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第5話 外縁警備隊

孤児院に来てから一か月が経った。


最初はぎくしゃくしていたけど、孤児院のみんなとはそれなりに仲良くできていると思う元々同い年や年下の子たちとの共同生活は昔からやっていたし見つけた仕事に関してもあの鉱山労働に比べたら天国のようだ。


この都市……イベルザでは最初に様々な仕事をさせてもらった。慣れ親しんだ畑仕事から裁縫、手紙を届ける郵便に都市の清掃作業といった色んな作業をこなしてつい先日、仕事が決まった。


どれも卒なく出来たと思うし、畑仕事は慣れていたという事もあって他の子達より作業が出来ていたが今足りない人員が足りないと言われて外縁警備隊だ。


外縁警備隊は都市の治安を守る警備隊と違って都市近辺の警備を担当する人間だ。周辺の村の警備からイベルザへ運ばれる物資の護衛、モンスターの討伐と様々ある。採用理由なんだけど元々上背はあって鉱山労働のお陰か体が他の子達より鍛えられていた事もあってか荒事の多い外縁警備隊へと配属になったのだ。


危険は付きまとうけど郵便や畑仕事より格段にお給料が良いし力仕事もあってか配給される食事もボリュームがあって良さそうだ。まだ入ったばかりなので仕事は無いが警備隊の建物に付属されている訓練場で日が落ちる時間まで訓練の毎日だ。


毎日倒れるまで走らされたりするけどご飯は美味しい、孤児院でも力仕事をしている子たちは夕食の量が多いのでありがたい、夜になったらボードゲームとかで遊ぶ子たちが多いけど僕はお腹いっぱいになったら眠くなってしまうのでいつも一番先に眠ってしまう




ヤアァ!


肺一杯に貯めた息を一気に吐きながら狙いの的を槍で突く、支給品のなんの飾りのない槍を一閃藁で巻かれた的へ槍先が深々と刺さる。なんの変哲もない突きだけどこれがしっかりと出来るまでに一週間もかかった。槍自体が重く、槍先に重心が寄っているので振りかぶるならそこまで難しくないけど突くとなると狙った場所に中々突けない、今も完ぺきとは言えないけど大分出来るようになったと思う


「おう、張り切ってるな」

「シンさん!お疲れ様です!」


練習をしていたら後ろから僕の上官、シンさんが声をかけてくれた。


シンさんはこの道20年のベテランでイベルザ外縁警備隊第41小隊の隊長だ。身長は僕の方が高いけど長年勤務によって鍛えられた体は岩のように固い、訓練の時は鬼のように厳しいけど食事を奢ってくれたり何かと世話してもらっている恩人だ。


「訓練を初めてもう一か月か……最初は槍もまともに使えなかったが一端の新兵となったな」

「恐縮です」


50人居る小隊の中では一番の新人で勿論一番弱い、それでも先輩たちは荒っぽい人が多いが基本気の良い人ばっかりだ。組の人達も何かと目をかけて貰っている。


「他のやつらもお前みたいに根性があればいいんだがな……」


やれやれと少し悩んだ様子でため息をつく、シンさん曰く最近の若い人たちはあまり警備隊に所属しないようだ。給金が悪いと言う訳では無いようだが訓練や集団行動が嫌なようだ。最近では魔法使いを目指す人が多いようで、力自慢の人達は大体冒険者に流れてしまうらしい


そんな嘆きを聴きつつあっそうだと思い出したようにシンさんは口を開いた。


「そういえばユウトの初出動が決まったぞ、明日正午よりイザベル南門集合、周辺のモンスター討伐だ」

「明日正午に南門集合、了解しました」

「都市周辺の掃除だ。余り気張っても持たないぞリラックスしていけ」


都市周辺のモンスター討伐は毎日どこかしら行われる。イザベル周辺はあまり強力なモンスターは出てこないのでもっぱら新人や日が浅い隊員が行う業務だ。極稀にDランク以上のモンスターが出現したりするがその場合はベテランの警備隊、もしくは冒険者が対処する。


それにしても初任務、出てくるモンスターもGやFランクの弱いモンスター達だ。小さな子や老人には危ないがそれこそ僕の様な新人でもしっかりと装備を整えれば危なげなく倒せるレベルだ。

それじゃな、と伝え終わったシン隊長はまだ仕事が残っているようで足早に後を去った。残された僕はまだ課された訓練が残っているのでそれを続けるために槍を握りしめた。








「俺さぁ、最初は冒険者になろうと思ってたんだ。絵本に出てくるような勇者……とは言わずとも背丈を越えるモンスターや遺跡を探索して一山当てるのが夢だったんだ」


イベルザ外縁、見渡しの良い草原にはぽつぽつとモンスターが湧いている。その草原で30人の隊員が集まり二人一組で辺りを巡回する。最初は緊張したが今じゃGランクの低級モンスターではある物の5匹を討伐したあたりからだいぶペアとなった人とも打ち解け雑談を交わしながら辺りを警戒していた。


「無属性でなぁ、そして魔力量も少なかった。身体強化しようにも数分で使えなくなったら意味が無い、魔法が使えないなら冒険者としては大成出来ないとはっきりと言われてな、当時はへこんだよ」


横で過去話をする人はソラルドさん、今24歳でそれまでは都市内で働いていたそうだが一昨年外縁警備隊に入隊したようだ。


「魔法ですか」


魔法、絵本の中では大地を燃やし、濁流を作り出し雷鳴を轟かせると言われるものだ。歴史に名を連ねる人は皆魔法に長けており、警備隊でも魔法を使える人は幹部候補として育てられるようだ。


「男ならやっぱ魔法は憧れるよな、まぁ平民が強力な魔法を使えるわけが無いんだがそれでもいないことは無いからもしかしたら……と思っても現実は残酷だ」


魔法は遺伝するようで強力な魔法使いの出身は殆ど貴族の出が多い、それも貴族出身の魔法使い一人は一般魔法使い100人が集まっても勝負にならないと言われるぐらいに強力で王族ともなれば山より大きなドラゴンすら簡単に屠ってしまう用だ。


「ユウトも今度魔法適性試験があるだろ?まぁ期待するのはいいが期待しすぎると反動がつらいぞ」

「そうですよね、まぁ属性があれば御の字ですが……」


そんな魔法だが平民であったとしても魔法を使えるものは重宝される。元々魔力を持っている人間は力も強く頑丈で、ヒョロヒョロの体でも片手で丸太一つ軽々と持ったりするらしい


魔力適正試験は15歳以上から受けることが出来る。試験と言っても教会で儀式を受け己に眠る魔力を解放させるだけの簡単な物だ。イベルザでは年に一回15歳を過ぎた若い人たちが都市内にある教会で一斉に受けるのだ。


「やっぱり火と水だったらどこでも重宝されるから良いな、風も魔力が多ければ良い」


魔法には火、水、雷、風、土、無という属性がある。貴族や王族になると希少な属性もあるらしいがほとんどの人はこのどれかに該当する。偶に二種持っている人はダブルと呼ばれ三種はトリプルと呼ばれたりする。

ただ属性を持っているだけなくそれに内包する魔力量が多ければ都市の有権者がスポンサーになってくれたりする。特に優秀では王都に呼ばれたり下級貴族の婿や妻になったりすることもあるようだ。


「まぁ大体は無属性だけどなっ!」


そう口にしながらソラルドさんは見つけたモンスターへ槍を突きながら言う、無属性とは何の属性を持たない、火属性の適性があっても消費魔力は多くなるが水属性や雷属性が使えない訳では無い、しかし無属性となるとどんなに魔力量があっても他属性を唱えることが出来ないのだ。ちなみに何かしらの属性を持っていたら無属性も使えるので余計に無属性の人は冷遇される。


「俺もなぁカイン将軍みたいに無尽蔵な魔力があれば別だけどよ、ただ多いだけでも意味ねぇからな」


無属性は主に身体強化が使える。その使い手として王国の将軍が居る。カイン将軍は首切りのカインと言われその名を王国のみならず周辺諸国まで轟かせている。

何が凄いかってカイン将軍は無属性ながら王族をも上回る魔力量を持つのだ。無限とも言われる魔力量に物を言わせて敵を殴る。すれば大地は裂け海は割れる。


剣を振れば数十人と吹き飛び幾重にも張られた魔法障壁すら物理で破る。と言われる人物だ。


「おいあれ……」


南門を出発して街の外壁を沿いながら正門へ着いた。門前では外地からやってきた商隊が都市へ入るための審査を受ける為行列を成していた。

その長蛇の列を横目に都市へ入る一団があった。警備隊が列を成し馬車を入れている。その周りにはおつきの兵が護衛を成しており総勢で100名を越えそうな大所帯だ。


「あれだけの数となるとどこかの貴族様だろうな、金がかかってるようでやだやだ」

「あれがそうですか」


確かにソラルドさんが言っているように金がかかっているようだ。貴族様が乗っていると思われる馬車は勿論馬でさえ体つきが大きくがっしりとしている。護衛の兵だって僕たちの様な警備隊とは日にならない程の装備だ。


「とりあえず折り返すぞ、貴族様に平民が近づいてもいい事がねぇ」


そう言うとソラルドさんは来た道を戻る。僕はその後を追いかけるように駆け足で走る。

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