定員
人間として真面目に生き、天寿を全うした男が、閻魔の許へとやってきた。閻魔は、亡者の生前の行いが記された閻魔帳をしばらく眺めた後、男に対し裁きを下した。
「お前は生前、とても良い行いをしてきたようだな。生まれ変わるとしたら…」
「お待ち下さい、閻魔様」
閻魔の下した裁定に、男は異論を唱えた。
「自分で言うのもおこがましいのですが、生前、私は真面目に生きてきました。それなのに、天国には行けないのですか?」
男の疑問は至極当然であり、事実、男は天国に行くに値する人生を送っていた。
男の疑問に、閻魔はばつが悪そうに頭を掻きながらも答えた。
「確かにお前の言う通りだ。本来ならば、お前は天国に行っていただろう…。しかし、天国や地獄は今、亡者を収容出来るだけの余裕がない。定員がいっぱいなのだ。そこで一年程前から、あの世にやってきた亡者達には、転生してもらっている」
「そんな事情が…」
初めは信じられないといった様子の男であったが、そこは生前、賢く真面目に生きてきた男、直ぐに気持ちを切り替えた。
「あの世も色々と事情があるのですね。わかりました。生まれ変わり、また人生を送ろうと思います。…そうだ、次に生まれ変わるのなら、女性がいいかもしれない。そうだ、そうしよう。決めた、女性にします。女性らしい素晴らしい人生を送るぞ」
期待を胸に膨らませる男。だが、閻魔は言いづらそうに男に告げた。
「それなのだが、現在、人間への転生も定員がいっぱいでな、今なら小魚か虫のどちらかに…」




