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忙しい一日の仕上げは

転生要素や異世界要素のかけらもない作品が、書籍化します!こんなタイトルになりました!って『転生した俺が○○』とか『異世界○○記』みたいなことになっていたときに覚えるコレジャナイ感。

なんでもかんでも異世界に転生させたらいいってわけじゃないんだからさ、編集さんと思ったり、このお話のどこに転生要素をねじ込むの?冒頭に俺は転生者だってひとこと入れておしまい?とか思ったり。


「……ここは?」


 ふわっとした独特の感覚のあと、サキはきょろきょろと首をめぐらす。


 どうやら、ベルーカのお城ではなさそうだ。


 蓮の花のような灯りをいくつも浮かべた池の真ん中にある小島の、石造りの東屋。池を取り囲むように植えられた木々にもランプが吊り下げられているらしく、星空が降りてきたような光景だった。


「今滞在中の城の庭。ベルーカの城だと、どこにいても野次馬が来そうだったから」


 という説明を受けて、なるほどとうなずく。


「でも、勝手にお邪魔しちゃってよかったのかしら……」


「かまわないさ。どうせこんな奥までは誰も来やしない」


 アルスの視線の先を追うと、林の向こうにぼんやりと明るくお城の影が見えた。それから、かすかに音楽が聞こえてくる。


「誰か来たところで、もとからいる招待客くらいにしか思われないさ」


 アルスはベンチにサキを丁寧に下ろし、その隣に自分も腰かける。それから軽く指を振って魔法を発動させ、辺りを暖かい空気で覆った。


「ええと、それで……これ。夜景のきれいなレストランでもなければ給料三ヶ月分でもないけど」


 そう言いながら、アルスは改めてポケットから小さな緑色の指輪を取り出した。


「受け取ってくれないか?」


「――よろこんで。でも、レストランじゃないけど夜景はきれいよ」


 いつかの会話を思い出してくすくす笑い合う。


「サイズ調整の機能はつけてあるからどの指にでもいけるけど、どうする?」


「うーん、ふだん邪魔になってもいけないし、やっぱり左の薬指になるのかしら? それか小指……?」


「じゃあ、まあ気分の問題ってことで薬指にしとくか」


 アルスはサキの左手をとり、恭しく指輪をはめる。指輪は薬指にぴったりおさまった。


 サキは、この世界に来てまで“向こう”の風習にこだわるほど、薬指の指輪というものに夢を持っていたわけではないが、それでもいざもらうと、やっぱりなにか特別なものを感じる。


「うれしいわ、ありがとう――ところでこれ、なんだか魔石……とも少し違う?」


 東屋に取り付けられたあかりに指をかざしながら首をかしげる。そこら辺に転がっているような魔石とは段違いの代物だとは、見ればわかるのだが、しかし“なにか”が違うように感じるのだ。


「そりゃ、ドラゴンの鱗だからな」


 なんでもないことのように答えるアルスに、思わず勢いよく振り向いてしまった。


「ドラゴン?」


「ドラゴン」


 アルスは嘘偽りのない顔でうなずいた。


「どらごん……」


 もう一度指輪をまじまじと観察する。

 

 一点のくもりもなく、透明度が高すぎて黒っぽくも見える深い緑色。今自分たちが着ている服のような――


「……これ、絶対三ヶ月分どころじゃないでしょ」


 とはいえ、王さまのお給料も(あるのかどうかはよくわからない)、高ランクの冒険者が月にいくらくらい稼ぐのかも知らないのだけど。


「なんなら、毎年鱗で作ったネックレスだのなんだのを贈り物にしてもいいぞ」


 そうすれば、四年後にはひと通り揃っているだろうからとアルス。


「そんなに大きな鱗だったの?」


「まあ、たしかに指輪に使う分はたかが知れてるってのもあるけど、なんか妙にドラゴンのやつらに気に入られて、けっこうな枚数もらってるんだよな……」


 どことなく疲れたようなその言葉に、サキは目を瞬かせてアルスを見た。


 たしかに、おじいさんの話してくれたところによると、ドラゴンに力を示して認められた者には、その鱗を与えられることがあるそうだが……。


「あいつら、何年かおきに暇をもて余しては、俺に相手をしろって鱗を送りつけてきやがるんだよ」


「ドラゴンさんの鱗って、前払い制なのね……」


 なんだか、聞いてはいけないことを聞いてしまったのではないだろうか。




 なんとなく会話が途切れて、二人遠くに浮かぶお城を眺める。


「もうあとひと月かふた月もすれば、こんな夜会だらけの旅……? も終わって、魔の森に入るのよね」


「ああ、そうだな」


「そうしたら、こうやって夜に会うこともできなくなるわ」


「なんとか隙を見て、少しでも会いに行けたらとは思うんだけどな」


 魔の森に入れば本格的に夜営が始まって、交代で見張り番などもあるのだろうし、森に点在するという砦を利用するにしても、他のパーティーメンバーに気づかれずに抜け出すというのは難しいだろう。


 サキはしょんぼりとため息をついた。


「魔王討伐なんて茶番、さっさとなくなってしまえばいいのに」


 隣でアルスは苦笑している。


「できるだけ早く終わらせるようにするから」


「早く“勇者さまたちの”アルスじゃなくて、“わたしの”アルスに戻ってね」


 とつい本音をもらすと、アルスは一瞬の硬直のあと、サキの左手を持ち上げて薬指の付け根にキスを落とした。


「約束する――この指輪にかけて誓うよ」


 今度はサキが硬直する番だった。


「――指輪にって、大げさだわ。ドラゴンの鱗に誓うほどのこと?」


 左手を握られたままなので、真っ赤になった顔を両手で隠すこともできない。


「どうせなら、永遠の愛でも誓ってよ」


 それなら、この指輪の持つ魔力にも見合う願いになるだろうから――これはあくまでも照れ隠しであって、別に本気で言ったのではなかったのだが、


「それはちょっと誓えないかな」


 とアルスは困ったような顔で言った。


「今の気持ちを永遠にするなんて、そんなもったいないことできるわけがない。昨日より今日、今日より明日――今この瞬間にも、どんどん好きになっていくんだ」


 そう言ってアルスは、サキの頬にそっと触れる。


「いや、好きなんて言葉じゃ全然足りないな――愛してる、サキ。心の底から愛してるんだ」


 愛おしげに微笑む瞳をじっと見つめ、サキはため息ともつかない声でささやく。


「そう――そうね。そういうことなら、わたしも永遠なんて誓えないわね」


 なにしろ、サキの心の中の宝箱は、アルスへの思いで今にも溢れそうで、専用棚どころかアルス専用の倉庫が必要なくらいなのだから。


「アルスを、愛してるわ」


 重なる唇は、どこか甘かった。





「……うん、でもせっかくだから、指輪に願いごとでもしようかしら」


 少しの間を置いて触れあっていた唇が離れ、二人顔を見合せて照れ笑いしたあと、サキは右手で指輪をくるくる回しながらうなずいた。


「願いごと? どんな?」


 膝が寂しくなったらしいアルスが、サキを横抱きに座らせながらたずねる。


「えっとね、前におじいさまがお話してくれたの。ドラゴンは、存在そのものが魔法のようなものだから、その感情までもが魔法になって鱗に宿るんだって。だから、わたしはドラゴンほどすごい魔力があるわけじゃないけど……それでも、いつかわたしのアルスを思う気持ちがなにか素敵な魔法になって、この指輪に宿りますようにって」


「そうか――そういうのもいいな。俺も手伝おうか」


 アルスはいたずらっぽい笑みを見せた。


「手伝うってどうやって――」


 口がふさがれて、一瞬しゃべれなくなる。


「俺も一緒に願いを込めればその分早くなるだろう?」


「なんだか、方法が間違ってる気がするわ」


 釈然としない顔でアルスを見ると、すかさずその尖らせた口にもう一度キスされた。


「指輪を直接拝むより、このほうがきっと効果がある」


「そんな自信満々に言われても……」


「いいじゃないか、ケーキを切るよりも俺はよっぽど楽しい」


 はたしてこれは共同作業といえるのかしら? と内心首をかしげながら目を閉じる。


 たっぷり十は数えて目を開けると、サキの左手には、わずかではあるがさっきまでよりも確実に黄色がかって見える指輪があった。



いえすろりーた、のーたっち。


現実世界に暮らす皆さまはじゅうぶんお気をつけください。





かぼちゃの煮付け


うちの猫はかぼちゃとさつまいもに目がなくて、食事の準備をしていて先にできた料理をテーブルに置いておくと、うっかり目を離した隙に食べられてしまう……(´・ω・)


あ、料亭とか仕出し料理屋さんとかのお上品な味付けをこむるに期待しないでください。



材料:

・かぼちゃ 適当に

・煮干し ひとつかみくらい

・砂糖 わりと適当

・しょうゆ わりと適当


作り方:

・たねとわたを取り、食べやすい大きさに切ったかぼちゃ、煮干しとかぶるくらいの水を鍋に入れ、火にかける。

・かぼちゃが煮えてきたら砂糖をとりあえず大さじ1くらい加えて少し煮て、しょうゆを同じくらい加えてさらに煮る。必要なら落し蓋をする。

・味をみて濃いなら水を、薄いなら調味料を足す。

・かぼちゃに串がすっと通るくらいになったら、お好みの煮詰め加減で出来上がり。



メモ:


・皮をむく、むかないはお好みで。


・昆布出汁が好きな人は昆布を使おう。


・水加減に自信がない場合、まずかぼちゃをひたひたの水で茹でてから、かぼちゃの頭が見えるくらいにまで茹で汁を捨て、煮干しと砂糖、しょうゆを入れてもよい。


・甘みのバランスは肉じゃがのイメージ、しっかり汁をとばして甘辛く煮付けるかあまり煮詰めず薄味に仕上げるかはお好みで。





まあつまり、ぶっちゃけるとかぼちゃは、そのまま茹でて(蒸して)塩をふるだけでも、甘みとかしっかりあっておいしいお野菜なので、よっぽどひどいことにならない限り、甘かろうが甘さ控えめだろうが、濃い味だろうと薄味だろうとなんとかなるわけです。

そんなわけで、こむるはかぼちゃを煮るとき、これといった分量が決まってないので毎回味が違うという……

いや、これはきっと気楽にお料理すればいいよっていう、かぼちゃさんからのメッセージに違いな――おや、誰か来たようだ。


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