とても忙しい一日
歴史ジャンルを見るとランキングを埋め尽くす○○に転生したけど××する的なやつとか、現実世界異世界を問わず濫立するやり直しループもの。
いつも思います。これって、異世界転生と何が違うの?
それも、特にゲーム転生もの。つまり、主人公が知っている情報がゲームの内容か歴史上のできごとか自分の記憶かってだけで、「これから起こりうるできごとを知っているというアドバンテージを持っている」という点においてまったく変わらないわけです。
あと、異世界帰りの主人公だから異世界転生ジャンルじゃないよ!ってのも、なんとなく腑に落ちない何かを感じるこむるなのでした。
本日投稿2話目
2018/03/04
落書き倉庫に認定証を一枚追加。
工房の職人さんたちが、ずらっと横一列に並んで似合わないことこの上ない笑顔を浮かべ、今一番ほしい魔道具は何かときいてきた。
「いや、なに。次に開発する商品の参考にな」
「そうそう、他の理由なんてこれっぽっちもないんだよ!」
大人な対応を心得ているサキは、にっこりと笑って
「そうねえ、今ほしいものって言ったら……雪や雨で靴が濡れなくなるようにする魔道具かしら」
と答えた。
「でも、こんな子どものわたしでも考えるようなことなんて、もうとっくにどこかが作ってたりしない?」
首をかしげるサキに、職人さんたちは慌てた様子で手と頭を振り、
「いやいや! あくまで参考、参考だからな!」
「そう、参考なんだよ」
やましいことなど何もないと必死でアピールする。
「うん、参考だもんね」
そんな会話が繰り広げられたのが十日ほど前のこと。
朝、お供え用のテーブルに朝ごはんを置こうとして、サキはテーブルに白い鈴のような花を咲かせた木の枝があるのに気づいた。
少しだけ口元に人差し指をあてて考えてから、サキはそれを裏の庭に持っていき、花壇の空いている場所に植えてみた。
みるみるうちに小さな枝はサキの背丈を越えるほどに成長し、鈴なりになったブルーベリーの実をぶら下げた枝を、重たそうにしならせている。
サキと神さまの朝ごはんに、ヨーグルトのブルーベリー添えが追加されることになった。
工房に向かおうと家を出たところを、そろそろ時間だろうと待ちかまえていたマーサに捕まり、毛織りのストールを巻かれ、これは夫のウィルからだとかわいい飾りつきのピンでとめてくれた。
「おばさん、ありがとう!」
ぎゅっとマーサに抱きつくと、うれしそうな顔でマーサもサキを抱き締めてくれた。
「なんてことはないさ。サキちゃんが来てからというもの、あたしたちは毎日楽しくてしかたないんだよ。だから、これはうちのところに来てくれてありがとうのお礼も込めてるのさ」
「ううん、わたしの方こそ。おばさんがいつも親切にしてくれて、ずっともう一人のお母さんみたいに思ってたの。――これからも、そう思っていてもい……おばさん、くるしい」
今日は、いつもより出発が遅れてしまった。あと、なぜか真新しいストールが、ほんの少し塩っぽくなった。
工房では、いつかのようにずらっと横一列に並んだ職人さんたちが、後ろ手に何かを隠すようにして立っていた。
「嬢ちゃん、誕生日おめでとう。これは俺たちからの、その……まあなんだ、誕生日プレゼントってやつだ」
照れくさそうに渡された小さな箱の中には、少し大きめのイヤリングといった感じの、クリップ付きの魔石がふたつ入っていた。
「驚いたか、サキ坊。実はな、この前の何がほしいかって質問はな、今日のプレゼントを用意するためだったのさ」
得意げにしている職人さんたちの横で、おかみさんはやれやれとため息をついている。
「実はもなにも、そんなのばればれだったに決まってるだろう、ねえサキちゃん」
サキは、おかみさんの突っ込みへのコメントは差し控え、
「ありがとう、おじさんたち。これ、今履いてる靴にそのまま付けるだけでいいの? 簡単でいいわね。こんな素敵なものをもらえるなんて思ってなかったから、びっくりしちゃった」
と、素直に喜びを伝えた。
サキちゃんも甘いんだから、とおかみさんは苦笑し、職人さんたちはサプライズが成功したと子どものようにはしゃいでいる。
「そうだろう、そうだろう。さらにこいつには、防寒の機能も付けておいたんだぜ」
「サキちゃんが言ってた通り、この手の靴はもうあるんだけどな、たいてい靴と一体型の魔道具でよ。毎日毎日その靴だけ履くってわけにもいかないだろうし、サキちゃんはこれからも大きくなるだろうし。だからよ、好きな靴に付け替えできるようにしてみたのさ」
「ああでもないこうでもないって、デザインを決めるのが一番大変だったよな」
サキはにこにこ顔で、おかみさんは呆れ顔で職人さんたちの説明を聞く。
そんなわけで、サキのブーツには紐の結び目部分に薄いピンク色の石が燦然と輝き、工房の次の開発商品は靴が濡れない魔道具(着脱可能)ということになったのだった。
家に帰ると、一息つく間もなく服を着替えさせられた。今日はいろいろと予定が押しているのだ。
メイシーに付き添われて(この頃、すっかり専属の侍女さんと化している気がする)セニエのお屋敷に行き、ホールに勢ぞろいしたお屋敷の人たちにはじめましての挨拶をする。
お祝いにと、金色の鍵を手渡され案内された子ども部屋は、サキがいつでも自由に使っていいのだと言われた。
お城に戻って、お茶の時間には温室で交流会の子どもたちがお祝いの歌と演奏を披露してくれ――なぜかおじいさんもちゃっかりそこに加わっていた――いつもより豪華なお菓子を楽しみながらたくさん遊んだ。
みんなが帰ったあとは、そのまま立食パーティーになだれ込み、お城の人たちが入れ替わり立ち替わりやってくる。
いつの間にか始まる音楽と歌、そして踊りの輪。主役がお子さまということもあってお酒はないが、みんな楽しそうだ。
「こんなに賑やかで楽しい誕生日ははじめてだわ」
あと、こんなに忙しいのも。
「姫様は踊られないのですか?」
メイシーの質問に、サキは笑って首を振る。
「アルスが泣くからやめとくわ」
「ああ、左様で……」
その光景を想像したのか、メイシーは笑いを噛み殺したようにうなずいた。
特等席に置かれたソファーに座って、踊りを眺めたりお祝いに来る人たちの受け答えをしているうちに外はすっかり暗くなってしまった。
アルスは、夜会があると言っていたので、あと一時間もしないうちに帰ってくる(避難してくるともいう)だろうか。
そんなことを考えていると、タニアに呼ばれた。
「どうしたの?」
「わたくしたち城の者で用意した贈り物を受け取っていただければと思いまして」
それを聞いてサキは目を丸くする。
「もうじゅうぶんお祝いしてもらってるわ」
「最後の仕上げが待っているのですよ」
とタニアは笑い、温室から程近い城の一室にサキを連れていく。
そこには裾に金糸で刺繍された白いドレスと、同じく刺繍付きの深い緑色のマント、櫛やリボンを手にスタンバイしている侍女さんたちが――
「ねえタニア、これって……」
「お気に召していただけましたか?」
アルスが勇者さま一行のお仕事で着ているのと同じ色合い――勇者のお姉さん(とその他)とアルスの服がお揃いなのを、サキが面白くないと思っていることに、侍女さんたちは気づいていたらしい。
少しだけ気恥ずかしさを覚えながらも、サキはこっくりうなずいた。
温室に戻ると、中央のほうに人が集まっている。
「まあ姫様。よくお似合いですわ」
「ああ、本当ですね。陛下もきっとお喜びになりますよ」
出迎えてくれたメイシーとナタンと一緒にそちらに向かうと、さっと人垣が割れた。
「アルス」
サキに名前を呼ばれて、温室の中央の人だかり、その真ん中にいたアルスは笑顔でからだごとサキのほうに向き直った。
「今日は早かったのね」
「大事な日なんだ、当たり前だろう?」
小走りに駆け寄ったサキに、ライムグリーンの目を細めて膝をつき、サキの手を取る。
「誕生日おめでとう――そのドレスは?」
「お城のみんなからのプレゼントですって」
それから、ぐるりと周りを見て、素敵なプレゼントをありがとうとお礼を言う。みんなは、笑顔でうなずいたり一礼を返してくれた。
「そうか。服の白と緑が、黒い髪にもよく合ってるよ」
「ありがとう、わたしもアルスとお揃いね」
そう言うと、アルスは真面目な表情を作ろうとして失敗したような、なんだかよくわからない顔でサキを見た。
「ほんとは、わたしだけがお揃いなのがいいんだけど、勇者さまたちのはお仕事だからしかたないものね」
だから、これで満足ってことにしておくわ、と言い終わるか終わらないかのうちに、サキの足は宙に浮いていた。
「ああかわいいなあ、もう! 俺もサキとだけお揃いなのがいいよ」
サキをすくい上げた勢いで立ち上がったアルスは、ぎゅうぎゅうに腕に力を込めて抱きしめてから、何か小さなものをポケットから取り出そうとしてふと周りを見渡し、
「……ギャラリーがうるさいな」
と転移の魔法を使った。
視界が切り替わる寸前、「あっ、逃げた」という誰かの声が聞こえたような気がした――。
今回のお話はダイジェストでお送りしております。なにせ、とても忙しい日だったので。
というわけで、お弁当検定を受検されたみなさんお疲れさまでした。
認定証は落書き倉庫にてお受け取りください。
ちなみに、追加受検も無期限で受け付けておりますので、お気軽にどうぞ。




