下心と○○
カテゴリーは恋愛なのに微糖とはこれいかに。
それは、こむるがメンタルチキンだからです。
「あ、そうだ」
タルトを渡したところで一緒に作ったマカロンの存在も思い出し、きれいに包んだバニラと木苺のマカロンを取り出す。
「これついでに作ったの。お仕事中にでもどうぞ。もし甘すぎて苦手だったら、誰か好きな人にあげてもいいし」
なにしろマカロンの生地はメレンゲと砂糖で出来ているといっても過言ではない。
「マカロンか、そういえばあんまり食べたことはなかったな」
アルスは包みを“収納”しながらサキに礼を述べる。
「ありがとう、帰ったら試してみるよ。この間からサキにいろいろもらってばっかりでなんだか申し訳ないな。弁当代も払ってないし」
「そんな、気にしないで。ひとり分もふたり分もたいして変わらないの、ほんとよ」
元・奥ゆかしいと定評のある日本人として、お金のやり取りはなんとなく抵抗があるし、それにお弁当をきっかけに仲良くなりたいという下心もあるのだ。
「うん、なんとなくそう言うと思ってたんだよ」
慌てた様子で首を振るサキに苦笑しながら、アルスは、いつの間にか手に持っていたひものようなものをサキの首にかけた。お下げを頭の後ろに巻き付けてリボンでとめた髪型のおかげで、ひっかかることなくすんなりと胸元に納まる。
「アルス?」
「たいしたものじゃないけど弁当の礼にもらってくれないか」
見てみると、それは黄緑色の雫型の石を覆うように銀細工の小さな花とつる草が巻き付いている飾りがついたペンダントだった。
「わ、かわいい。いいの? もらって」
「俺が着けるにはちょっとかわいらしすぎるな」
考えてみれば、こっちに来てから誰かからプレゼントをもらうなんて初めてのことで、思わず声が弾んでしまう。
「ありがとう! 大事にするね。わー、この石アルスの目とおんなじ色なのね、なんだかお揃いみたい」
トップ部分を持ち上げて日にかざしてみたり、手のひらに乗せてまじまじと見つめたり。
「あれ、これガラスとかじゃなくて魔石なんだ。へー、なんか魔法がかかって――ぇえええ!?」
サキは、工房で魔石を作る仕事をしている。
それはつまり、どれくらいの魔石がどれくらいの値段で作られ、そして売られるのか大体知っているということであり――
「ちょっと、ちょっと待って、アルス。こんな高価なもの受け取れないって」
慌ててペンダントを外そうとするのを押し留め、アルスが言う。
「そんな気にするなって、昔練習で作ったやつだからタダみたいなもんだし。たいした魔法も込めてないし」
「いやいやいや、気にするに決まってるでしょ、これ絶対たいしたことあるから」
魔石に込められているのは、持ち主に対する攻撃に反応してちょっとやそっとでは破れそうにない結界を張り続けるという魔法で、さらに、結界の魔法に巧妙に組み込まれていて読み取れなかった機能が隠されているようだ。
「わたしが作ったのそんな高級弁当じゃないから、そもそもどんな高級だとしてもお弁当ってしょせんはお弁当だから」
再度外そうと試みるが、両手をつかまえられ動かせなくなる。
「ちょっと、アルス――」
「俺は、こっちで生まれて今まで暮らしてきた」
手を離してと言いかけて止まる。思いのほか真剣な顔のアルスに、口を挟むのはためらわれたのだ。
「“前の自分”の記憶はあるけどそんなものかと納得してるし、こっちの世界に特に不満もない。――それでも、ちょっとしたことで向こうを懐かしく思うことがあるのもまた確かだ。だから、サキと会って弁当まで分けてもらえて、本当にうれしかったんだ。その気持ち込みってことでもらってくれないか」
「うん――じゃあ、そこまで言うなら一応もらっとく」
ペンダントをかけられるところからの一連のやり取りにサキはどうにも耐えられなくなって、アルスから目を逸らし俯き気味にうなずく。顔は赤くなっていないだろうか。
「あ、でもやっぱりもらいすぎでなんか落ち着かないから、またアルスが森に来るときにお弁当作ってくるね。これ、前払い分だから!」
解決策を思い付いた! とぱっと顔を上げ前払いだと主張する。
期待してると笑うアルスに、なにかに負けたような気がした。
タイトルの答え:下心
ゆで玉子メモ
お弁当のおかずにゆで玉子。塩やマヨネーズもいいけどたまには違った味も楽しみたい。
用意するもの
・殻をむいたゆで玉子1個(ゆで加減はお好みで)
・しょうゆ大さじ1
・みりん大さじ1
つくり方
・鍋にしょうゆとみりんをひと煮立ちさせ、たまごを入れてころがす。
小さなテフロン製のフライパンなどがやりやすいでしょう。
ウズラたまごの水煮を使うのもよいでしょう。
ラーメンの簡易煮たまごにもなります。
ぶっちゃけしょうゆとみりん1対1で煮たり焼いたりしたら大体のものはおいしいおかずになる。