side千鶴――相談は頼れるお兄さんに。
どこまでキャラクターの個性は極端にしても許されるのか問題。
例えば美人でクールなギルドの受付嬢が、かわいいものに目がなくて人が変わったようになるとか、
モフモフをモフモフするためなら全てをなげうってでも……!と人格崩壊するヒロインとか、
VRゲームの誤認識で女キャラに設定されてしまった兄を女装させるためには周りの迷惑など省みない妹とか、
ひたすら料理に執着(作る、食べる、どちらも可)、ひたすらバトルジャンキー、ひたすら周囲からの評価や感情に鈍感とか――
その手のキャラは色々いますが、そういう “極端さ”はどこまで許されるのだろうかと、最近のこむるは思うのです。
とりあえずの個人的なラインは、「その個性によって主人公あるいはその他の登場人物がないがしろにされる、またはただのいじられキャラと化すことがない」、「その個性とその他の性格に著しすぎる落差、激しい違和感を覚えることがない」なわけですが、まあつまりは、その個性にちゃんと“説得力”を持たせましょう、その上で主人公を大切にしてあげましょう、ってことですね。
もちろん、どこまでが許せてどこまでが許せないのかは個人差があることと思うので、あんまり声を大にして言うようなことでもないのだけど。
び、びっくり、した……!
アルスさんってば、神官長様との食事会に向かう馬車の中で、突然「急用が出来た」ってそれだけ言って転移魔法を発動させるんだもの。
“急用”って何なのとか、一体何処からどんな風に連絡が入ったのとか、転移魔法なんて難易度の高い魔法をあっさり詠唱無しでやっちゃうなんて相変わらず凄いですねとか、色々言いたいことはあるけど。
アルスさんって、元々そんなに話してくれる方じゃないし、あと割とフリーダムって言うか我が道を行くって言うか……。
結局、神殿に到着する頃になってもアルスさんが戻って来ることはなく。
そのまま神殿が運営している孤児院を訪問したり、王城に帰って王妃様主催のお茶会に参加したりしているうちに、夜になってしまっていた。
「アルスさん、帰って来ませんでしたね……」
主だった王族の人たちとの晩餐会が終わり、寝泊まりしている客間に戻る途中。
隣を歩いているキースさんも頷いて、
「ええ――ギルドから緊急の連絡でもあったのでしょうか……」
と首を傾げた。さらさらと、銀の髪が肩から流れ落ちる。うーん、美人さん。
わたし達は大陸の西端に位置する国、ブロムステット王国に滞在中。
大陸東の魔の森を目指してるんじゃなかったのか、って? ……うん、わたしもそう思わなくはないんどけどね。
旅立ちの日、わたし達はマリアさんやその他沢山の人達に見送られて城門を――とはいかなかった。
連れて行かれたのは王城の一角にある石造りの一室。わたしが召喚された部屋にどこか似た雰囲気、床には大掛かりな魔法陣。
これは友好国を繋ぐ転移魔法陣で、魔の森の手前までは、これを乗り継いで移動することになるらしかった。
陣の中心に恐々と足を乗せ、周りを取り囲むように立っている魔法使いの人達が呪文を唱えると陣から白い光が立ち上ぼり、次の瞬間には、わたし達は全く別の国の転移魔法陣の間にいたのだった。
……あれぇ? おかしいなぁ。魔王討伐の旅って、イメージ的にもっとこう、もっと、こう…………。
立ち寄った街のギルドで勇者パーティーであることを隠して依頼を受けてみたりとか、逆に隠さずに難しい依頼をお願いされたりとか、魔物の被害に困ってる村を助けたりとか、ねぇ……?
エドガーの説明によると、徒歩や馬車を使っていたのでは時間が掛かりすぎるため、各国に転移魔法陣を使わせて貰うように交渉したのだとか。
国と国の移動が一瞬で完了するなんて、魔法ってほんと凄すぎる。
まあ、その結果としてエスター王国にいたときのように、有力貴族との面会や食事会、夜会なんかで一週間とかその国の城に滞在しなくてはならなくなったけど。やっぱりなんか釈然としないものは残るけど。
それでも、歩くのよりは断然早いし、旅が快適だってのはいいことだし、早ければ春先にも魔の森に入れるそうだし――うん、納得しないと。
流石にエスター王国から魔の森に隣接する国までを一気に“跳ぶ”のは、魔石で補うにしても魔力の消費が洒落にならないということで、まるで二時間サスペンスで時刻表を目を皿のようにしてアリバイを作る真犯人か、はたまたそれを崩そうとする探偵役かと言わんばかりに、魔力運用の効率化を徹底したルートがとられているそう。
だから、こうやって時々逆の方向じゃない?みたいな国も通過しつつ、わたし達は魔の森を目指しているという訳だ。
この感じだと、このブロムステット王国で年越しのパーティーに参加した後、次の国に出発することになりそうかな?
まさに今、そういったことの調整のためエドガーは王城の文官さんとの話し合っているところ……のはず。あと、転移魔法陣に関する話もあるとかで、レオン君も一緒。
夕食が終わって部屋に帰る組と話し合い組とに別れる時、なんだか二人ともとても名残惜しそうに、こっちを振り返っていた。
こんな時間にまで仕事なんてしたくないよね、気持ちはわかるよ、うん。
アルスさんは(暫定)ギルドの仕事、エドガーとレオン君は前述の通り。
だから、部屋の前までキースさんが送ってくれた時。
今しかない、って思った。
「あの、キースさん、もしよければ……」
「――このところ、何に悩んでおられるのか、話して下さるのですか?」
相談したいことがあるのだけど、と言おうとして、キースさんに先回りされてしまう。
「っ……! なん、で……」
驚愕に目を見開く。そんなわたしにキースさんはふわりと微笑んで。
「分かりますよ。貴女を、ずっと見ていましたから。それを打ち明ける相手として、わたくしを選んで頂いたことをとても、とても嬉しく思います」
そんな風に言われて、わたしは真っ赤になりながらモゴモゴと取り敢えず中でお茶でも……と言うしかなかったのである。
わたしが最近ずっと悩んでいたのは『賢者の手記』――相馬さんについてのことだった。
あのあと『賢者の手記』はどうだったかとエドガーに訊かれたわたしは、何だか不思議な感じだったとだけ返した。
躊躇ってしまったのだ。
あの手記を解読できたことを告げたら、エドガーはきっとその内容を知りたがる。あれだけ誇りに思っているご先祖様なのだ、当然だろう。
でも……ベルーカさんみたいに普通の人と変わらない魔族もいた、本当に魔王を、魔族をただ倒すのが正しいのだろうかと、相馬さんは疑問視していた。なんて、いきなり言ってしまってもいいのだろうか、と――。
生まれた時から、“魔族は悪”が当たり前だったところにそれとは真逆の可能性を突き付けられて、驚き戸惑うくらいならまだいい方で、反発されたり、端から話を聞いてもらえないことだって十分あり得るだろう。
そう、わたしはエドガー達やアルスさんから拒絶されるのが怖かった。勇者の癖に魔族に与するのかと、裏切るのか、と。
怖かったから、ちゃんと言わなきゃいけないって分かってるのに、ずるずると先伸ばしにして。
今だって、キースさんなら少なくとも頭ごなしに拒絶はされないはずだ、という打算があってエドガー達がいないタイミングで相談を持ち掛けて。
そんな自分の内心に半ば呆れながら、わたしはキースさんに『賢者の手記』について語ったのだった。
文字の読めない図鑑を眺めるくらいの気持ちでいたら、実は賢者ソーマ・ユートは自分と同じ日本人だったこと。
相馬さんが愛した女性が魔族で、どうやら相馬さんは魔族狩りに追われた彼女――ベルーカさんを探すために初代勇者のパーティーに加わったらしいこと。
勇者を召喚する魔法を生み出す切っ掛けとなってしまったことを、相馬さんは手記の中で心から悔いていたこと。
魔族は本当に倒さなければならない存在なのか、真実をよく見極めてほしいとあったこと――。
全てを聞き終えたキースさんは、呆然とした様子で額に手をやり、「まさか、そんなことが……」と呟いた。
部屋に重苦しい沈黙が降りる。
やがて軽く頭を振って、キースさんは、
「いえ、ですが考えてみれば……ソーマ・ユートを異世界からの稀人とする説は古くから存在したのです」
と苦く笑った。
「え、そうなんですか?」
「ええ。今では異端とされていますが――しかし、そう考えれば、確かに納得出来ることも多い……」
魔族についてどう感じたかまでは分からないけど、相馬さんのことについては信じてくれた……のかな?
「チズル様から、“向こう”の――ニホンのことを色々と伺った時。なんと素晴らしい、と思いました。ソーマ・ユート以来、我々が数千年かけても無し得なかったような高度な教育制度が、福祉政策が……。きっと我々の目指す場所は“そこ”なのだろうと、チズル様との出逢いを神に感謝すると同時に、ソーマ・ユートの先見の明、発想力に改めて感嘆したのです」
「や、でもわたしはそんな社会の仕組みとか詳しくないから……」
あんまり役には立てなかったと言うと、キースさんは微笑んでゆるゆると首を振り、謙遜なさらないで下さい、と慰めてくれた。そして、遠い目をしてひとつ溜め息をつく。
「ですが、違ったのですね。彼は、天才的な発想で様々な改革を行ったのではなく、始めから完成形を知っていた――とはいえ、それを、全く政治形態も違ったであろうこの世界に沿った形に落とし込み、実現させる手腕は見事なものでしょうが……」
しみじみと述べるキースさんに、わたしも神妙に頷く。ほんとに、凄い人だったんだよね、相馬さんって。
「そして――ソーマ・ユートが書き記していたのですね?魔族は真に倒すべき敵なのか今一度考えて欲しい、と」
「はい。それを読んでわたし、もっと考えないといけないって思ったんです。魔族について、もっと知らなきゃいけないって」
強い想いを込めてキースさんを見詰めると、キースさんも真剣な表情で頷いたあと、ふ、と微笑った。
「考えましょう、一緒に。――大丈夫、きっとエドガー殿下達も分かって下さいますよ」
その言葉に、内心どきりとした。
そっか……、わたしが何を不安に思っていたのかキースさんにはすっかりお見通しだったんだ……。
「敵わないな、キースさんには。でも、話を聞いてくれてありがとうございます。お陰でちょっと、勇気が出た……かな?」
ほっと気が抜けて、へにゃりと笑うと、何故かキースさんは口元を手で覆って視線を逸らしながら、何事か呟いた。
「いえ、人々の悩みに耳を傾けるのもわたくしの務めですから……。それに、その笑顔を独り占め出来るというのは役得でもありますし……」
「……?」
後半の方、よく聞こえなかったけど、何て言ったのかな?
わたしはこてん、と首を傾げた。
ハチミツかぼすの思い出
風邪の引き始めにハチミツかぼす。たまにハチミツを入れすぎたり味が薄かったり。それもまたよい思い出である。
材料:
・かぼす 輪切りひと切れ(あまり薄すぎない)
・ハチミツ 大さじ2分の1~1くらい
作り方:
・かぼすとハチミツをマグカップに入れて沸騰させたお湯を注ぐ。
・かぼすをスプーンの背で押しつぶすようにしながらよく混ぜる。
・やけどに気をつけて飲む。
メモ:
・ぷかぷか浮かんでくる種に注意!
・もちろん絞り汁を小さじ1~2ほど使うでもよい。でもまるごとのかぼすがあるなら皮の風味もやっぱり欲しい。
・もちろんレモンでも可。っていうかレモネードだよね、これ。……しょうがないんです、九州方面の親戚とか知りあいとかいたら箱で送られてくるんです、かぼす。
・市販のレモン果汁を使うときは、かなりすっぱいので量を半分にするとかしましょう。
・もし自家製のカリン酒(自家製でなくても可)があるなら、少し加えると香りよし喉によしでなかなかおすすめ。お子に飲ませるときは、事前にアルコールを飛ばすとか、お酒じゃなくてシロップを使うとかしましょう。
みなさま、この季節風邪にはじゅうぶんお気をつけください。




