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第4話 孤児院

 狭く暗く、硬い床で寝ていた奴隷館、掘って作られた大部屋で他の奴隷達と寝ていた鉱山と違い、柔らかいベッドに温かい食事は事件からそれなりに日にちが経っても慣れないでいた。


 食事を持ってきてくれる看護師の人はそれが普通の事というが、奴隷だった日々が普通だった自分からしてみれば、おとぎ話に出てくるような貴族の豪華絢爛な生活とは言わないまでも、今までの価値観が全否定されるような気持ちだった。


 親も居ない、お金も持ってないのに治療してもらって、食事も貰えて大丈夫なのかと思ってしまうが、定期的に話を聞きに来る兵士の人から聞けば、これもこの王国が世界随一の豊かな国だからだそうだ。他の国では身元もお金も無い人間は見捨てられるそうだ。


 そして僕がいる街は奴隷館のある王都からは遠く、辺境の村や街を統括する領主様がいる都市だそうだ。


 僕が行く孤児院では女子は孤児院で裁縫をしたり、民芸品を作ったりで男子は農作業、都市の清掃、郵便と呼ばれる物を運ぶ仕事をするのだそうだ。


 そして稼いだ分の半分は孤児院に、もう半分は娯楽に使ってもいいし、将来の貯蓄のために貯めてもいいのだそうだ。希望があれば危ない仕事以外は基本的何でもいいらしい


 僕はこれから始まる新生活に希望と不安を同じぐらいの割合で抱いていた。孤児院には親を亡くしたりで孤児院に預けられた子たちがいるそうだ。








「それでは・・・・・行こうかユウト君」


 孤児院まで連れて行ってくれる兵士の人が病院の人と手続きを行い、終わった後僕はお世話になった人たちにお礼のあいさつをして、孤児院へと向かった。


「王都とはまた違う・・・・・」


 王都を歩いたことがあるわけではないが、奴隷館の外から見る王都の景色と、今いるこの都市は全然違っていた。


 人通り自体は王都の方が多いが、人種が多種多様というか、ほぼ白い肌の人間が多い王都に比べこの都市は肌が黄色、茶色、黒色の人間から、耳の長いエルフ、獣人、ドワーフと亜人も多種多様だ。奴隷館にも亜人はいたが、人間の奴隷に比べて圧倒的に数が少なく、この都市でぱっと見てもやはり人間が一番多いが、街を歩く中には亜人の数もそれなりにいた。


「ハハハ、そりゃあ王都とは全然違うだろうね、この都市イベルザは他の都市に比べてもちょっと異色だからね」


 僕が思わず呟いた小声を聞き取っていた兵士の人は笑いながらそう答えた。


「イベルザはこの王国であれば一番亜人達が多い都市だよ・・・・・まぁ領主様の意向が一番大きいが、白人主義の王都しか見てなければこの光景は驚くだろうね」


 若い男の兵士の人は、そう説明してくれるが、言葉の端々に若干の棘があった。


「僕は王都は全然知らないですが、この都市は好きになれそうです。活気があって、いろんな人が居て楽しそうです」


 僕がそう答えると、少しピリッとしていた兵士の人の空気が変わり、穏やかな表情で僕の方を見てくる。


「そうか、だったらこの都市も君を歓迎してくれるだろう」


 そんな会話をしながら僕と兵士の人は孤児院を目指した。








「ここだ」


 病院からそれなりの時間を歩き、立派な建物が並んでいたイベルザの中心から離れ、路上で果物など様々な売り買いをしている市場にたどり着いた。先ほどと全く違い生活感漂う中、一際大きな建物にたどり着いた。


 木製の建物が周りに多い中、その建物はレンガを積まれた二階建てで建てられており、敷地の端には倉庫のような建物、奥には畑のようなものも見られた。


 そして僕は建物の入り口へと向かい、建物に入っていった兵士の人を待ちながら玄関にて建物の中を見渡してみた。


 奴隷館と違い、監督官の大人の姿は無く建物内を歩く人物は全員自分と同じか、それより下ぐらいの子供たちだった。


 その出会った全員が不思議そうに僕の方を見つつも各々の場所に移動していった。


 少し居心地悪さを感じながら待つと、兵士の人が戻ってきた。


「よし、これから院長さんにあいさつしに行くぞ、靴をそこに脱いでついてきてくれ」


 そういわれると、僕は素直に従い兵士の人についていく


 ギシッギシッと床が軋む音を鳴らしながら、孤児院の中を歩いていく、様々な部屋があり、ちらっと中を見てみると小さい子がおもちゃで遊んでいたり、僕と同じぐらいの年齢の女の子が裁縫をしていたり、外では男たちが和気あいあいと農作業に勤しんでいた。


 皆、奴隷館と似たようなことをやっていたが奴隷館とは違い雑談をしながら、殺伐とした感じではなく、友達同士、家族同士のような温かさを感じた。


「失礼します」


 そして院長室と書かれている部屋の前にきた。僕は兵士の人に倣い、部屋に入ると同時に失礼しますと言いつつお辞儀をした。そうやってから部屋を見てみると事務用の机で書類を書いている初老の女性が筆を止めて立ち、こちらを見た。


「こんにちはユウト君、私がこの孤児院の院長ヘレネです」


 どこか近寄りがたい奴隷館の主人様と違い、落ち着いた優しそうな雰囲気は、少し緊張していた身体を一気にほぐしてくれた。


「ではユウト君」


 僕は言われるまま備えられてた椅子に座り、その隣に兵士の人が、僕の体面にヘレネ院長が座った。


「話は聞いているわユウト君、これまでの人生さぞ辛かったでしょうね・・・・・でもこれからの人生、この孤児院があなたの家となりみんなが家族となってくれるわ」













 そのあとは事前に聞いたことを確認する感じだった。15歳の僕は18歳までの三年間この孤児院で暮らしていくようだ。希望があればそれよりも先に、最長で23歳までこの孤児院で暮らすことが出来そうだ。人によってはこの孤児院の職員になった人もいるそうだ。


 そして孤児院では12歳から孤児院に何かしらの利益をもたらす仕事をしないといけないそうだ。これも病院で兵士の人から聞いたことと同じだった。とりあえずこれから一週間は孤児院の人たちと交流したり、仕事を見たりと回って欲しいとクレア院長から言われた。


「それではユウト君、またいつか」


 30分ほど話した後、これまで連れ添ってくれた兵士の人は院長室を後にした。僕は少し寂しさを覚えつつもクレア院長を見る。


「では私たちも行きましょうか、ユウト君」








 クレア院長に連れられて来た場所は院長室に向かう前に見た裁縫をしている女の子たちの部屋だった。


 陽が入り、明るい質素な部屋には僕とクレア院長の他に4人の女の子たちが色彩豊かな織物をしていた。


「こちらにいるのが今日から孤児院に入るユウト君よ、みんなよろしくお願いね・・・・・ではミナ」


 クレア院長から呼ばれたミナと呼ばれた黒いショートカットの髪の女の子が途中だった織物を一旦机に置き僕の目の前に向かってきた。


「よろしく、ユウト」


 猫のようにこちらを見透かそうとしながら差し出された手をこちらも答えるようにつかみ


「こちらこそよろしく」


 何とも無難で当たり障りのない挨拶をしかえした。


 他にも一緒に居た女の子とも当たり障りのない挨拶をした。クレア院長は僕が一通り挨拶し終わると、すぐに他の子にも挨拶をしないといけませんからと場を離れた。特に話すことのない気まずい空気が流れなくて済んだ自分は内心ほっとした。

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