卿、準備が整いました」
「そうか」
軍人にそう言われた老人は立ち上がり僕の方を見て優しい顔で「さあ行こうか」と語った。
最初に儀式を受けた会場とは違い周りには兵士の方々が並ぶ、その中にはローブを着た如何にも魔法使いの姿をした人も待機しており全員が僕の方を見ている。
(居心地が悪い)
雰囲気から分かる全員が僕どころか警備隊の小隊全員で飛び掛かっても傷をつけることが出来ない程の強さを持つ強者のオーラが一人一人から感じ取れる。
(気配とか、あんまり気にしたことは無いんだけど)
訓練をしていた時、シン隊長は後ろに目があるんじゃないかという程の回避を見せることがある。本人は気配を感じ取れると説明していたがこういう事だろうか
「では始めようか」
老人の一声でまた空気ががらりと重くなる。指示されたのは6つの水晶が横一列に並べられていた。要はこれを順に手をかざしていけばいいらしい
一番左の水晶に手をかざす……が反応は無い、目を配らせてみればそのまま次の水晶へと手をかざすが反応は無い、そして最後の一つに手をかざしても反応は無かった。
(なんかやっちゃったかなぁ……)
最後の水晶に手をかざしても反応は無い、最後の水晶にも反応が無いとわかると周りは急にざわざわし始め話始める。
「無属性でもないのか、となると別の属性になるが番外属性の鑑定水晶は王都へ行かないと無いぞ」
「流石に番外属性は想定外でした。平民で番外属性持ちは中々いませんからねしかし魔力量の方は?」
後ろでは先ほどの老人と側近と思われる人たちが話している。
部屋の喧騒を後に別室へ移動する。奴隷館の主人の部屋よりも更に豪華そうな部屋が宛がわれた。戸惑っているとゆっくりしてくださいと言われるがこんな場所で寛げるはずもない
とりあえず椅子に腰を下ろすが連れてきてくれた軍人の方はその場を立ち去らずドアの横で待機し始めた。
沈むと表現できる程のふかふかの心地よい椅子だがそれでも気が晴れそうには無かった。