首根っこをつかむあれ、猫は苦しくないのだろうか
そういえば、「性癖」という言葉、性的嗜好、フェティシズム、変態性欲の意味で使われるのをよく見かけるようになりましたね。言葉の移り変わりとはある程度仕方のないものとは思いますが、まさにいま過渡期に生きている我々は、「性癖」とは本来性格、趣味嗜好という意味であることを念頭に置いて置くべきではなかろうか。
特に、ライトライトしたノベルではなく真面目よりの文章を書きたいと考えている方、堅苦しい言葉を使いたいところに急に現代ないずされた言い回しが出てくると、突っ込まれる恐れがあるので気をつけましょう。少なくともこむるさんが盛大に心のなかで突っ込みます。
「雨の日も快適な足元に」がコンセプトのシューズクリップ型魔道具――着脱可、オプションで防寒機能追加、ピンタイプにも変更可能――の製作を終えてお昼をおじいさんとエリーヌお母さんと食べた。
近頃では、セニエのお家でお昼やお茶を一緒にすることも増えてきた。オリヴィエお父さんは仕事の都合により一緒だったり一緒でなかったりで、自分だけサキに会える回数が少ないと拗ねているらしい。
お城に戻ってきたサキは、今日はいつもよりお城に活気があることに気がついた。
いったい何が違うのだろうと、回廊から庭を見渡す。
「あ、そうか騎士の人が――」
騎士だけでなく、魔法使いらしき人たちもちらほら見える。
「昨日、最終組のかたがたが森からお戻りになりましたからね」
隣を歩いていたメイシーの言葉に、なるほどとうなずいた。
予定されているルートを中心に、魔の森の演習――つまりは魔物の間引き――は、何度か人員を交代しながら数ヶ月にわたり特に“念入りに”行われた。
予算とかいろいろ大変ではなかっただろうかとサキは申し訳ないような気分になったのだが、なにやら臨時収入(いったいどんな臨時収入だろう? よくわからない……ということにしておこう)もあったということもあり、演習用にプールしてあった余剰分やら緊急性のない案件を来年以降に回すことで浮いた予算やらで問題なくおさまったらしい。
「ずっと現場で指揮をとってらした将軍様がたがお帰りになったということで、皆さまもどこなく気分が上向いてらっしゃるのでしょうね」
「たしか、将軍さまと魔法使いさんたちの長官さまだったっけ?」
話によるとアルスの幼なじみというかご学友というか、ナタンも巻き込んでいろいろやんちゃをしていたとかいう――日本からやってきた初代王さまと、日本から召喚された初代勇者さまの血筋ということもあり、ちょっと気になる人たちなのである。
曲がり角に差し掛かろうとしたところで、角の向こう側からやってくる人影に気づいて端に避けた――はずなのだが、
「あれ、お嬢ちゃんもしかして」
ふたり組のお兄さんのうち、茶色がかった赤い髪の方がサキを見て足を止め、ひょいと脇に手を差し入れて高々と持ち上げた。
「まあ、閣下!」
後ろでメイシーが驚きの声をあげている。
「お嬢ちゃんあれだろ、陛下が連れて帰ってきたっていうお姫さん」
「あ、はい……」
どう反応したものかわからず、首根っこをつかまれた猫のようにだらんとぶら下がったままとりあえず返事をすると、お兄さんは大げさなまでに目を見開いてサキをまじまじと見つめた。
「うわー、そうかぁ……」
「あの……?」
そのまま見つめ合っていると、もうひとりの紫がかった黒髪のお兄さんが、呆れたようにため息をついてサキを赤毛のお兄さんから救い出してくれた。
「やめないかシッド、小さなレディーに失礼だろう」
それからサキを自分の腕に座らせるように抱き直して、お兄さんは優しげな笑みを見せた。
「すまない、どうかやつを許してやってくれないだろうか、ずっと君に会ってみたいと演習の間中うるさかったんだ――はじめましてだな、セニエの新しい姫君。わたしはジェラード、あれはシドニーという」
なるほど、真面目そうな黒髪さんがジェラード・ソーマ氏で愉快そうな赤毛さんがシドニー・アトリ氏。聞いていた通りの印象の人たちだとサキは内心でうなずいた。
「はじめまして。セニエの娘、サキです。どうぞよろしくお願いしますジェラード閣下、シドニー閣下」
サキはジェラード氏の腕に座ったまま、片手でスカートをちょんとつまんであいさつをした。
「うん、よろしくねお姫さま。でも、そんな堅苦しい話し方じゃなくていいから。名前だって、呼び捨てで全然かまわないし」
にこにこと、頭を撫でながらシドニー氏が言うのに、ジェラード氏の顔を見ると彼もうなずくので、サキはお言葉に甘えることにしたのだった。
ちらほら早春に咲く花たちが姿を見せはじめた庭の見える窓際、今日はタニアとの楽しいお茶会(という名のお勉強会)の予定が、タニアが来るまでまだもう少し時間があるからということで、突発的にジェラード、シドニー両氏を迎えてのお茶会が始まってしまった。
「いやね、本人にろくにその気がなかったうえにめぼしい候補っていってもどうも微妙だしで、もう向こう百年は結婚相手は現れないんじゃないかって言われてたくらいの陛下が、いきなりかわいい嫁さん――それもまだほんの子どもだっていうだろ?――これを見つけてきて、見てる周りが砂糖を吐きたくなるくらいのかわいがりようって言うじゃないか」
いったいいつ息継ぎわするのだろうかというくらいによくしゃべりながら、シドニー氏は紅茶に砂糖を二杯、三杯と入れていく。
「で、“外”の“恒例行事”の関係でいろいろ忙しくなって今まで会えなかったけど、今日こうやって実際に会ってみて、まああれだよね、姫さんって九歳?八歳くらい?」
「十一歳になりました」
「うんうん、そっかそっか――なんていうかさ、こう、想像してた以上に犯罪臭いっていうか」
「おい、シッド」
にこやかに、実に率直な意見を述べるシドニー氏の隣で、ジェラード氏は苦い顔をしている。
サキもちょっと困ったように笑った。
「ほんとは、アルスはわたしが大人になるまで待ってくれるつもりだったのを、わたしの方から無理やり押し通したんです」
ぶはっとジェラード氏がむせて、シドニー氏はぽろりと口に運びかけていたケーキを落とした。
「押し通した?姫さんが?」
ええ、もちろん。とサキはうなずく。
「アルスってね、“外”でものすごくモテるの。同業の女の人から冒険者ギルドの受付嬢から、たぶん道具屋や薬屋なんかの行き付けのお店の娘さんなんかも」
「まあ、あの見た目だものねえ」
シドニー氏も納得といった様子だ。
「そうなの、ライバルは山のようにいるの。大人になるまで、とか悠長に構えてるうちに他の誰かに取られるなんて、絶対にごめんだわ」
ケーキに飾られたベリーにフォークを突き刺す。どうしてかはよくわからないが、必要以上に力がこもっていたかもしれない。
「なるほど、それで姫さんは、誰かに取られる前にさくっと確保してしまったと」
「確保って……もう少し言い方というものがあるだろうに」
肩を震わせるシドニー氏にジェラード氏は呆れの混じった視線を向ける。
「いや、だって、我らが幼なじみにして親愛なる陛下――あの難攻不落の陛下が、十歳そこそこの子どもに押し切られたとか想像もしていなかったというか……」
「アルスにろりこ……ちょっと特殊な趣味の人という称号を贈ってしまったかもしれないことについては、申し訳ないと思ってるわ」
と片手を頬にあててため息をつけば、とうとうシドニー氏はお腹を抱えて笑いだし、ジェラード氏のカップが派手に音を立てた。
気を取り直してみんなで目の前のケーキをつつき、新しく紅茶をいれる。
「――ずっと、おふたりにお会いしたいと思っていたんです」
姿勢を正して、サキはジェラード氏とシドニー氏の顔を見上げた。
「会って、感謝と謝罪を、と……」
「姫からそのようなものを受けるようなことは、した覚えもされた覚えもないのだが――」
戸惑いぎみに眉を寄せるジェラード氏と、同じく身に覚えがないと首をひねるシドニー氏に、それはそうだろうとサキは内心で苦笑する。
「ジェラードさまとシドニーさまは、今回のことについてどのくらいご存知ですか?なぜ勇者さまご一行をここにお迎えすることになったのか――?」
「ああ、ナタン――宰相どのから、だいたいのところは聞いている……勇者の召喚に使われた魔力の反動で、周囲の無関係な者を巻き込んだ結果が、陛下をはじめとする“記憶持ち”であると判明、これ以上の被害者を出さないために、勇者の召喚を今後執り行わないよう交渉するのだと」
「いもしない魔王のために召喚されちまったうちのご先祖さまも大概だと思ってたけど、それにただ巻き込まれただけの人たちってのも、どうにもやるせないよね……」
常ににこにこと輝いていたシドニー氏の目も、このときばかりは悲しげに曇っている。
「……わたしのせいなんです」
サキは、膝の上で手をぎゅっと握りしめた。
「わたしが、当代の勇者さまが召喚されるところに居合わせていたことがわかったから、それで巻き添えのことがわかったから――」
「ちょっと待ってくれ」
ジェラード氏が険しい顔でサキの言葉を遮った。
「召喚の場に居合わせた?」
こっくりとうなずき、再び口を開く。
「わたしは、アルスと“同じ”だから」
「同じ――」
「直接“向こう”で会ったことはないけど、“前のアルス”と同じ国、同じ時代に生きていて、それから――」
――召喚に巻き込まれたのだ、と理解したのだろう、二人のサキを見る目はひどく痛ましげだ。
「だから、半分くらいわたしのせいみたいな感じで、この寒い時期に演習なんて大変なことをさせてしまってごめんなさいって、ずっと謝りたかったんです」
そう言ってサキは椅子に座ったままではあるが、丁寧に頭を下げた。
「それと、アルスが――まあ、勇者さまたちもだけど――無事に森を抜けられるようにがんばってくれて、ありがとうございます。これからもあとしばらく、どうかよろしくお願いします。……こんなこと、わたしが言ったところで余計なお世話だってわかってはいるのだけど……」
最後、そう付け加えながら苦笑を浮かべると、左右から二本の腕が伸びてきて、わしゃわしゃと頭をなでられた。
「こんなかわいいお姫さんからお願いされたんじゃ、がんばらないわけにはいかないよな」
シドニー氏は自分にまかせろと胸を叩き、
「我が祖先、ユート王は自らの編み出した魔法が勇者の召喚に悪用されたことを生涯悔いていたと伝えられている。今回の作戦は初代の無念を、それから、大切な友人でもある陛下の無念を晴らすためのものでもあると考えていたのだが……」
ジェラード氏は、椅子から立ち上がるとサキの座る椅子までやってきて膝をつき、恭しくその手を押し頂く。
「もうひとつ、理由が増えたな――これからは、姫のためにも全力を尽くそう」
そうやって頼もしく笑う二人に、サキもはにかんでもう一度お礼を言った。
「ありがとう、ジェラードさま、シドニーさま」
その晩、報告と打ち合わせを兼ねてふたりがナタンと一緒にサキの家にやってきた。
話に聞いていた通り、もしかするとそれ以上のアルスのサキのかわいがりようを目の当たりにしたシドニー氏が大笑いし、昼間にサキとふたりが仲良くお茶を飲んでいたと知ったアルスが拗ねるのを見て、さらに笑いが止まらなくなるシドニー氏、呆れ返るナタン、シドニー氏を叱りつけるもまるで効果のないジェラード氏、おろおろするメイシーと、なかなか混沌とした状況が生まれる。
そんな中サキは、なんだかアルスの友人たちの輪――サキの知らないアルスの時間と姿――に交ざることが許されたようなそんな気がして、アルスの膝の上でにこにこと笑っていたのだった。
盛大に風邪をひいていました、申し訳ないです。
ほら、風邪ひいてるときって、まともに文章を考えられなくなるのよね。お絵かきのほうはそれなりにできるのが不思議ですね。
更新が遅れたお詫びというわけではないけど、活動報告に「もしもお弁当が乙女ゲームだったら」後半戦をあげております。 2018/4/09
もし興味のある方がおられたらどうぞ。
ちなみに前半は2017年 10月11日付け活動報告にて。
中華丼……だと思うよ、たぶん。
めんどうなときに、これに卵スープかなにかをつければなんとなくちゃんとした食事のような気がする。便利なお料理。でも、こむるさん実はちゃんとした作り方を知らないのです。
材料(たぶん二人分):
・キャベツ 100グラム程度(大きい葉っぱ二枚くらい?)
・タマネギ 4~2分の1個
・ニンジン 3分の1本
・シイタケ、ぶなしめじなど 3分の1パック程度
・タケノコ、長ネギなど 50グラム程度(お好みで)
・豚肉 100グラム程度
・ゆで卵1~2個、またはうずらの水煮1パック
・中華スープの素
・塩こしょう
・片栗粉
・ごま油
・ご飯 二人分
作り方:
・材料を食べやすい大きさに切る。キャベツはざく切り、タマネギは繊維にそったスライス、ニンジンは短冊切り。
・熱して油をひいたフライパンにタマネギ、ニンジンを入れて炒める。だいたい火が通ったら他の野菜類、豚肉を入れてさらに炒める。
・中華スープの素を小さじ1~大さじ1入れ、塩こしょうで味を調える。
・水とき片栗粉でとろみをつけ、丼によそったご飯の上に盛り付け、ゆで卵をのせる。
メモ:
・キャベツのほかに、白菜やチンゲン菜などでもよいでしょう。
・キクラゲを入れるときっと本格的(使ったことないけど)。乾燥キクラゲは水で戻すとめっちゃ膨らむので気をつけてね。
・ベビーコーンなんかも中華って感じがしていいよね。
・炒めるときにサラダ油を使う場合は、火を止める直前にごま油少々をたらすとよいでしょう。
・もちろん、エビやイカなど魚介類を入れるとよりおいしくなる。でも我が家ではアレルギー持ちがいるため、少なくともエビは入らないのであった……( ノД`)…
・とろみをつけるときは、まず水を入れてとろみ部分がどれくらいほしいかを調節してから、水とき片栗粉で固さを決めるとよい……かもしれない。
・うずらではなくニワトリのゆで卵を使う場合は、輪切りにするなどしてのせると食べやすいでしょう。
・揚げ麺にかけると皿うどん風。




