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第1話 呪われし双子の兄妹

 産まれてからずっと、僕と妹は世界というものを知らない

 話に聞くと、世界はとっても広く、海と呼ばれるとても大きな池から一面辺りが砂だらけな砂漠、年中燃える山が世界にはあるらしい


 僕と妹は産まれてからずっと奴隷と呼ばれてきた。監督役の男の人が言うには僕の妹が刻印憑きという形で産まれたため、双子の兄として生まれた僕も一緒に奴隷として売られたんだとか


 確かに僕の妹の右腕には黒い幾何学模様が描かれている。僕としてはそんな妹がカッコよくて仕方がないのだが、妹を含め周りの人たちは悪魔憑きだとか呪われた存在だとかよく言っている。当の本人である妹も言葉をしゃべれるようになってからずっと「兄さん、本当にごめんなさい……私と一緒に産まれたばっかりに……」と何度も涙を浮かべながら謝ってくる。


 僕としてはそんなこと謝られても困るのでいっつも慰めているのだが、妹は僕に謝ることをやめる気はないらしい


 妹はとても優秀だ。


 僕は小さいころからずっと奴隷館の畑で農作物を育てているのだが、僕の妹は奴隷の中でもとても頭がよく、奴隷館に来てからすぐに文字を覚えたし、僕にはわからない複雑な計算も一瞬で解けるのだ。刻印憑きのため奴隷として売り物にはならないが、奴隷館の会計を担っているらしい、なんだかんだで優しい奴隷館の主人様も頼りにしているのだとか


 妹はとっても可愛い、前に主人さまが言っていたが、僕の妹は相当顔が整っている方で、刻印憑きで無ければ間違いなく貴族様買われていたのだとか、これも刻印憑きのため売れないが計算が早く会計士という価値があるため主人様はちっとも痛くないのだとか、だけど学のない僕はさっさと売られないか!と怒られてしまった。


 妹はとても感情が豊かだ。普段、妹が周りに見せる表情はまるで氷のような無表情だ。奴隷のみんなや監督する人たちからは怖がられたりしているが、実際はそんなことはない、一日の仕事が終わり、他の奴隷達からは離れた場所にある奴隷館の端っこにある小さな小部屋で寝る前の僕ら二人の時間の時には、今日は窓でリスが遊んでいただとか、鳥たちが上手に歌っていただとか、身体全体で表現しながら笑顔で僕に話してくれる。僕も妹もその少なくはあるもののその時間がとても楽しく大切だ。毎日畑仕事は辛いけど、この時間があればずっとこのままでいいと思っていた。




 そんなことを思った次の日




「アレン!ちょっとこっちにこい!ダンズ様がお呼びだ!」


 太陽が一番高く位置する時間帯、汗水たらしながら他の奴隷たちとせっせと農作業にいそしんでいるときだった。


 日陰に座って監視している男性が、通信石で何か連絡を取り合って終わった後、突然僕を呼び出した。


(僕、なんか悪いことしたかな?)


 前は物覚えが悪いため、色々と呼び出されてはお叱りを受けていたが、最近は作業にも慣れて他の奴隷の人たちに教える立場にもなった。久しぶりの呼び出しに何事だろうと首をかしげる。


 周りの奴隷を見てみれば、全員がこちらを見ていた。みんな表情は一緒で何やら僕を憐れんでいるような表情をしていた。


「何をぼーっとしている!早く来い!」


「は、はい!」


 しびれを切らした監督官から怒鳴られた。僕は急いで彼の後についていき、主人様が待つ部屋まで移動した。









「……集まったか」


 奴隷館の主である、主人様の声と共に始まった。煌びやかな応接室とは違い、質素な主人様のお部屋では僕を含め、数人の若い男の奴隷が集められていた。他のみんなは顔を真っ青にしてみんなうつむいている。そんな奴隷たちのことを知って知らずか主人様はフンッと強くは鼻息をならし、話始める


「まぁ、大体の奴は察しがついていると思うが、お前たちの買い手先が見つかった。行くところはここから歩いて数日、ラビア採掘所だ。お前らはそこで鉱夫として働いてもらう」


 主人様がそう告げた瞬間、他の奴隷たちが身体が強張った。全員が顔を顰め、手から血が出そうなぐらい拳を握り締めている。


「まぁ、鉱夫として買われるのだから己の身代金分稼ぐまでに生きて自由の身になる確率はほとんどないだろう、まぁ運が無かったと思って来世頑張ってくれ、出発は明日だ、それまでに心の準備をしておけ、以上」


 主人様にそういわれると奴隷たちのみんなは全員生気を失った人のように動き出した。まるで死刑宣告された人のようだ。


 鉱夫、これはそれなりにいる奴隷業界でももっともなってはいけないと言われている就職先だ。鉱夫になるぐらいならスキを見て死を選べと言われているぐらいだ。

 生きている間、ずっと暗闇の鉱山の中で、落盤や鉱毒に注意しながら採掘をする。陽を見ることは決して叶わず、死ぬまで暗闇の世界だとか


 その分、給料はいいらしい、といっても働いた分の給料は奴隷商から買った金額から幾らか足されたものに補填される。鉱夫では一年働けば、奴隷から解放されるという法律があるのだとか、もっともそのほとんどがその前に死ぬらしいのだが








「僕、鉱山の鉱夫として売られることになった。明日、ここを出るらしい」


 農作業が終わって、長年住んだこの部屋、そしてもっとも幸せな時間、今日は何を話そうかとにこにこと笑顔で考えていた妹を遮って僕は伝えた。


 シーンと静寂が部屋を包んだ。それを聞いた瞬間、妹は花のような笑顔が一瞬にして、氷のような冷たい表情に変わった。


「う……嘘ですよね?」


 擦れるように絞りだされた声、その言葉の端々は震えていた。今では芯も強く我慢強い妹だが、今見ている妹は泣き虫だった昔の姿を見ているような気分だった。


「大丈夫、確かに仕事は危ないけど、一年成し遂げれば自由になれるし、そしたらユウナを出してあげるように頑張るから……ねっ?」


 ユウナ、僕の可愛い妹、たった一人の家族、よしよしと震えるユウナの背中をさすりながら言い聞かせる。本当ならこの話はすぐ止めて、お互い自由の身になったら何をやりたいか夢を語り合おうと思っていたが、ユウナを見ていたらそういう気分でもなくなった。


 その日の夜、二人は眠ることなくずっと今生の別れを惜しむように抱き合っていた。












 別れの朝を迎えた。小さな窓からは陽の光が差し込んでいる。かすかに聞こえてくる物音は他の人たちが朝の準備をしているのだろう


 そっとユウナの顔を確認してみる。


 酷い顔だ、誰もが綺麗と言う顔は一日にして変わり目にクマができて生気が感じられない、昨日の一緒に鉱山行きを言われた他の奴隷たちと似たような顔をしている。


「ユウナ……じゃあ、行くね」


 本当なら付きっ切りで看病してやりたい気持ちだが、行かなくてはならない、別れを惜しみつつも僕は部屋を後にした。部屋を閉める瞬間、一瞬ユウナがこちらを見た気がしたがこれから僕無しでも本当に大丈夫なのだろうか







「よし!出発だ!」


 野太い男性の声と共に、僕たち奴隷を乗せた馬車は動き出す。


 契約は思っていた以上にあっけないものだった。大柄の男性が主人様に袋を渡し、主人様はその中身を確認するとにっこりと今まで見せたことのない満面な笑みを浮かべその男性と握手をした。そして逃走や反逆防止用の魔法のかかった首輪を外すのと同時に、またそれと新しい主人が登録された首輪が同時に装着された。


 そして生まれて初めて奴隷館を出た。出た街並みはいつも奴隷館の敷地内にある畑から見る景色とは全然違く、人込みでごった返していた。そんな感嘆を突く暇もなく、僕ら奴隷たちは鉱山行きの馬車に詰め込まれ、少しの時間が経った後に馬車は動き出した。

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